第800話 15歳(秋)…ドリーム★キャッチャーズ(9/17)
「あの、シアさん、一つお尋ねしたいことがあるのですが……」
ざっとではあるが、おおよそのことをシアが説明し終えたところでサリスが言った。
「はいはい、なんでしょう! 気さくで友好的なこのシアちゃんが、答えられることならなんでもお答えしますよ!」
もうヤケクソになってきたシアに対し、サリスはやや恐る恐るといった感じで尋ねる。
「前に御主人様が幼児退行したことがありましたよね? 私はあれを御主人様が自分の作り出した物語の登場人物にでもなってしまったのだと思ったのですが……、もしかしてあれはこの世界で生きていた御主人様の幼い頃なのではないですか?」
「おおう!?」
すっかりやさぐれていたシアだったが、このサリスの質問には驚いて目を丸くする。
「これは予想外の質問が……。この状況でまさかそこに注目してくるとは思いませんでした。そうですね、サリスさんの言う通りです。――あ、でもあの時わたしが一人で面倒を見ていたのは、なにも独り占めしようとかそういうのではないですからね!? あの時はどうしようもなかったんです!」
「あ、はい。それはわかります」
シアは慌てて取り繕ったが、そんな必要もなくサリスはすんなり納得してそのまま考え込んだ。
聞き分けが良すぎるのもむしろ不気味。
もしかしてサリスの中でヘイトが増大しているのではないかとシアは気が気でなかったが、今はひとまずの説明を終わらせる方が先決だ。
とは言えもう大方のことは話したので、色々とびっくりな話を聞いた皆が落ち着くのを待って彼の捜索を開始したいところ。
それからシアは皆からの質問に応じていたが、次第に内容が彼の話からずれていってここで目にする珍しい物の説明へと移っていく。
「ねえねえ、あれなに? あれなに?」
「あれは馬なしで動く馬車みたいなものですよ」
あれは車――、と簡潔に説明できればいいのだが、そもそも車を知らないためなんとなく理解できる曖昧な表現での回答となる。これは仕方のない事だ。夢の産物とはいえ、現物をちゃんと見てもらっても説明が面倒くさいという事実。これを言葉だけで解説することになったであろう彼の苦労はどれほどのものだったのだろう。いつだか、彼がこの説明作業を千夜一夜に例えたような気がするが、まさにそんな感じでとても果てしなく思える。案外、こうして夢の中であれこれ見てもらう機会が生まれたことに関してだけは、彼にとって好ましい結果なのかもしれない。
そんなことを考えつつ、シアは皆からの質問をさばいていく。
ところが、だ。
「じゃあシア、あれは? あれは?」
「はいはい、あれはクイーン・エイリア――、ってうおおぅう!? なんであんなバケモノが町中を闊歩してるんです!?」
遠くの方にいたヤバい生物兵器。
度肝を抜かれて思わずシアは叫んだが、考えてみればそんなもの、ここが彼の夢の世界であることそれ自体が答えである。
「バケモノ……? こっちの世界って魔物はほとんど姿を現さないんじゃなかったの?」
「いや違うんです、あれはご主人さまの見た……、ってどう説明すれば……! ええと、ここはあっちの世界を模したご主人さまの夢なんです、あれは空想の産物ですけど夢の中なので……、ああもう、ともかくアレは洒落にならないくらいヤバい奴ですから、絶対に近づいちゃいけません!」
そうシアは強く警告したが、だからといってアレだけを警戒すればいいという話ではなかった。
あんなものが存在する、であれば、もっとほかにも色々とアレな感じなのがうろついていてもおかしくはない。
そこで改めてよくよく観察してみると――
「うわぁ……」
やはりおかしなところは他にもあった。
どっかの映画で主役をやっていた人物がちらほらいたり、車道を走る車がコウモリ仕様だったり、過去とか未来へいけるカスタムが施されていたり、喋るドリームカーだったり、資源を求めて荒野を爆走するヒャッハーな改造車だったりと、なるほど、彼の夢の中なのだなと納得してしまう有様だったのだ。
「これはマズいですね……、今はクイーンくらいですが、ほかにも絡んだらヤベえのとかいっぱいいそうです。これでは手分けして捜すというのも……」
何が安全で、何が危険かを皆が判断するのは不可能だ。
ヤバそうな変態に見えるが正義のヒーローだったり、知的で紳士的なオジさんだけど実は人食い殺人鬼だったりと、そんなのは見た目で判断できるものではない。
どうしたものかとシアが考えていると、ふいにジェミナが腕を掴んで引っぱる。そしてしきりに空を指差した。
「シア! シア! 魚! 大きい! 空に! 飛んでる! いっぱい!」
