第58話 閑話…メイド学校の成り立ち
ちょっと先の展開のネタバレがあります。
とくに重要な内容ではないので、気になる方はとばしてください。
大商人ダリス・チャップマンの回想録にはこうある。
「私は彼を天才と思っていたが、このとき、実はアホなのではないかと思った」
メイドという言葉が書物に記されたのはこの回想録が最初である。
ただこのとき、ダリスはメイドというものに懐疑的であり、これを熱に浮かされたように語り続けた彼に対し不安を覚えたようだ。
ダリスはメイドというものをただ有能な使用人としか考えておらず、はたしてそのメイドを育成する学校など成り立つものか、世に必要とされるとは到底思えなかったのである。
そもそも当時、使用人とは親類などの伝手を頼りに、裕福な屋敷へ仕事を求めてやってきた農村出身の少年少女が仕事を覚えていった結果の職業であった。
仕事を学び経験をつんだ者は主人より紹介を受け、より大きな屋敷へと移ることができた。なかには執事、侍女長として出世する者もいたが、ほとんどの者たちはこき使われるだけに終わっていた。
少年が目指すところは執事であるが、では少女は目指すところは侍女長かというと、そうではない。
少女が奉公する目的は働きながら家事や礼儀作法を身につけることであり、つまりそれは花嫁修業にほかならない。
最初から去ることを想定しての奉公。
このことを理解しているからこそ、専門職業としてのメイドというものにダリスは懐疑的だったのである。
結局、ダリスはメイドというものを理解できなかったが、それでもすぐにメイド学校創設に取り組み始めたのは彼がメイドについて熱弁をふるった日と同じ日の夜、披露したその取り組みに深い感銘を受けたことが理由であった。
「あの子はシャーロットの再来だ」
ザナーサリー首都エイリシェへ帰還したダリスはすぐに当時の冒険者ギルド支店長エドベッカ、そして冒険者訓練校の校長マグリフに会い、興奮した様子でそう伝えたとされる。
ダリスは彼の重要性を説き、彼の保護の必要性を訴えた。
彼の近辺警護――、ここでダリスはメイド学校に注目し、表向きは彼の構想するメイド学校でありながら、実際は彼の警護を目的とした組織の設立を計画する。
この計画にはギルド支店長エドベッカのほか、元クェルアーク家当主バートランが参加し、最終的にはザナーサリー王家第一王子の長女ミリメリアに主導権を奪われる結果となった。
しかしメイド学校が速やかに設立されたのは王女ミリメリアの手腕によるものであり、その性質は発案者である彼の構想した純粋なメイドの育成機関から、彼の保護を目的とした秘密機関となり、最終的にはそれを含み、王都エイリシェに滞在するわけありの貴賓の隠れ家となってしまった。
その実態は二転三転しているものの、メイド学校は王家の後ろ盾をえて、無事、メイドという専門職業者を育成する養成機関として設立される。
エイリシェメイド学園はこのようにして誕生したのであった。
※誤字の修正をしました。
2017年1月26日
※文章の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/02/25




