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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
3章 『百獣国の祝祭』編
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第165話 11歳(夏)…精霊門

「そ、そんなわけでね、今日ここにいたのは、ひと月ほどで法衣を仕立ててくれるような凄腕の職人さんに心当たりがないかなって尋ねにきていたの。あと法衣に使えそうな生地はないかなー、とか」


 仕立屋も、出来上がる服のデザインも決まってないのに布だけ買おうとかなかなか無茶な人だ。

 おれたちが来るまで、ラマテックは相当困っていたんだろうな。


「でもそんなとき貴方が現れたわ。これはもうあれよ、善神様のお導き。だからお願い!」


 ティゼリアがまともな仕立屋なら「無理」と口を揃えるであろう無茶をおれにぶつけてくるのは、シアのメイド服が総古代ヴィルクといういかれた代物であり、それを仕立てたのがおれ――装衣の神の祝福持ちと知っているからだ。

 総古代ヴィルクの服は世界に二着。

 一着はシアのメイド服、そしてもう一着は聖都の大神官の法衣。

 聖女なら大神官の法衣を目にする機会もあるわけで、このメイド服は誰が仕立てたという話から芋づる式に色々バレた。

 善神から真偽を見抜く能力を与えられる聖女相手では誤魔化しようがなかったのだ。


「力になりたいとは思いますが……、聖女の法衣なんてぼくでは荷が重いですし……」

「大丈夫! 貴方なら出来る! もし出来がいまいちでも大丈夫! 貴方が作って私が贈るなら、布の真ん中に穴をあけてそこに頭を通して被るだけの代物でもあの子は絶対喜ぶから!」

「どんだけ純真なの!?」


 あ、聖女らしい聖女ってそういうことなのか?

 一般的に聖女という言葉に抱く印象そのままの娘さんなの?

 となると……、これは――


「わかりました。やってみます」


 ちょっとこの人だけに任せるわけにはいかないかー……。


「ありがとぉー! 貴方に善神の祝福がありますように!」

「いやもうありますから」

「あ、それもそうね」

「え?」


 おれとティゼリアの何気ないやりとりを聞いて、ラマテックがぎょっとした声をあげた。

 そう言えば神の加護とか祝福ってすごいことだったっけ。

 よし、素知らぬ顔でやりすごそう。


「あ、それと、これは貴方への指名依頼として後で冒険者ギルドに登録しておくわね」

「いや、べつにそんなことはしな――」

「駄目よー、貴方はもう冒険者なんだから、お仕事に対しての対価はちゃんと要求するようにしないと。それにさんざん仕事に付きあわせておいて、さらに服もタダで作ってもらうなんて出来ないわ」

「んー……」


 ここはティゼリアの顔を立てるためにも依頼として引き受けた方がいいかな。


「わかりました。それでは依頼として引き受けます」


 冒険者としての初仕事が針仕事……。

 いやまあ培った技術を仕事に生かすんだからおかしいことではないんだが……、こんなところまで予想と違ってくるとは。


「よし、作ってくれる人が決まったから次は生地ね! 余裕があれば生地にする糸を取りに行くところから始めたいんだけど……」

「取りに?」

「糸がとれる魔物を狩ったりするのよ」


 そんなの嫌だ。


「なにそれ楽しそう……!」


 でもミーネは食いつく。

 聖女様やめて。

 この子を刺激しないで。

 今はこの子すごく物騒なことになってるから。


「でもさすがにそんな余裕はないから、このお店で用意してもらいましょう。そういわけで店主さん、お願いします」

「あ、あの、ティゼリア様、申し訳ありません。聖女様の晴れのお祝いに贈る法衣に相応しい物となると取り寄せる必要がございます。それにはお時間が……」

「そんなに良い物でなくてもいいのよ? 私の着ている法衣の生地くらいはどうかしら?」

「え……、あの、そちらもかなりの生地でして、それより上の生地はもう準ヴィルクくらいしかないのですが……」

「…………」


 ティゼリアが真顔になった。


「え、先輩そんなこと一言も……、え? え? どうしよう……」

「カナルに直接足を運ばれてはいかがですか?」

「あ……、ああ! そうね! 直接向かえば!」


 ラマテックに言われ、おどおどしていたティゼリアが毅然と立ちあがる。


「ただお邪魔しただけになってしまって、ごめんなさい」

「いえいえ、こちらこそろくにお役に立てず、申し訳ございません」


 ラマテックと言葉を交わし、それからティゼリアはおれたちを見る。


「よし、ちょっと生地を探しに行きましょうか!」


 いやあの、おれたちもここに用があって来たんですけど……。


    △◆▽


 ミーネが生地を選ぶのはまたでいいと言うので、おれたちはティゼリアに連れられてそのまま店を出た。


「それで結局、生地はどうするんです?」

「カナルで探すわ」

「あの、カナルってなんでしょう? 布の市場かなにか?」

「あ、そっか、貴方は知識が極端だったわね。カナルというのは都市の名前よ。ラサロッドという国にある町で、世界で唯一ヴィルキリーが生息しているの。別名、布の都」


 あー、その都市の話は前にちょっとだけラマテックに聞いたな。

 でもこの国の周辺にそんな国あったっけ?


「どこにある国なんですか?」

「えっと……、ここからだと西、百獣国を越えて、瘴気領域を越えて、森林連邦を越えて――」

「めちゃくちゃ遠いじゃないですか!? そこで探すって、辿り着くのに何ヶ月もかかるんじゃないですか?」

「うん? そこは精霊門で飛ぶからすぐよ? 聖女は精霊門の使用許可を持っているの。なにしろ精霊門で世界中の国々を結んだのはシャーロット様だし」


 あっけらかんとティゼリアは言う。

 聖女にそんな権限があるとか知らんですって。


「精霊門で違う国に行くの!? 私も行きたい!」

「よければわたしもお願いしたいです!」


 ミーネが即座に反応し、それにシアが続く。


「ええ、もちろん。一緒に行きましょう」

「やたーッ!」

「ありがとうございまーす!」


 きゃっきゃとはしゃぐ金銀を見てティゼリアは微笑んでうなずく。


「ではティゼリアさん、期限は来月ということですし、急ぐにこしたことはないので近い内にカナルへ向かうということでいいですか?」

「え?」


 日程の確認をしようとすると、ティゼリアはきょとんとした。

 そして言う。


「これから行くのよ?」


 あ、そうだった。

 この聖女様のフットワークは異様に軽いんだった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/12/22


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