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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
198/820

第196話 12歳(夏)…カレー屋さん

「へいらっしゃい!」

「な、なあダンナ……、一体なにやってんの?」

「なにって、屋台の呼び込みだけど?」

「いやそういうことじゃなくてさ……」


 武闘祭予選三日目――。

 闘技場の外周広場で呼び込みを行うおれを、シャンセル王女は怪訝な目で見つめてくる。

 広場には色々な料理屋台が集まっているが、頼んだものがゆっくり食べられるようテーブルやイスを用意してフードコートのようにしてあるのは我がカレー屋台だけである。

 他にも『レイヴァース卿考案! ベルガミア新名物料理カレーライス!』なんて書かれたお手製のぼり旗やら看板やらもある。

 ここ二日、おれはこのカレー屋台を開くため、料理やら食器の用意やらベルガミア国王にお願いやらと忙しく動き回った。

 そして三日目の今日、こうして屋台を始めることが出来たのだ。

 この屋台で実際に働くのは二日前に知り合った訳ありの獣人たち。

 彼らはこのカレー屋に己の命運を賭けている。

 今後のことを考えると、この武闘祭の間にカレーの知名度を稼いでおきたいところだ。

 しかし――、そろそろ昼食をこの屋台群ですまそうとやってくる人々が増えてきているのだが、なかなか我が屋台に来てくれない。

 旨そうに食べて見せるサクラが必要だろうか、と考えていたところにシャンセルがやってきたのだった。


「まあ色々あったんだよ。どうだ、ちょっと食べてみるか?」

「カレーってなによ?」

「カレーはカレーだ。とにかく食べてもらうしかないな」

「うーん……、いい匂いはするんだけど……」


 シャンセルはちょっと腰がひけている。

 なにしろこれまで存在しなかった料理だ。

 それに見た目がまあちょっと……。

 食べてもらえばわかるんだがなぁ、とおれが思っていると、そこにミーネがふらっと現れた。

 ミーネはおれのすぐ側の席に着き、テーブルをぺちぺち叩きながらさっそく注文をしてくる。


「おすすめをちょうだい! 大盛りで!」

「お、おう」


 よほどお腹がすいているのか、どんな料理か尋ねることすらしない。

 潔すぎてちょっとびびったが、まあとにかく注文がはいった。

 おすすめはオークカツカレーである。


「オーク大、入りャアシタァー、アリャットザイマーッ!」

『アリャットザイマースッ!』


 おれが注文を伝えると、作業している獣人たちがいっせいに復唱。


「なに!? また知らない言葉なの!?」

「いや、そういうわけじゃない、うん」


 それからおれはミーネと、その正面に腰掛けたシャンセルのために水を入れた木のコップをテーブルに置く。


「アイス・クリエイト」


 するとシャンセルは何気ないように自分とミーネのコップのなかに氷を作りだした。


「あら、ありがと。ねえ、シャンセル、これってもっと複雑なものとか作れたりするの?」

「ちょっとしたものならな」

「あの金の像とかは?」

「あのって……、ダンナのあの像か? いや、あそこまで精巧なものはできねえな。ってか出来たとしてどうすんだよそんなもん……」


 まったくだ。

 あの像は帰国したらミーネの部屋の枕元にでも置いておこう。


「ミーネはこれがどんな料理か知ってんのか?」

「ううん、知らないわ。でもきっと美味しいものよ。ね?」


 と、ミーネは期待した表情でいる。


「もちろんだ。おれが予選敗退だったとしても、これを作りだすためだったら仕方なかったとおまえは納得すること間違いない」

「むむむ……!?」


 ミーネの期待値が上昇した。

 いつもなら控えめに発言するところだが、なにしろカレーだ。

 ミーネも絶対に気にいると確信すら抱いていた。


「んー、じゃああたしも頼んでみよっかな。ダンナ、ミーネと同じのを頼むよ。あ、量は普通で」

「アイ! オーク入りャアシッタァーッ、アリャットザイマースッ!」

『アリャットザイマースッ!』


 威勢のいい復唱のため、広場に集まった人々が何事かとこちらに目を向けてくる。

 一応、この騒がしい注文確認は周りの興味をひくという理由があるのである。

 おれの趣味というわけではない。


「で、ダンナ、どうしてこんなことになったんだ? ってかミーネは疑問に思わねえの? 他国に来ていきなり屋台開いてんだぜ?」

