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28 本題

「むしろこちらが本題だ。あの不完全な召喚陣の破棄を推奨する」

「不完全……ですか?」

「欠陥品だな。妾が召喚されたのが何よりの証拠だ。自分達の手に負えない者すら召喚する。更に言えば人格も無視。何も召喚されるのが善人だけとは限らない」

「私個人としては破棄したいところですが……」


シュテルは召喚陣の欠点を指摘し、破棄させようとする。

だが『そうですか、じゃあ破棄します』とはいかないのだこれが。

この国だけの問題とは言えない問題だからだ。勇者は魔王を倒す。今は勇者がいるからいいが、今後どうするのだと言う問題が。

約2000年前からの伝統とも言える。


「そもそもこの世界の住人が魔王を倒せばいい話だ。君達からしたら勇者召喚の重要な装置かも知れないが、我々からしたらただの誘拐装置だ」

「世界を魔王から護るためなのだから仕方あるまい!」

「……こいつはあれか、勘違い野郎か」

「そのようですね。話すだけ無駄かと」

「ふーむ……召喚陣の破棄というお願いはダメか」

「この国だけでなく、他国にも影響があるような内容ですからね……。すぐにと言うのは難しいかと……」

「そうか、では穏便な方向は失敗したので壊すとしようか」

「『えっ!?』」

「え? 貴様らがやらんのなら妾がやるだけだからな。君達の答えは別にどっちでも良いのだ」

「そんなことしたらいくら勇者と言え極刑だぞ!」

「できるものならしてみろ。君達に妾を捕まえることが可能かな?」

「指名手配は免れんぞ! この国だけで無く全国でだ!」

「それも別に問題はないぞ。どこかに転移して姿変えれば終わりだ。精神生命体である我々には何の問題にならない」


片腕を前に出してグニグニとした触手みたいな形に変え、見せた後戻す。


「だからあの召喚陣は止めろと言っているのだ。現にこうして君達にどうしようともない相手が召喚されているではないか。召喚陣を破棄するだけで良いと言っているのだぞ? 召喚された時点で皆殺しにされなくて良かったな?」

「目的は召喚陣の破棄……ですか」

「そうだ」


考える王妃だが、先に釘を刺しておこう。

召喚陣に関して茶番に付き合うつもりもない。


「言っておくが、すぐにだ。更にそれ系統の資料も含めた全てを完膚なきまでに」

「そ、それは……」

「どこかに写して保存、妾がいなくなった後に修復……そんな事させるとでも? そんな事子供でも思いつく」

「ではせめて、会議を開くので後日……」

「断る。今すぐに決めろ。聞かれているだけマシだと思え。この件に関して譲ることはない。召喚陣が『どう無くなるか』の違いでしかない」


先程のスタンピードとはシュテルの雰囲気が違い、今回は有無を言わせぬ状態である。正直王国側に選択肢がないと言える。


「ああ、一応言うが……これは勇者達に一切関係はない。妾の上司からの指示だ。『召喚陣を破壊するように』とのな。妾もそれに同意見だ。よって『絶対に破壊する』。欠点を指摘し破棄させようとした『お願い』も無駄だったようなのでな」

「上司……?」

「そう、上司だ。あんな世界を破壊するふざけた物を残しておくわけにはいかん。選べ。自分達から破棄するか、妾に壊されるか。選択肢はその2つだけだ」

「世界を破壊する……? 貴女は何を知っているのです……いったい貴女は……」

「先程から戯言を! 王妃様、このような狂人に耳を傾けてはなりません!」

「……良かろう。もう面倒だ。妾の最後の立場を……いや、正体を教えてやろう。後悔しても遅いぞ」


こちらに来てからずっと閉じていた瞳を開きつつ、そう答えるシュテル。

右目は赤、青、黄、緑の4色でカラフルで、左目は銀のオッドアイ。自然の神眼と時空の神眼が微かにではなく、はっきり分かるぐらいに光を発している。


一般的に魔眼とは、瞳が綺麗な程、光が強いほど強力と言われている。

シュテルの右目は万華鏡のイメージが一番近く、非常に綺麗である。左目は銀色だが、白目の部分とは明らかに違い、すぐに分かる。


「『魔眼!?』」

「魔眼ではなく神眼だ」


続いて翼も出す。広げると自分の倍以上でかい純白の3対の翼。

それと同時に神威の開放も行う。生物の本能で分かる格の違い。

神威に当てられた謁見の間にいる者達は全員等しく地に伏せる。


「我が名はシュテルンユニエール。万物の女神。『時空と自然を司る神』。超越神が命ずる。世界を破壊する召喚陣を即刻破棄しろ。でなければ破壊する」

「は……え……? め……がみ……?」

「神族の中でも上から2番目を狂人扱いとは実にいい度胸だ。そして言った通りお願いではなく命令だ。本来地上の生物が何しようが見守るのみで干渉はしないが、世界を破壊する場合は別だ。我が上司、創造神様より言われている仕事だからな」

