第105話 11歳(春)…あらぶる金とやっかむ銀
新入生たちがすっかり片付いたところで、シアとミーネがやらなくてもいい試験に飛び入り参加した。
良くも悪くも目立っていた二人が試験を受けることを知り、新入生たちは興味津々でその様子をうかがっている。
シアとミーネから五メートルほどの距離をあけ、相対する教官二人はマグリフ爺さんになにか話しかけられていた。
たぶん新入生とは思わず歴戦の戦士と戦うつもりでとやれとか、そんなようなことを言われているのではなかろうか。
マグリフ爺さんが離れ、皆が見守るなかいよいよ試験――と言うかもうほとんどただの試合――が開始される。
「ふむ、それでは……、始め!」
マグリフ爺さんによる開始の掛け声。
と同時にミーネとシアが動いた。
トン、と手にした剣を地面に突き立てたミーネ。
次の瞬間、教官の足もとが土砂を巻きあげて爆発。
巻きこまれた教官は空へと舞い上がった。
一方のシア。
声がかかった瞬間、観客の視線を置き去りに。
皆の視線が追いついたとき、シアはすでに教官の背後へと回り込んでその首に霊銀の鎌をかけていた。
「まいりましたかー?」
「ま、まいった……」
シアの相手をした教官が降参するとほぼ同時、ミーネの魔術によって空へ舞い上げられていた教官が土砂と一緒に落ちてきた。
四メートルほどの高さから地面に叩きつけられた教官は体を起こそうとしたが出来ず、そのままぐったり倒れたままになった。
『…………』
マグリフが開始を宣言して約五秒ほどの出来事。
観戦していた新入生、そしてほかの教官たちは目の前で起きたあまりに一方的な展開に唖然としてしまい声を失っていた。
可愛らしい少女二人がどんな戦いをするのかと思いきや、教官が反撃どころか反応すらままならず倒されるとは想像もしていなかったのだろう。
そんな誰もが驚愕しつつ見つめる先、そこにいる二人は――
「違いまーす! わたしの方が早かったでーす! ほら、わたしはちゃんとまいったって言わせたじゃないですか!」
「あなたの方はまだピンピンしてるじゃないの! まいったとか言っただけで、そのあと襲ってくることだってあるじゃない! 私はちゃんと戦えなくなってるから私の方が早く戦いを終わらせてるわ!」
なんか喧嘩を始めていた。
「あ、まずい……」
おれは次の展開が読めた。
だから叫んだ。
「そこ! まわりにいる奴ら! 逃げろぉぉ――――ッ!」
おれの大声を聞いて二人の試合を観戦していた奴らはいっせいにおれの方を見やり、それからまた二人を見やり、そこでようやく言葉の意味を理解したのだろう、
『う、うわああああ――ッ!』
悲鳴をあげて避難を開始した。
まるで目の前に恐ろしい魔物でも出現したように、慌てふためきながら一目散、必死になって二人から距離をとる。
シアと戦った教官はミーネにやられてまだ動きの鈍い教官を担いで退避。まるで地獄の戦場から戦友を安全な場所へと運ぼうとする兵士のようだ。なんとなくフォレストガンプを思い出した。あれはいい映画だった。
そんな、おれがちょっと現実逃避しているうちに二人の戦いは始まっていた。
「グランド・スニーズ!」
ミーネが叫び、地面を払うように剣を振った。
ミーネの足もとに半円の軌跡が描かれると同時、先ほどとは比べものにならない規模で横一文字に地面が爆発する。
さらに――
「ヴォーパル・ウィンド!」
ミーネが振るう剣の軌跡は風の魔術となり、壁のような土砂の吹きあがりが横に真っ二つになる。
そのコンビネーションは五年前、ミーネがバートランの爺さんと試合するときに使ったものだが……、威力が段違いになっていた。
……シア、大丈夫かな?