「え……? いつもこんな感じよ? 普通じゃない?」

「普通じゃねえよ!?」


 うん、言われてみれば普通じゃないな。

 しかしやらねばならない理由があったのだ。

 まあシャンセル王女も気になってるようだし、オークのカツレツが揚がるまでちょっと時間あるから、簡単に説明するか。


    △◆▽


 武闘祭予選初日――。

 皆と別れたあと、おれはベルガミアの冒険者ギルド中央支店へと向かった。

 そこで妙に歓迎されることになったのだが、なにかと思ったら貴族が利用する中央支店には一体型ウォシュレットが完備されているため、その恩恵に与っている職員としては良い物を発明してくれたと感謝したかったようだった。

 少し世間話をしたあと、おれは保有しているギルド通貨を少しばかりベルガミアの通貨で払い戻してもらった。

 次にギルドで教えてもらった服屋へ向かい、ごくごく普通の庶民のお子さんが着ている古着を買って着替えた。

 それともう一つ、帽子を買った。

 潰れたキノコみたいな――、映画に登場する新聞売りの少年が被っているような帽子である。

 この帽子、獣人の国の品なのでぴょこんと飛び出しがあり耳を覆うようになっているのだが、これはおれにとっては嬉しい誤算だった。

 耳を出すために穴が空いているものや、獣人以外の種族用の帽子もあったがおれはこれを選んだ。

 ケモミミはなくとも、この帽子を被れば一応、獣人のお子さんに見えるからである。

 要は簡単な変装、獣人のなりすましをしたかったのだ。

 小綺麗な服装で、わりとめずらしい黒髪の子供がうろちょろしていたら一発でおれとバレかねない。

 バレた場合、また不可解な讃えられ方をするか、それとも戦いを挑まれるかはわからないが、どちらにしても面倒なので、おれは即座に獣人に紛れてしまうことにしたのだ。

 襲撃者を誘う趣味もないので札は隠し、プチ変装してぶらぶらと王都ピアルクを観光でもするように歩く。

 なんか久しぶりにのんびりしているような気がした。

 出来ればこのままのほほんとしていたいところだが、残念なことにこの祭りの参加者になってしまっているのでそうもいかない。

 いや、正確にはミーネが張りきってしまっているので、特に成果もなく予選敗退となったら超怒るだろうから困る、というだけの話だ。

 それなりに頑張ったところを見せておかなければならないと思うものの、予定していた黒騎士感電作戦は竜皇国の武官によってご破算となった。

 そのため、本戦を目指すためには普通に札集めをしなければならないのだが……、思うのだ、そもそも本戦を目指してどうなるというのか?

 金銀の二人に当たったらまず間違いなく敗退決定になる本戦出場を目指す意味はあるのか。


「なんか理不尽だ」


 理不尽だが――、投げるわけにもいかない。

 これまでおれは発明品を広めて名声値を稼ぐことに注力していたのだが、ちょっと戦闘に関しても取り組む必要があるのでは、と考えを改め始めていた。

 きっかけは訓練校の遠征訓練である。

 金銀くらい強いのが近くにいればよほどのことが起きないかぎり大丈夫だろうと思っていたら、あっさりそのよほどの事が起きた。

 感電させれば大抵の相手はなんとかなるだろう、というおれの甘い考えを打ち砕く出来事だった。

 ミーネにはかなり無理をさせることになったし、シアは普段のアホメイドを投げ打ってまで頑張った。

 おれにもうちょっとなにか……、戦う手段のようなものがあればあそこまでギリギリになることもなかったのではと反省した。

 とは言え、〈針仕事の向こう側〉も〈魔女の滅多打ち〉も、敵と戦うための手段として生みだされたわけではなく、偶然の、そして意地を張った結果の副産物、戦う手段を新たに考え出すとしても、どう考え出せばよいのやらさっぱり見当がつかない状態だ。

 考えながら観光を続け、しばらくしたところでお腹がすいてきたので闘技場へ戻って外周広場の屋台で適当に昼食をとることにした。


※誤字の修正をしました。

 2017年1月26日

※文章の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/23

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/12/20

※さらにさらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/01/25


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