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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
806/820

第794話 15歳(秋)…ドリーム★キャッチャーズ(3/17)

 やるべき事が決まったならば、あとは行動あるのみ。

 しかし、まず主だって行動しなければならないのはシャロ一人であり、それは彼女以外の面々が下手に手伝おうとすれば効率を落としかねない類のものである。ほかの者からすればこの状況で何もせずただ待たねばならないのは気がじれてもどかしいものだが、大人しく見守るのが最大の貢献とあってはそうせざるを得なかった。

 張りきるシャロがロアとリアナを連れて第二和室を飛びだして行ったあと、残された面々はひとまずこれからどうするかを話し合う。

 シャロの手伝いこそできないものの、ほかにやっておいた方がいいことはある。

 それは眠り続ける彼の看病であったり、彼のことを心配している家族や屋敷の者たちに事情を説明して回ることなどだ。


「では旦那様の付き添いは私がしますので、どうぞ皆さんは休んでおいてください」

「ならば私はアレサさんが御主人様に妙なことをしないか見張るために残ることにいたしましょう」


 そう順番に言ったのは並んで座っているアレサとシャフリーン。

 今日も今日とて、二人は仲が良いようだ。

 彼はアレサに、アレサはシャフリーンに任せることにして退室したシアたちは、ロアとリアナからもたらされた情報をまだ知らない者たちに手分けして説明して回ることにした。

 その過程でマッスル☆フェスティバルの開催を提案したパイシェがひどく責任を感じて「死んでお詫びを……」などとのたまい始めアエリスに締め落とされるといった騒動もあったが、彼の命には別状はなく、そして昏睡についても解決のために動き出したところだと聞いてひとまず安堵することになった。

 またそのほか、『夢操作一号』が完成した暁には庭園を使用させてもらうことになるため、シアが庭園の主であるイールの元へ事情説明に向かった。

 結果――


「???」


 イールは静かに困惑。

 これまでにも色々とあった彼であるが、筋肉が恐すぎて昏睡状態になってしまったため、これを回復させ、同時に世界が筋肉溢れる未来になることを阻止すべく皆で彼の夢へ潜って助けに行くという話はさすがに理解を超えるものであったようだ。


「いや、ま、まあ、ここを使うのはかまいませんよ? ここの魔素をごそっと使われても、そもそも私、魔素溜まり無しで頑張っていた経験がありますからね」


 戸惑いつつもイールは快く了承してくれた。


「それで皆さんはどれくらい眠ることになるんです?」

「それはわかりません。夢の世界で過ごす時間が、現実で短いのか長いのか、目覚めてみないことにはわかりませんから」

「そうですか……、まあ安心してください。皆さんの眠りが長すぎてあれこれ漏らしても私がなんとかしますからね!」

「……」


 なんとも反応に困ることを言われ、シアは思わず黙り込む。

 ありがたいと言えばありがたいが……。

 ともかく、今から飲食を控えることをシアは心に誓った。


    △◆▽


 事情説明が一段落したあと、シアは個人的な用事をすませてから手の空いた者たちを集めて再び第二和室へと戻った。

 またしても彼を囲んでの円陣となったあと、シアは一緒に夢に潜ることになる十一人に対し今から飲食を控えるようにと忠告する。

 始めこそ「どうして!?」とミーネが狼狽するといったことも起きたが、事情を説明したところ――


「!?!!?」


 さらに狼狽。

 さすがのミーネもイールのお世話になるのは避けたいようだった。


「まあそんなわけで、夢に潜る前の段階で注意することはこれくらいですね。では次に本題である、夢の中での注意事項についてです」

「夢の中での注意事項って……、どういうこと?」

「そのままですよ、夢の中で注意すべきことです。これはあらかじめ、ご主人さまの夢に潜る前に話し合っておかなければなりません。何しろ夢の中がどんなところなのか、どうなっているのか、現段階ではまったく予測もつかないのですから」


 ひとまず『夢操作一号』が完成したら夢に潜ればいいという認識であったが、考えてみればそれは為さねばならないことの始まりでしかないのだ。


「とは言え、さすがに夢の中でこれをしては駄目、こうすれば良い、といったことを話し合うのは不可能です。まずそもそも完全に未知の領域ですからね。何がどうなっているのか推測すらもできない世界に行くとなれば……、あらかじめ状況に応じての約束事は決めておいた方がいいでしょう。例えば、まずは合流を優先するとか」

「ふむ、なるほど……」


 と、シアの言葉に納得したのはヴィルジオだ。


「皆で向かうとしても、その夢の中に入ったとき一緒にいるとは限らないわけか。確かに未知の領域でバラバラに行動しても良い結果が生まれるとは思えんな」

「はい。ひとまず合流。これ、簡単な話に思えますが、果たしてそれが可能かどうかもわからないのが現状です。なのでこれからみんなでこういった約束事を考えて決めておこうと思うんです。あらかじめ行動に方向性を持たせておけば、それを前提として合流のために行動することが可能になります」


 このシアの提案は受け入れられ、それから集まった皆であれこれ話し合って堅実な約束事から、突拍子もない約束事まで決められていった。

 果たしてこれが役に立つかどうか。もしかするとまったく意味のない話し合いだったという結果に終わるかもしれないが、それならばそれでいい。ただ漫然と待機し続けるよりはずっといい。

 やがて何も思いつかなくなった頃、シアは何の気なしといった感じで皆に語りかけた。


「まあ色々と考えましたが、結局は夢の世界ですからね、どんな意味不明のメチャクチャが待っていることやら。あ、そうそう、あとこれも覚えておいてもらいたいんですが、夢の世界は夢です、現実ではありません。なのでもし怪我とかしても気にしないでいきましょう」