「おー、すごいですねー。でも当たらないと意味ないんですよー?」
大丈夫だった。
シアはからかうように言いながらミーネの背後へと降りたつ。
おそらく爆発前に後退して、そのすぐ後に吹きあがった土砂を飛びこえて背後に回ったのだろう。
「くっ!」
すぐさまミーネは振り向きざまに薙ぎはらうが、シアはお見通しとばかりにトントンと軽やかにバックステップ。ミーネに微笑みかけたまま遠ざかる。シアはまだ霊銀の鎌を抜いてすらいない。
「フレイム・バイト!」
剣を掲げたミーネの頭上に炎の塊が出現し、叫ぶと同時にシアめがけて発射された。顎のような炎の塊は遠ざかるシアに食らいつこうと緩やかな弧を描いて襲いかかる。
「だ・か・ら!」
しかし炎の顎が放たれるとシアは後退をやめて体勢を低く――、しゃがみこむように、そして背後へとかかる慣性を引きちぎるように前へと飛びだした。
「当たらないんですよ、それじゃあ!」
シアは炎の顎――その下をかいくぐり真っ直ぐミーネに迫る。
獲物を見失った炎の顎は誰もいない場所へ着弾すると、炸裂するように激しく燃えあがり周囲を地獄に変えた。
『ぎゃああああ――ッ!』
爆発からは離れていたが、吹きつけてきた熱風に炙られた少年少女が悲鳴をあげる。
何人かはその場にへたり込んで……、大丈夫かな。
「――ッ!」
シアがバカみたいな速度で突っこんでくると、おれは反射的に手を出すか、仰け反るかのどちらかだ。ところがミーネはさすがと言うべきか、一歩踏み込み、渾身の突きを放った。
突きは鋭く、たぶんおれなら死んでるが、シアにとってはそうでもない。身を捻って突きを避けると、そのままミーネへ取り付こうとする。が――
「ウィンド・バースト!」
ドゴンッ、と交差する二人を中心として発生する衝撃波。
地面に描かれていく砂の波紋。
ミーネが自分もろとも衝撃波に巻きこむという強引な手段にでたため、さすがのシアもそれは回避できなかった。
が、対処はしたようだ。
二人とも弾き飛ばされたが、ミーネが地面を転がっていったことに対し、シアは体勢を崩しながらもしっかりと着地。
飛ばされた距離がシアの方が長いところからして、おそらくその瞬間、自分で後方に跳んだのだろう。
「なかなか思い切ったことをしますね」
「気づいたらやってたのよ」
ミーネがすぐさま立ち上がり言う。
本能なの?
「そろそろ負けを認めていただけませんか?」
「認めてもいいけど、もうちょっとつきあってもらうわよ」
そう言ってミーネは呼吸を整えて静かに構えた。
あとは剣で――、ということらしい。
なるほど、確かに今のミーネがシアとやり合うにはそれが最善だろう。自らの身体能力と培った技による剣での勝負であれば、シアは予測をつけにくい。なにしろシアはミーネが四大属性の魔術を使うと知ってから、自分ならこうだああだと想像を膨らませていたのだ。これまでの戦いを見る限りシアに内蔵された厨二シミュレーターの予測を超える攻撃をミーネは出来ていない。
それにそもそも、素早いシアに自分の剣技よりも遅い魔術を使ってどうする、という話なのだ。
発動させるためには溜めが必要だし、おまけに叫ばなくてもいいのに無駄に叫ぶサービスっぷり。
まあミーネらしいの一言で終わる話なのだが。
「いくわよ!」
叫び、ミーネが勢いよく飛びだす。
がむしゃらに行ったのか、考えた結果か、どちらにしてもその動きに迷いはなく、剣を担ぐように構えて真っ直ぐにシアへと迫る。
迫り来るミーネに対しシアはその場から動かない。避けようという気配はなく、かといって迎え撃とうという気配すらもない。
ただ素早く腰から霊銀の鎌を――左のリヴァを抜きはなった。
「はああっ!」
気迫をこめ、ミーネが剣を振りおろす。
だが――
「――ッ!?」
チュィィン――、という金属音がしてミーネの体勢が崩れた。
シアめがけて振りおろした剣は横にそれ、つられてミーネの体勢が流れた。
シアは右手をミーネの首にそえ、そしてミーネの足――、流れた体勢を支えようと重心の乗り切った足を払う。
結果、ミーネはシアに支えられながら寝かされるように地面に転がった。
『…………?』
これにて決着。
しかし観戦していた者たちは困惑して誰も声をあげられない。
おそらくほとんどの者がその瞬間に何が起きたのか理解できていない。いや、なんとなくわかってはいるが、意味がわからないのだろう。
おれも初めてあれをやられたとき意味がわからなかった。
シアがやったのは自分に振りおろされる剣に対し、自分も鎌を振りおろし、被せ、引っかけ、そして外に払い捨てるという受け流しだ。
地面に転がったミーネは起きあがらず仰向けのままでいる。
きっとおれも味わった意味不明さによって混乱しているのだろう。
「降参していただけますかー?」
ミーネの傍らにしゃがみこんでいるシアが再度問う。
しばし沈黙の後――
「降参するわ」
負けを認めてミーネはしゃきっと起きあがった。
それから剣をおさめると、シアをがっちり確保して言う。
「あなたって強いのね!」
「え? ええ、ま、まあそこそこは……」
「じゃあもう一回やりましょう!」
「へ!? もう一回ってちょっと!? まだ戦う気なんですか!?」
「もちろんよ!」
「もちろんなんですか!?」
どうやらミーネはシアを気に入ったようだ。
祖父のような圧倒的な格上ではなく、一段上という感じが闘争心を煽るのだろう。
ちょうどいい相手が見つかってよかったな。
いやー、よかったよかった。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/04/19
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/06/26
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/03/30
※さらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/05/31
※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/06/07




