第164話 11歳(夏)…あの娘の十五のお祝いに
店主のご厚意に甘えて商談用のテーブルでお茶とお菓子をいただきながらおれは王都に来てからのことを話した。
まず入学式に遅刻したこと。
「ご、ごめんなさいね。貴方たちがいると捗ってしまってつい……」
ばつが悪そうにティゼリアが言う。
遅刻程度ですませるために超頑張ってマラソンしたからな、これくらいの謝罪はもらっても罰は当たらんだろう。
それから入学式でちょっとやらかしたことや、メイド学校で生活し始めたこと、教わることがないので教える側に回されたこと、決闘を申し込まれてお祭り騒ぎになったこと、そして遠征訓練でコボルトの群れに遭遇してこれを討伐したことを話した。
「貴方……、ずいぶんと忙しない日々を送っていたのね……」
「自分でもそう思います、本当に……」
おれの話を聞いたティゼリアはどう反応したらいいものかわからないように苦笑い。
「まあ、こんな感じで現在にいたります」
ティゼリアは細かい状況も聞きたがったので、話は思いのほか長引いてしまった。
おれはお茶を何杯もおかわりすることなったが、おもいっきり商売の邪魔をしているにも関わらず、ラマテックは嫌な顔ひとつせず側に控えて給仕に徹してくれた。
なんていい人なんだろうと思ったが、途中でラマテックもおれの話を聞きたがっていたのだと気づいた。
そのためにわざわざ引き留めて場所を提供したのだろう。
話を聞き終えたラマテックは満足げな顔をしていた。
「予定より早く――、ちょっと早すぎですが、冒険者にはちゃんとなれましたし、本来であれば五年くらいかかるランクにもしてもらえましたからね、苦労した甲斐はあったんではないかと」
しかし、もし事前に「ランクDにしてあげるから王種がいるコボルトの群れと戦ってくれる?」なんて尋ねられたら答えはNOである。
「それでティゼリアさんはどうしてこのお店に? ……調査で?」
それとなく尋ねてみると、ティゼリアはきょとんとしたあと、ゆっくり首を振った。
「ここに来たのは仕事とは別の――、ん? あ!?」
ティゼリアはそう話し始め、ふと何かを思いついたように言葉を止めると、改めてまじまじとおれを見た。
「ああ! そうよね! 貴方、訓練校は卒業したのよね!」
「え、ええ……、はい」
「なら時間に余裕あるわよね!」
「いや時間に余裕があるというわけではないです……よ?」
「ああ、よかった! ちょうどいいところに来てくれたわ!」
聞いちゃいねえよこの聖女様。
嫌な予感がする。
誘拐犯狩りに連れ回されることになったときもティゼリアはこんな感じのテンションだった。
「実はアレサがね、来月に十五歳の誕生日なの! それをもってあの子は正式に聖女に任命されるの!」
ほうほう、そうなのか。
「……アレサ?」
ミーネがこてん、と首をかしげて呟いた。
おれとシアはティゼリアからアレサのことを聞き知っているが、ミーネからすればほぼ初耳だしな。
「アレサってのは、ティゼリアさんの後輩の聖女見習いをしている人のことだよ。アレサは愛称で、正しくはアレグレッサって名前。一昨年おれがもらったシャーロットの小像を彫った人」
「ああ、あの像を。へー、そうなんだ」
あと一昨年くらいに聖都へ行っていたミリー姉さんに妹分にされちゃった人、というのもあるが別に言う必要はないだろう。
アレサは将来を有望視されるお嬢さんで、最も聖女らしい聖女とティゼリアは言う。
見習いながらすでに任務もこなし、その評判から〈浄化の豪炎〉とか〈煉獄のアレグレッサ〉とか二つ名もついているようだ。
うん? 二つ名?
うっ、頭が……。
「あ、そうそう、あの子にはちゃんと貴方があの像にお祈りしてるって伝えたわ。両手で顔を押さえてしばらく床をごろごろしていたわよ。見てもらいたかったなー」
あははっ、とティゼリアは愉快そうに言う。
「意地悪な先輩ですね……」
「あら? 私は良い先輩よ? なにしろ誕生日、そして聖女任命のお祝いに服を贈ってあげようっていうんだから」
「……服? あの、もしかして……、それをぼくに、と?」
「そう! 作って! お願い!」
両手を組んで祈ってくるティゼリアはかなり必死な様子だ。
どうしたものかと思っていたところ――
「あの、ティゼリア様、もう少し事情を説明なさったほうがよろしいのではないでしょうか? 状況がよくわからないままでは、レイヴァース卿も返答しづらいかと……」
ラマテックがやんわりと口を挟んできた。
「あ、そうね。ごめんなさい、ちょっと焦ってしまって。じゃあ簡単にどうして服を贈るのかって話から」
ティゼリアが言うには、一人の少女が聖女に任命される際、彼女の面倒をみていた先輩がお祝いに法衣を贈るという伝統があるらしい。
この法衣はこの先ずっと身につけるであろう大切な代物。
当然ながら、その法衣に使われる生地はそこらの生地ですむはずがなく、自己再生する生き布であることが最低限求められる。
さらに、それを見事な法衣へと生まれかわらせるためには腕のいい仕立屋が必要不可欠だ。
そんなティゼリアの話を聞いて、おれはなんとなく理解する。
これ、時間が足りないとかそういう話だろ!
「ティゼリア様のお話を補足させていただきますと、聖女の任命、その記念に贈るものとなれば相応の生地を用意しなければなりません。これを仕立屋に依頼した場合……、法衣の考案、生地の選択に用意といった準備、そしてその仕立てに半年は必要と言われるのではないかと……」
やっぱりそうだった。
「ティゼリアさん、もしかして忘れ――」
「い、忙しかったの! 忘れていたわけではないの! ただ忙しくって依頼するのが遅れてしまったって言うかなんて言うか……」
目が泳いでますよ、聖女様。
まあ懸命に子供たちを助けていたわけだし、責めるわけにはいかないか。
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/04/15




