第82話 9歳(春)…拗ねるミーネ
王都エイリシェでの生活は、気づいてみるとすでにひと月ほど経過していた。
おれは冒険者ギルド通いを続け、ときどきダリスの商会や冒険者訓練校にいって進捗の確認をするという日々をおくっていた。
ダリスのところの従業員はGM役にだいぶなれ、ちょこちょこシナリオの作成もし始めた。ダリスの娘さん、サリスもGMに興味を持ったらしくシナリオ作りのためのアドバイスをもとめてきたりする。作ったシナリオは主にミーネやティアウルにプレイさせているらしい。
なんだかんだで三人はすっかり仲良くなったようだ。
そんなある日――
「あんちゃん、あんちゃん、とーちゃんが武器できたっていってた!」
ティアウルから伝言をもらい、おれは鍛冶屋『のんだくれ』へと向かった。
「おお来たか! こっちこい!」
相変わらず工房内はやかましく、そしてクォルズの声はでかかった。
おれは外の作業場へ連れだされ、用意してあった品を見せられる。
まずはシア用にと依頼してあった二丁の鎌だ。
デザイン通りに仕上がった芸術品のように美しい鎌。
一体成形で、切っ先から柄尻までのラインは水を感じさせる柔らかさがある。柄の部分には丁寧に刻み込まれた装飾。金属の塊だが見た目ほどの重さがない。思いのほか軽く扱いやすい。
「すばらしい出来ですね」
「鎌なんぞ初めてじゃったがな、そこそこのもんができたわ」
口ではそう言うが、クォルズの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
自分でもなかなかの物と自負しているのだろう。
「とは言え、おまえさんの絵があってのこの出来なんじゃがな。ふと思ったんじゃが、おまえさんちょっと鍛冶に関わってみんか?」
「え? それは……、難しいですね。鍛冶仕事を学ぶ時間がありません」
「いや、別に武器を作れるようになれとは言わん。ようは武器の意匠なんかをやってみんかということじゃ。気が向いたときでいい、思いついた形を描いて、機会があったら見せてくれんか」
「ああ、それなら大丈夫です」
ちょうど冒険の書、その二作目の資料集用に武器や防具のイラストをたくさん描く予定がある。
「そうか。では頼むぞ。それで――、だ」
と、ウォルズはちょっと顔をしかめて言う。
「おまえさんの短剣なんじゃがな」
「どうかしたんですか?」
「うむ、こんなことになった」
と、見せられた短剣を見ておれはきょとんとする。
当初のデザインはサバイバルナイフだったが、クォルズに差しだされたそれはまったく形が違っている。
何と言うかそれは……、ものすごーく細長いクナイのような代物だった。一体成形で刃のところが刺突用のナイフっぽく、柄のところがクナイっぽい。柄頭には輪がある。
「どうしてこんなことに?」
「魔力がこもったものにときどきあることだが、すでにあるべき形が決まっていて、それ以外の形状を受けつけなくなる。そこをなだめすかしてどうにかするのが職人の仕事なんじゃが……、さすがに神鉄ということか、儂ではどうにもできんかった。なんとなく針の面影がある妙な短剣になっちまった」
「……あー、確かに針っぽい」
ちょっとわけがわからないので〈炯眼〉を使ってみることにした。
〈縫牙〉
【効果】色々縫いとめる。
見てもわけがわからなかった。
なんとなく針の影響があることはわかったが……。
「形状からして刺すことに特化した代物だとは思うんじゃがな。しかし特別刺さりやすいというわけでもない。まったくわからん」
クォルズは眉間に皺をよせて首をかしげるばかりだ。
特殊な効果があるようだが……。
まあいい、こういうことを考えつくのはシアが得意そうだから帰ったら聞いてみよう。
「しばらく使ってみます。もしかしたら何かあるのかもしれませんし」
「魔鋼に神鉄じゃからな、何も無いということはありえん。わかったら儂にも教えてくれ。ここまで我が侭な奴は初めてじゃ、気になる」
「わかりました」
