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従姉妹

「あら……?」


 初対面の従兄弟と向き合い、そこで初めて気が付いた。


「なんだ?」

「ごめんなさい? 興味がなかったから、名前とか全然知らないわ。たしか3人いたはずね?」


 正直に謝ると、少年があからさまに不機嫌そうな顔になった。

 いや、ホントにゴメンって。だって、今まで全然接触なかったし、ホントに興味なかったし。


「クエンティン・イングラムの長男のアーネストだ。姉と妹がいる」


 ムッとしながらもちゃんと名乗る。おお、母親の躾がいいらしい。クエンティンじゃ無理だろ。


「グラディス・ラングレーよ」


 私も改めて名乗って、くすりと笑う。


「今まで顔も見せなかったのに、どういう風の吹き回し? お父様から、危険人物との接触に許可でも下りたのかしら、ボクちゃん?」


 パパの許可がなきゃ年下の従姉妹にも会えないような根性無しじゃ、騎士としてどうなんだ? 次のイングラム公爵君。

 私の露骨な厭味に、アーネストは表情を変えない。意外と冷静だ。


「親父は関係ない。俺の判断だ。今までは、おじい様のお気に入りのお前が面白くなくて、見かけることがあっても、距離を置いていた。だが、おじい様の葬儀で誰より悲しんでくれたお前に、つまらないわだかまりが、消えたというか……とにかく、今まで悪かった。反省している」


 今まで完全スルーだったことを、素直に謝ってきた。


 ああなるほど。尊敬するおじい様が、私を特別扱いしてたことが気に入らなかったと。

 たしかに子供としては拗ねもするか。でもギディオン、私がザカライアだって気付いてたから、純粋にただの孫とは扱い違ってもしょうがないんだけどね。知らなきゃ、そりゃ割り切れないか。


「いいわ。私も興味すら持ってなかったから、お互い様ね。ごめんなさい。これからは普通にいとこ同士として付き合えるのかしら?」

「ああ」

「じゃあ、私の弟も紹介しないとね。次のラングレー公爵よ? 年下だけど、あなたより強いわ」


 ふふふ。確実に対等レベルのライバル登場! お互いに対抗心を煽ってやるぜ!


 案の定、負けん気の強そうなアーネストの内心に、火が点いたのが分かる。顔は似てなくても、イングラムの負けず嫌いはしっかり受け継いでるね。


 それにマックスにもいいことだ。レベルの近い同年代のライバルが、今までいなかった。常に側にいるのが高みすぎるトリスタンじゃ、張り合って競い合うこともできないからね。お互いの存在を意識させるだけでも、十分効果的。


「お兄様! 何をしてらっしゃるの!?」


 口を開こうとしたアーネストに、突然甲高い声がかけられた。

 アーネストを小型にしたような、着飾った女の子が、すごい剣幕でやってくる。


 おお、妹登場!


 私と同じ年頃とは思えないほど肉感的なスタイル。もうちょっと痩せたら、将来が超楽しみだ。今着てる服はちょっと可愛い系で、素敵なんだけどあまり本人には似合ってない。私ならあのダイナマイト感をもっと生かすドレスを着せるのに。顔立ちも色っぽい悪女系に育ちそう。マダム・サロメのお色気担当広告塔(ティーン部門)にぜひ欲しい逸材!


「あら、グラディスさん、お久しぶりね。こんなところで壁の花かしら? 相手をしてくれるのはお身内だけなの? お気の毒に」


 少女は、私を見下すように挨拶をしてくる。


 お久しぶり?


「どちらかでお会いしたかしら?」


 素で訊ねたら、少女は目に見えて『キ~~~~~ッ!!!』ってなった。

 おお、リアル『キ~~~~~ッ!!!』。なかなか見れないぞ。その隣で、アーネストが天を仰ぐ。


 ホントに誰だっけ? 私記憶力はいいはずなんだけど、全然会った覚えがない。


「ティルダ・イングラムよ!! 覚えてないとは言わせないわよ!? 私があなたのせいでどれだけっ、どれだけ大変だったことか!!」


 少女、ティルダがかんかんのご様子で怒鳴る。


 ティルダ――ああ!! キアランに教えられた『ティルダ嬢』か!!