「どういうことニャ?」

「えーっと、ですね。これはミーネさんやアレサさんはすでに似た経験があるのでよくわかると思うのですが、夢の世界で怪我はしません。したとしても、怪我したと思ってるだけなんですよ。まして死ぬなんてありえない事なんです。死んだとしても死んでません。ぶっちゃけ不死身です。要は気の持ちようです」


 ごく当たり前、特別意識するほどのことでもないようにシアは語るが、実のところシアは夢の世界では無敵であると皆に信じ込ませるためあえてそう語っていた。

 夢の世界とはいえ、その身に何かあれば精神的なダメージはあるのだろう。場合によってはショック死なんて事態に発展する可能性も否定はできない。だが始めからどんな怪我を負っても平気、絶対に死なない、と信じ込ませておけば防げるのではないか、そう考えての言い聞かせであった。


「平気だとは思うんですけどね、一応、ちゃんと認識しておきましょう。というわけで皆さん、わたしに続いて復唱してください」


 急になにを、と皆が戸惑うのもお構いなしでシアは大声で言う。


「夢の中なら、怪我をしても大丈夫! ――さん、はい!」

『……』

「さん、はい!」

『――ゆ、夢の中なら怪我をしても大丈夫!』


 何やら有無を言わせぬものをシアから感じ、戸惑いつつも十一名は声を揃えて復唱した。


「いいですよー、ではどんどんいきますね!」


 どんどんだと……!?

 そう皆はますます戸惑うが――、シアは止まらない。


「死なない死なない、だって夢の中だもの! みつを! ――さん、はい!」

『死なない死なない、だって夢の中だもの! みつを!』


 その後、眠る彼を囲んでの復唱はしばらく続き、その様子は誰がどう見ても怪しげな儀式にしか見えないものであった。


    △◆▽


 こうしてシアは復唱の儀式を続けたのだが……、肝心の、本当に話しておきたいことはどうしても皆に言いだすことができなかった。

 それは彼の夢の世界に、皆に見られて困る物、困る景色があるかもしれないという事――、要は元々の世界のことだ。

 これをあらかじめ知っておくのと、知らないままでいるのでは遭遇した際の心境に大きな差が出ることは明らかである。

 ならば話しておくべきなのだが……。


「ご主人さまはいずれ説明するって言ってたんですよね……」


 自分が告げてしまっていいものか、シアは困り果てていた。

 皆を集める前、シアはまず最初は自分だけ夢に潜らせてもらえないかロアとリアナに確認していたが、いくつかの無視できない要因によって却下されることになった。十二人からさらに絞り込んでの少数精鋭ならまだいいが、シア一人だけというのは駄目らしい。


「リィさぁ~ん!」


 一人で考えても解決策は思いつかず、そこでシアはリィを頼った。

 シャロを除くと、リィはこの問題について相談できる唯一の人物である。


「あー、なるほどな、夢に潜るとその問題があるのか……」

「はい。あるのですよ」


 しかしながら、相談を持ちかけられたリィとて判断に困る話だ。

 見られて困るものが出るのか出ないのか、それすらも不確定であるためアドバイスのしようがないというのもある。


「んー……、出てきたものが誤魔化せる程度なら誤魔化して、どう頑張っても無理ならそのときは説明するって感じでいくしかないんじゃないか? なるべくなら誤魔化して、あいつが目覚めた時にちゃんと説明してもらうってことにすればさ、あいつもきっかけになるだろ?」

「なるほど……、そうですね、そうしようと思います。ありがとうございました」

「どういたしまして」


 こうしてシアはリィのアドバイスによって踏ん切りがつき、皆と一緒にその時が来るのを待つことになった。

 できれば見られて困るものは出てこないでくれるといいなー、と祈りながら。


    △◆▽


 そろそろ夕方が近づいてきた頃、準備が整ったとの知らせを受けシアたち――夢の世界への決死隊は庭園へと集まった。

 さらに屋敷にいた者たちも集まり、ほかにもぬいぐるみや妖精、精霊獣もやってきて、その装置を取り囲む。

 突貫作業で完成した夢操作一号。

 見た目は十二枚の花弁を持つ花を模したような、大きく分厚い金属板であり、その中央には布団ごと運ばれて来た彼が寝かせられていた。


「それでは父上とこの装置を結びつけます」


 ロアが彼の枕元に座り、夢操作一号を介してシアたちが彼の夢へと潜れるよう調整を行う。


「ではコルフィーさん、しばらくお邪魔します」

「あ、は、はい! どうぞ!」


 この間にリアナはコルフィーに憑依。

 これにより、リアナは夢と現実を繋ぐ連絡係となる。


「シャロさん、準備は整いました」

「うむ。では皆の者、いよいよじゃぞ。配置につくのじゃ」


 自分はここ、と決めた花弁に皆が運びこんだ布団を敷き終えたあたりで、その時が来たことをシャロが告げる。

 屋敷の者たちが見守るなか、決死隊の面々は速やかにお布団に入る。

 この時、何食わぬ顔でもそもそシアの布団にもぐり込んだセレスがリセリーに引きずり出されるといった一幕もあったが、準備は概ね問題なく完了した。


「では皆さん、気を楽にしてください。眠りはすぐに訪れます」


 そうロアが言うのを聞いてすぐ――、決死隊の面々の意識はふっととぎれた。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/01/17


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― 新着の感想 ―
[一言] 衰退しちゃった人類、とかの作品の妖精、みたいなチビセクロス達が一生懸命 価値観内の 常識オブジェクト を 筋肉属性オブジェクト にスクラップアンドビルドしているのでしょうか?
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