第149話 11歳(春)…決着
ミーネとメアリーに作戦を伝えてみると、ミーネ発案により二人は似たようなことを計画し、準備している途中だった。
普段は残念お嬢さまなのに、戦闘となるとやたら頼りになる。
「じゃああと一回だけ頼む」
「まかせて」
へたり込んだ状態でミーネは魔術のスタンバイ。
メアリーはたいまつ、それから大鍋を抱えて移動。
そしておれは――、その瞬間を待った。
やたら長細いクナイのような形状の縫牙。柄頭の輪にワイヤーを取りつけ、その端を腕にぐるぐる巻きに。そして、少しでもゼクスに近い位置で動き出せるようにとゆっくり前へ。
メアリーが広場の外側を移動していくのがたいまつの光でわかる。
そしてたいまつの光が戦い続けるシアとゼクスの向こう側に来たところでミーネは叫んだ。
「〝シア、大きな音を出すから!〟」
ミーネが使った魔術は拳大の石を猛スピードで放つという単純なものだ。
石の砲弾はゼクスへと迫る――、が、側を通り過ぎるだけだ。
一瞬、ゼクスは砲弾に注意を払ったように動いたが、当たらないと見切りすぐにシアへと意識を戻す。
だが次の瞬間だ。
バガ――――ンッ!!
と広場全体に響き渡る強烈な音がした。
放たれた石の砲弾をメアリーが大鍋で受けとめたためだ。
「んぎゃあぁ――――ッ!!」
至近距離で強烈な音を喰らい、同時にメアリーが悲鳴をあげる。
そんな、注意の外からの大音量。
果たしてどちらに驚いたかは謎だが、ゼクスは防衛反応を起こしビクッと身を震わせる。
おれはその硬直に渾身の〈雷花〉を被せた。
カッと光が走り、瞬間的に膨張した空気が衝撃をともなった破裂音を響かせる。
「ガアアアアアァ――――ッ!」
ゼクスが苦悶の叫びをあげた。
「はああぁ――ッ!」
雷撃を浴びて仰け反るゼクス――、その足首を狙いシアが裂帛の気合いと共に鎌を走らせた。思いきり振りかぶっての一撃はもちろん魔技だろう。それでもゼクスの足を斬り飛ばすには至らない。だが深く切り裂き、間違いなく機動力は削いだ。
そしてそこにおれが駆ける。
初めて試す限界を超えての〈針仕事の向こう側〉。
いつだったか、シアは言った。
おれに宿る死神の鎌は紛う事なき神の力。
故に、例え間違いであろうと信じればそれは魔術として発現する。
ならば今は信じよう。
人の脳が通常三割しか使われていないなんて与太話。
残りの七割に未知の能力を秘めているなんて出鱈目。
脳よ。脳よ。
さあ目を醒ませ――、そして死ね。
「針仕事の向こう側」
バツンッと頭の中で何かが弾けたような気がして、途端に視界がめまぐるしく変化した。色が抜け落ち、かわりに明るさが増した。
次いで〈魔女の滅多打ち〉を限界で使用する。
急激な身体能力向上の制御は対処的――、加速した意識で強引にどうにかする。
なにしろ体の反応よりも意識の方がまだ速いのだ。
それまでの意識が鋭くなる覚醒状態ではなく、すべてがスローモーションになるような死に直面しての意識加速。それまでの人生を一瞬にして再生し終えることの出来る脳のオーバークロック。
縫牙を構え目前に迫ったおれにゼクスが気づき、ゆっくりと腕を突き出してくる。
その腕、手のひら目掛けて縫牙を突き出す。
切っ先が手のひらに押し当たる。
だがぐっとへこむだけで刺さらない!
刺さらないせいでおれは慣性に押されて後ろから押し潰されるように体勢が崩れていく。
「――――ッ!」
貫けや!
内心絶叫しながら捻りだした力でさらに押し込む。
と――、
ズドンッ!