 名前を聞かなきゃ思い出せなかった。

 私がザカライアの記憶を思い出す直前のお茶会で、私に意地悪して返り討ちに会った女の子だ。まさか、私の従姉妹とは……。

 ああ、そうか。この子もアーネストと同じで、ギディオンのことで私にヤキモチ焼いてたわけか。


 それにしても……。


「ずいぶんお痩せになったわねえ?」


 率直な感想を漏らす。あまりの変わりっぷりに、全然気が付かなかった。あんなにデ……ふくよかだったのに、今は、ほぼいい感じでダイナマイトバディ予備軍に変貌を遂げている。前の第一形態とは別人だ。私の辛すぎる審美眼に照らしても、もう一息痩せれば、かなりのものだよ?


「あんたのせいでしょ~~~!!!」


 お嬢様とは思えない口調で、ティルダが吼える。


「あのお茶会で、あんたに散々馬鹿にされた屈辱は永遠に忘れないわよ!? あんたに吠え面かかせるために死ぬ気で努力したんじゃない!! ここまで来るのに、私がっ、どれっだけ苦労したか……っ」

「あら? それじゃ、私のおかげで痩せられたのね? 感謝でいっぱいというわけね? でもお礼なんていいのよ。よく頑張ったわね。えらいわ。立派よ」


 ハハハハハ。さすが私!! 記憶が戻ってなかった時ですら、一人の少女の人生向上に貢献してしまうとは!! ちなみに君が痩せようが太ろうが、私には何の興味もないのに、なんで吠え面をかかせられると思ったんだろう? 素晴らしい自意識過剰だ。さすがはグレイスの姪。


「はあああああ!? お礼なんか言うわけないでしょ!? あんたなんかこれで……っ」


 私のおちゃらけは当然火に油を注いだ。君は短気すぎるねえ。そういうのからかうの、昔からめっちゃ好物なんだけど。

 相手が動く前から、すかさず立ち上がる。次の行動は読めてるからね。


 手近のテーブルにあったグラスを、ティルダが手に取る。その瞬間の手元を、スカートを翻しながら蹴り上げた。そんなに高く上げてはいないから、見えても太ももまでだろう。ちゃんと学習能力はあるのだよ。

 それでもアーネストは目を見開いたけど。


「きゃっ!?」


 あんたなんかこれで十分よ、と叫びながら、私に飲み物をぶっかけるつもりだったわけだよね? そのグラスは、わずかに宙に浮き、ティルダのドレスのスカートに赤いシミを作って絨毯に転がった。コントロールばっちりだ!


 はい、飲み物はお口に入れるものですよ。人にぶっかけるものではないので教育的指導です。


「あらあら。イングラム家には、飲み物をスカートに飲ませる習慣でもあるのかしら? 確か以前、私のスカートにも紅茶を飲ませてくださったものね?」


 憎たらしいくらいの『おほほほほっ』、を決めてやる。別に子供相手に根に持ってなんかないけど、忘れてはないからな。まあ、これでチャラにしてやらあ。あ、隣でお兄ちゃんドン引きしてる。


「あんた、よくもやってくれたわね!?」


 はい次の行動も分かってます。ここで魔法使っちゃダメですよ?

 っていうか、この子、魔術師だったのか。さすがイングラムの血筋だけあって、才能はありそうだ。それで努力もせずに増長だけしちゃったかな?


 ティルダが魔力を発動するための集中を、始めるか否かの段階で、真正面ゼロ距離まで詰めた。お互いの鼻が付きそうなくらい間近で、その頬を両手でぎゅっと挟み込む。目の前のタコチュウが笑える。動けないように抑え込んで、ヒールで足をぐりぐり踏んでやった。


「いっ!?」


 集中を乱された魔法使いなんて無力。出鼻さえ挫いてやれば、大した戦闘能力もない私にも劣る。


 逃がしてはやらないよ。君にはグレイスと同じ匂いをかすかに感じる。もっとずっと可愛いものだけど。でもちょっと挑発されたくらいで、こんな席で魔法使う決断なんかするようじゃ、いずれ身を滅ぼすからね。


 グレイスの更生は出来なかったけど、君はまだ間に合う。ギディオンの孫なら、手間くらいかけてやるよ。

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