「はい! 展開が急過ぎてよく分かりません!」

「ふむ……。まあ正直すぐにどうこうと言うわけでもないから、清家に免じて説明ぐらいはしてやるか」


清家は純粋に、よく分からないから知りたいだけだ。だが正直これ、向こうを追い込む追い討ちである。死体蹴りとも言えなくもない。


「まずは改めて自己紹介をしよう。名はシュテルンユニエール。『時空と自然を司る神』であり、あえて言うなら万物神となる。名の由来は星を意味するシュテルン。万物、宇宙を意味するユニヴェール。そして神を意味するエルだ」


星が惑星という意味で自然。万物、宇宙は時空を指す。エルに関しては天使の名前を思い出すと良いだろう。なんたらエル。まあ、ヴェをエに変えただけだ。


「本来、管理世界は10番世界で現人神をしている。精霊達の為に場所を整えたが人類も住み大国となっているな。そこがアトランティス帝国だ。故に女帝でもある。むしろ女神として動くことはほぼ無い。妾の神としての仕事は『世界が滅びそうな時、原因を排除する』だから、世界を滅ぼす召喚陣を破壊する」

「えっと……あの召喚陣そんなヤバい物……なんですか?」

「言葉遣い気にしても今更だぞ。別にそのぐらいで怒りはしない。それはともかく……むしろ異世界召喚があの程度で完璧な物だと思うか? 超級の規模で6メートルの魔法陣だぞ? 異世界召喚があんな城の隅っこでできるわけ無いだろうが」

「はっ……た、確かに……」

「にも関わらずこうして召喚されている。さて、どこにその負荷がかかるか。それは、世界を隔てる次元の壁だ。妾が来た時、その次元の壁がボロボロだったのだ」

「壊れると……どうなるの?」

「知りたいか?」

「えっ……」


まあ、ここまで喋ったのだから、教えないという選択肢がないのだが。自分達が何をしていたか知るが良いさ。清家は関係ないけど。


次元の壁とは所謂土台である。その土台の上に宇宙ができ、惑星ができる。

その土台が壊れたら上に乗っている全てが壊れる。


「家の土台、基礎が壊れたら上の家が崩れるのは当然だろう? 次元の壁とは世界の土台だ」


その世界の土台たる次元の壁を壊すのが召喚陣であり、この世界の神々はその壁が壊れないよう、力の大半を使い補強していた。


「つまり王妃よ。2000年前から神々の加護が減っているのはその余裕が無いからだ。召喚する度に次元の壁は甚大な被害を受ける。次元の壁を治せるのは上司の創造神様か、時空を司る妾のみ。創造神様は神界の一箇所から動くことはできない。そして妾が生まれたのは最近だ」


神々の加護の減少は召喚陣と同時期。それが無関係のはずはない。

神々の加護が減った事により精霊達が減り、世界のバランスが崩れる。それが異常気象などに現れている。正しく世界の悲鳴だ。

次元の壁が崩壊したら世界は滅びる。それこそ"崩壊した星(コラプサー)"のように。魔王云々というレベルではない。


「しかも、次元の壁崩壊による滅びは別世界すらも巻き込む大災厄だ。本来貴様らの意見など無視して皆殺しにしてでも神々が処置するレベルの案件だ。実際今回の召喚対象となった6番世界と10番世界が巻き込まれているからな」

「『えっ、6番世界って俺らの世界だよな?』」

「そうだぞ。ちなみにどうなるかはまだ分かっていない。創造神様が調べ中だ」

「『誘拐犯どころか大戦犯じゃねぇか……』」

「と言うか、神々に喧嘩を売ったも等しい」

「『うわー……』」

「まあ……、幸い妾が生まれた後だったからな。こちらに来てから現在進行系で次元の壁は修復中。最近の揺れが壁修復による影響だ」

「地震じゃないと言ってたのは……」

「うむ、次元の壁修復による空間振動だ。次元の壁(どだい)世界いえがある状態で直してるのだから、当然揺れる。世界いえを気にしないで良いならもっと早く直せるのだが……地割れなどの大災害おきるからな」