ゼクスの手を縫牙が貫いた。
やった、と思った瞬間〈針仕事の向こう側〉が勝手に解けた。
意識の緩急に混乱し、そして強化した体を制御しきれず体勢を崩したおれは突き出されたゼクスの腕をくぐるようにして転倒する。
だがゼクスに突き刺さった縫牙からのワイヤーが腕に巻かれているために転がっていくことはなく、強化状態で突撃した勢いのすべてが右腕にかかった。
「があっ!」
腕が引き抜かれるような痛みを覚え、放つべき雷撃が放てない。
ここでゼクスに攻撃されたらおれなどあっさりと殺される。
助かるためにも雷撃でゼクスの動きを封じなければならなかった。
痛みを堪え体を起こしたとき――
「はああああああああ――ッ!!」
ゼクスの左に立つシアが叫び、両手で握りしめた一本の鎌をゼクスの延髄へと走らせる。
渾身の力を込めた一撃。
だが、それでも首を刎ねることはできず、しかし首の側面をざっくりと切り裂くことには成功した。
即死はさせられなかったが致命傷だ。
首から血を吹きださせるゼクスだが……、なぜだろう、微動だにしない。
おれを迎え撃とうと右手を突きだした状態で固まっている。
「……?」
おれが立ちあがってもゼクスは動かないままだ。
シアも流石に奇妙と思ったのか、攻撃の手をとめる。
不審に思いながら警戒していると、ゼクスに宿っていた仄暗い光が消えうせた。
やはりゼクスは動かないまま。
そこに、たいまつを持った教官に支えられながらミーネもやってくる。
炎に照らされたゼクスは首筋の出血から、左半身を血でべったりと濡らしていた。
「勝ったの?」
ミーネに尋ねられたが、おれもシアもどう答えていいかわからない。
このまま放っておけば失血死だろうが、なぜゼクスは未だに同じ体勢のまま動かないのだろう。
おれはひとまず縫牙を回収すべくゼクスの手から引き抜く。
と――
「……ガハッ!」
ゼクスが動いた。
血を吐き、崩れ落ちて地に膝をつく。
その様子は動いたと言うよりも金縛りが解けて倒れこんだというのが近いような気がした。
そこでハッとする。
縫牙の効果。
色々なものを縫いとめる。
まさにゼクスをその場に縫いとめていた。
つまり刺すのではなく、刺し貫いて初めて本領を発揮するのか。
これはすごい……、のか?
ゼクスの反撃を封じて命を救われたものの、やはり使いづらいと言わざるを得ない。この効果を正しく理解していたとしても、この戦闘が楽になったとも思えないし……、やはり微妙な武器である。
「……ハ、ハハ……」
苦しそうにしながらもゼクスは笑う。
「……こ、声がやンだ。静かだ……」
すでに死の間際、にもかかわらずゼクスは嬉しそうに言う。
ゼクスは地面に手をつき、ゆっくり身を捻っておれに向いた。
すでに戦意は感じられず、穏やかな雰囲気すら感じさせる。
「名、を……、聞こウ、か」
ふざけんな、といつもなら思うところだ。
しかし今は――
「セクロス」
素直に答える。
我ながら締まらないとは思うがおれが悪いわけじゃない。
全部あのアホ神が悪い。
「……ではセクロスよ、我に、何を欲しタかは……知らぬが、持っていクといい……」
名前の濁点なんて貰おうとして貰えるものじゃないんだが……、ここは一つうなずいておいた。
「……我は、眠る……」
おれを見据えていたゼクスが目を閉じる。
「……静かダ……」
最期にそう言い残し、ゼクスは力なく地に伏した。
殺しておいてこう言うのもおかしいが、ゼクスはどこか安らかそうに見えた。
聞こえる声にさいなまれていたのだろうか。
精神を蝕まれていたのかもしれないし、もしかしたら声の主を殺そうと向かっていたのかもしれない。
今となってはもう知りようのない話だが。
ゼクスは死んだが、おれの意識にはまだ痺れのようなものが残っていて安堵や喜びを素直に感じることが出来ないでいた。
おそらくシアも、ミーネもだろう。
そこに離れた場所にいたメアリーがやって来た。
「や、やったわよね? もう平気なのよね?」
おっかなびっくりに近寄ってくる。
普段のシアならフラグだなんだと騒ぐところだろうが、今はさすがにそんな元気は残っていないのか、その場にぺたんと座り込む。
「あー……、疲れましたぁ……」
くたびれきった表情で唸り始める。
「お腹すいたわ」
次いでミーネもその場にへたり込む。
シアは放心状態でミーネはへろへろ。
そんな二人だが、本当によくやってくれたと思う。
二人がいなかったらどうにもならなかった。
二人を見ていたら危機を乗りこえた実感がわいてきて、おれもようやくほっとひと息つけた。
と、そのとき、急に真っ暗になった。
「あれ、たいまつ消えたか?」
「「え?」」
シアとミーネの声が聞こえたと同時、おれの意識は途絶えた。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/02/02
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2023/04/30