「はい? ――あ、あれですか、あれはどっかで竜巻に巻き上げられて飛んできたんです。ほっときましょう。うかつに近づくと食べられちゃいます。近づいてきたら全力で攻撃です」
「シア、シア、ムキムキがいるぞ! 凄いぞ! 闘士の方がまだ服着てるぞ!」
そうティアウルが指差した先、そこには逞しい肉体の全裸男性が堂々と道を歩いていた。
「あの人は闘士とは無関係なので気にしちゃ駄目です! 絶対に関わってはいけません! ご主人さまの中で神格化されてる場合があります! 下手に近寄ると抹殺されますよ! 好きなだけ真昼のお散歩をさせてあげればいいんです!」
「なあシア、あっちにピエロがいるぜ?」
「ピエ――、あのピエロは駄目なピエロです! 近づいちゃいけません! もし向こうからちょっかい掛けてきたら近くにジョージーって男の子がいないか捜してください! 倒してくれます!」
シアは懸命に関わってはいけない存在について注意を促すが、こんなもの、いちいち説明していては日が暮れる。いや、それどころかさらに日が昇ってもまだ終わらない。
「こんなのどうしたら……!」
べつに夢の中なら死にはしない。しかし場合によってはとんでもなく酷い目に遭う可能性もあるため、無責任に皆を放つわけにはいかなかった。
こうなるともう、いちいち説明しながらの団体行動しかない。
効率が悪いなんてものではなかった。
「シア姉さん、シア姉さん」
「はいはい、今度はどんなクリーチャーですか!? それともヴィラン!? シリアルキラー!? ゴースト!? それとも遊星からのお客さんですか!?」
「いやあの、リアナさんからの提案があるんです」
「提案?」
「はい。リアナさんが言うには、現実で待機しているロアさんと協力して、シアさんの知識を私たちに共有させることができるみたいなんです」
「え、共有って……」
「詳しいことは私ではわからないのですが、私たちが見たものがなんなのかを夢を介してシアさんの頭の中から引っぱり出すみたいです」
「あ、そういう共有ですか……」
つまりは勝手に答えてくれる辞書のようなもの。
何も知識全部がまるっと共有されるという話ではないようだ。これならば無駄に溜め込まれたシアの知識によって、皆の頭がパーンッすることはないだろう。
「危険なものが判断できるようになるので、手分けしての調査も可能になるわけですか……、んー、わかりました。このままでは埒が明きませんからやってください。皆さんもそれでいいですよね?」
このシアの呼びかけに、皆はうんと頷いた。
「ではリアナさん、お願いします」
こうしてコルフィーが処置を要請してすぐ――
『……ッ!?』
シアを除く全員が頭をぶん殴られたようによろめき、そのままバタリと地面に倒れた。
「あれ!? 皆さんどうしました!? 大丈夫ですか!?」
びっくりしてシアが呼びかけると、皆はよろよろと身を起こして一様に頭を押さえた。
「なんだか凄い衝撃があったんだけど……、ってわかる! わかるわ! 見ているものがなんだかわかる!」
具合の悪そうな表情を一変、驚愕に変えてミーネがはしゃぎはじめた。
これは皆も同様で、改めて周囲を観察して感嘆の声を上げる。
「すっげえな……」
「やべえニャ」
「ここが旦那様のいた世界、というわけですか」
「正確には夢の中、ですよ。それと現実とはずいぶん乖離したものも紛れているのですね。なるほど、シアさんが取り乱していたわけです」
「映画……、映画! 何ですもうご主人様は全部知っていたんじゃないですか! ずるい! ずるいです! こんな楽しいこと!」
驚いたり納得したりする者がいる一方で、一名なにやら憤慨していた。
「えー、皆さん、ひとまず関わったらヤベえのがわかるようになったと思います。これなら手分けして調査が行えますね。どうやらここは筋肉に汚染されていないようなので、ある程度は調査する余裕があると思います」
そう言ってシアは目を瞑る。
するとその手にスマートフォンが具現化された。
「皆さんにはもうこれがどういう物かわかりますね? 何かあった場合の連絡はこれでとります。連絡は……、ああ、ちゃんと想像通りになってますね、すぐに通じるようになっています。では」
夢の産物であることを利用し、思い浮かべた相手に繋がるようになった特殊なスマートフォン。ここにさらにそれぞれの居場所がわかる機能――位置情報共有機能も追加して、シアは順番に手渡していく。
「では今から……、そうですね、二時間後、またここに集合です。それまで手分けしてご主人さま、あるいはご主人さまを見つけるための手がかりを探しましょう」
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/08/21