その後、おれはクォルズに礼を述べ、シアの鎌と謎のナイフ――縫牙を受けとってクェルアーク家へと戻った。
△◆▽
クェルアークの屋敷へ戻ると、ずっと行方をくらましていた父さんの姿があった。
「ずっとなにしてたの?」
「ん? ああ、ちょっと挨拶回りをしてたんだ。あとお土産をさがしてた。ただなあ、オモチャはおまえが作るし、お菓子とかもおまえやシアちゃんが作ったほうがおいしいだろう? だから色々な道具とか料理のための香辛料とかをな、あらかた買い集めた」
「そうなの。それはいいんだけど……」
「ん? どうした?」
「父さんが行方をくらましていたせいで、ぼくギルドの恐い人に会うはめになったんだけど」
「やっぱりお呼びがかかったか……、うん、よし、そろそろ帰るか!」
そんなにロールシャッハに会いたくないのか。
まあ会いたくないだろうな。
おれも会いたくないし。
ただそれは別としても、そろそろ帰郷してもいい頃だろう。
冒険の書はおれ抜きでも行えるようになったし、冒険者ギルドの依頼歴も必要なことは書き写してまとめた。クォルズに依頼しておいた武器も受けとった。
こうなるともう王都にとどまる必要がない。
弟妹の世話をシアにまかせっきりなのも心配だし……。
あいつクロアやセレスに妙なこと教えてねえだろうな。
「そだね。そろそろ帰ってもいいかもしれないね」
ということでその夜、クェルアーク家の晩餐の際そろそろ帰郷することを告げた。
「もう帰っちゃうの!?」
帰郷の話をすると、ミーネはびっくりしたように声をあげた。
もうって……、もう一月以上たってるんですけどね。
「もうちょっといいんじゃない? あと一ヶ月くらい」
「それはもうちょっととは言わん。そろそろ弟妹が心配になってきたし、やっと父さんも帰ってきたからちょうどいいんだよ」
おれが言うと、ミーネはすごく不満そうに父さんを見た。
「むー……」
「ミーネちゃん、そんな戻ってこなければよかったのに、みたいな顔をされるとおじさん切ないな」
「じゃあわたしもいきたい。クロアとセレスに会いたいもの、再来年にいっしょに王都にくればいいでしょ?」
お嬢さまはなかなかの無茶を言いだした。
「ミーネや、寂しいのはわからんでもないがあまり我が侭を言ってはいかんぞ」
バートランが穏やかな調子でたしなめる。
恩がしゃれにならないことになってるからこれ以上増やすな、と言いたげな顔でもある。
「そうだね。それにミーネがいなくなると、戻ってきたミリーが悲しむよ? それはそれで面白いかもしれないけど」
アル兄さん、その人って婚約者でしょう?
っていうかこの国の姫でしょう?
「むむー……」
不機嫌な顔をしてミーネはしぶしぶあきらめる。
うむ、よかった。
いつかとは状況が違うからな。
妹がミーネの影響で戦士の魂を宿すようになっては一大事だし、シアと妹をとりあって殺し合いにでもなったらかなわん。
「それでいつ帰るの……?」
うってかわって、しょんぼりしたミーネが聞いてくる。
「明日は帰るための準備をして、明後日に出発の予定だよ」
「むー……」
ミーネはきわめて遺憾らしく、すっかりムームー星人になってしまった。
食事も進まず、そこそこで食べるのをやめてひっこんでしまう。
どうやらかなり機嫌を損ねたらしく、その夜はおれの部屋に突撃してこなかった。
さすがに可哀想かとも思ったが、いつまでも居候を続けるわけにもいかんのだ。
しかしまあ、不機嫌なままお別れするのはよくないだろう。
しゃーないな、今夜は徹夜で仕上げるか……。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/01/19
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/05/06
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/12/20