複数の世界巻き込んで滅びるぐらいなら、1つの惑星を潰してでも直した方が良いのだが、そこまでは切羽詰まっていない……はず。


「そもそも創造神様はこの世界に魔王なんて作っていない」

「創造神様がこの世界を作ったの?」

「そうだな。1番から10番まである。4番がここ、6番が勇者達の、10番が妾のいた世界だ。始まりの神、創世神、創造神。と同時に破壊神でもあるな。全てを創り、全てを破壊する者。『創造と破壊を司る神』だ。最高神でもいいな」

「創造神様が作ってないってことは……なに、自然発生とか?」

「正解と言えなくもないが、一応理由がある。それは戦争だ。血を血で洗う戦争。憎しみが憎しみを生み、それら負の感情が魔王となった。遥か昔の話だな」

「……あれ、つまり……自業自得?」

「そうなる。戦争が激化すれば当然自然破壊へと繋がる。世界がこれはヤバイ……と生まれたのが魔王だ」

「あれ、でもユニエールさ……様? って最近なんだよね。誰かに聞いたの?」

「さんでも様でもどっちでもいいが……所謂あれだ、世界の記憶。アカシックレコード。過去はそれで簡単にわかる。未来は分からん。あくまで世界の記憶だ」

「ほえー……」

「つまり、世界が自然破壊しまくる奴らを止めるために魔王を産んだ……と?」

「そうだな。だから自分達で解決しろと言っているわけだ。最初からいたならまだしも、我々別の世界の者達がやることではない。関係ないにも程がある」

「自分達の先祖が原因で魔王が生まれた。他世界の人が多少強いからと押し付ける召喚陣を作成。挙句の果てに次元の壁の破壊……」


勇者達が王国の者達を見る目が少々生暖かい。

対して王国側は非常に顔色が悪く、プルプルしている。


「という事で、あれの存在は見過ごせん。貴様らの意思に関わらず破壊は確定だ」

「破棄しましょう……最早選択肢など無いのです。せめて自分達から破棄すると言った方がマシというもの……」

「うむ、その通り。さて、勇者達は戻っていいぞ。後は壊すだけだからな」

「『はーい』」


『腹減ったなー』とか『寝るかー』とか言いながらぞろぞろと出ていく勇者達を見送り、王国の者とシュテル、シロニャン、ヒルデが残る。


「ちなみに……召喚陣の破壊だけで、何の罰がないとは思わない事だ。しっかりと女神の呪いをプレゼントするから泣いて喜べ。まあ、かかるのは一部だけだ。よかったな、ここにいる神が妾で」

「問答無用で殺されていた可能性があったわけですね……」

「まあ、それは召喚陣使った時点である可能性だが……とりあえず破壊するぞ。妾はさっさとのんびりしたい。次元の壁修復に忙しいんだ」

『シュテル、ちょっと来て』

「ここでまさかの呼び出し! ああ、こっち分身体でいいや」

「何か進展あったのでしょうか」


手を出した先にもう1人ウニョウニョとシュテルが生えてくる。

そして、出した方の姿が消えた。


「こちらは変わらず召喚陣の破棄だな。行くぞ」



その後、シュテルの指示により召喚陣に関する資料全て集められ、破棄。

召喚陣の周囲から避難させられ、王城の端に光の柱が立ち、施設が轟音と共に丸々消し飛び騒ぎになった。

そして、異世界召喚魔法は神々より禁忌、禁術と指定される。


更に王国上層部の一部は見事に呪われ、10番世界のアクウェス法国に使用された『常に1番好きな事ができなくなる』呪いがかけられる。

更にツルッパゲでは無く、マダラハゲになる呪いもかけられる。シュテルの言い分は「ツルッパゲじゃスキンヘッドだろ。まだら模様にしてやる」である。


フェルリンデン王国はしばらくバタつくが、国王は女神に呪われたので、呪われていない王妃が女王になり、いずれ第一王子へと譲る……として落ち着いた。

この際他国からの問い合わせも当然来るが、神々により異世界召喚が禁忌とされ、破壊されたとする。そのために少々派手に光の柱で壊したのだ。


『壊したのは女神であり、我々にはどうしようもない。文句があるなら女神様に言ってくれ』というのが王国の言い分である。嘘は言っていない。

信じるかどうかは向こう次第であり、文句あるならあるで構わないが、こっちを巻き込まないでくれ頼むから。という事だ。



神界では、進展があった模様。


一応これで王国側は一段落?

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