従兄弟
叔父様の予告通り、今年の社交シーズンには、私個人への招待状がたくさん来たらしい。
去年はギディオンの喪中と、仕事の忙しさで、あんまりパーティー的なものには出席してなかった。今年は
『インパクト』の運営が落ち着いてきたから余裕ができるはずだったんだけど、去年と変わらず忙しい。
余裕ができたから、つい第2工場の設立に奔走しちゃった。だって、ベビー服作りたいんだもん。並行して、マダム・サロメと同じ街区に、ベビー服専門店の準備もしてるとこ。こっちは贈り物にも十分対応する高級志向で行くつもり。
まあ、金と権力と叔父様がいるから、思い立ってから出来上がるまでのスピードが早いこと早いこと。計画立案も設計も建設も手続きも人員の雇用も、あっという間。私、ぶっちゃけやりたいことの意見出してるだけな気がするわ。一社に一人ジュリアス叔父様ってとこだね。専門外なのにちゃっちゃと進めてくれる。
パーティやらお茶会の招待は、叔父様が厳選したものだけ応じてるから、私も無理ないスケジュールで気楽に参加できる。
今日参加したのは、子供も多い気軽な昼の庭園パーティー。ラングレー家と仕事の付き合いが深いとこらしい。
叔父様も一緒だけど、私のエスコートはマックス。最近多い。普段田舎にこもってるから、こういう機会は場慣れする大事な練習場なんだよね。
でも要領いい奴だから、もう全然完璧に振る舞えてる。だったら、私叔父様の方がいいんだけど。
会場に入った瞬間、一斉に注目を浴びた。
ハイハイ、美形姉弟のお通りですよってか。マックスもこれで相当ハイスペックだからな。ご令嬢の眼差しがあちこちから突き刺さる。子供でも女の子は怖いぞ。まあ、そういう対処の仕方も含めての練習だからね。
ぱっと見たとこ、今世での知り合いはいなそう。
こういうのに出席する必然性って、次期当主のマックスなら大切な顔繋ぎの場になるんだろうけど、私にはあんまりないんだよね。若い女の子の目的には、将来の結婚相手捜しとかあるけど、今のとこそれは保留だし。まあ、友達でもできればってとこか。そんなこと言ってると、あっという間に行き遅れそうだけど。
私が出席する一番の目的は、当然流行の調査のため。こういうドレスが一斉に集まる場って、見てるだけで面白い。ここ数年の流行の変遷が一目で分かる。私とサロメの努力の成果が、はっきりと表れてて嬉しいね。
去年庶民レベルで流行らせたオフショルダー、そのドレスを身にまとっている上流婦人が何人かいる。
我らの勝利!! と、叫びたい気分だね。っていうか、内心叫んでるし。
一周目の世界でも、海外遠征行ったら、目しか出せない国の人なんか、髪出すだけでも大事件だったもんね。少しずつ馴染ませて、ここまで価値観変えてこられただけで、大したもんだと思う。まだまだ手は緩めないけど。
かくいう私のドレスは、今日は露出なし。着たいファッションの一つというだけで、別に露出狂ではないからね。ただ、デザインとしては目立つはず。この国ではまだ見ないビスチェドレスだから。本来露出されるはずの部分は、喉元深くから手首の先まで、透けそうで透けなくて、やっぱり透けてる? 感じのレース生地で、体をピッタリ覆って隠している。スカートの丈も長め。見えそうで見えないチラリズムが、逆にそそるというやつですな! 色気のほどは自分では分からんけども。叔父様とマックスには相変わらず不評だった。
緩やかにカールさせたプラチナブロンドの髪をハーフアップにまとめて、ヘアメイクを全体的に可憐な方向で仕上げてみた。グレイス似のクールビューティーも、少しは柔らかくなってるはず。
約束通り、挨拶回りも一緒に付いていく。マックスは多少緊張してたみたいだけど、会った偉い大人は、大体二周目の知り合いだった。努めて気位高めの完璧令嬢を演じてみる。ザカライアとは正反対。誰も気が付くまい。普段から大人に対してはいつもこの態度だから、マックスも慣れたもので、うまくフォローしてくれる。
一通りの顔合わせがすんだ辺りで、音楽が演奏され始める。ダンスも楽しみの一つだからね。王都に来るたびにマックスにはみっちり仕込んでるから、不安はない。
「踊ろう。練習の成果の見せ所だよ」
「おう。見せてやらあ」
マックスも自信満々で応じる。実際、何やってもうまいんだよな。見事にリードしてくれる。身長も釣り合ってるし、すごく踊りやすい。
キアランの場合は、完璧に合わせてくれてる感じがしたけど、マックスは普通にやって勝手に合っちゃう。素で息が合うっていうか。まさに弟って感じで、気楽だ。
「どうだ、完璧だろう?」
「まだ私とだけじゃない。いろいろな人と踊れなきゃ、完璧とは言えないでしょ。他の人とも練習してみれば?」
「その間、お前が一人になるじゃねえか。叔父上も商談でどっか行ったままだし」
「私がこんなパーティーで起こる程度のトラブルに対処できないとでも? 私の面倒はいいから、ちゃんと自分のことをやれって言ってるの。あんた、次の公爵でしょ。社交的なことではお父様は全然役に立たないんだから、あんたがこなせるようにならないと。叔父様に全部任せきりにするつもり?」
ちょっと強めに言う。前から少し気になっていたこと。姉の世話にかまけて、自分のことが疎かじゃ話にならない。ましてこんな昼日中のパーティー会場で、危険なんてあるわけないんだから。
「こういう機会を無駄にしてどうするの。私に張り付いてたら、交友関係が広げられない。全て経験だよ」
若干教師モードの私の説教に、マックスは渋い顔をする。痛いところを突かれている自覚はあるんだろう。いくらしっかりしてても、まだ13歳の少年だからね。ちなみに私は、交友関係を特に広げるつもりはないから例外ということで。
「そんなに心配なら、そこのスイーツコーナーから動かないから」
「絶対だからな?」
「うん。絶対」
何とか言い含めて、送り出した。マックスが一人になると、あっという間に少女の集団が群がり、次のダンスのパートナーと踊りだした。しばらく解放されなそうだね。その女の子たちの親はみんな偉い人だから、下手は打つなよ。
私は約束通り、スイーツコーナーに設えてある椅子に腰を下ろす。別に食べるつもりもないのに、ここにいるのはきついんだけど仕方ない。子供だらけの場所だから、マックスも納得したとこあるからね。ここで大人しく待ってるとしよう。
一人になった途端、周囲の少年少女たちからの強い視線を感じる。無言の私は、人形のように冷たく近寄りがたい雰囲気らしい。さて、誰か来るかな? 同世代の友達ができるのは、悪いことではない。
そもそもここにいる子供は、学園で一緒になるメンツばかりのはずだしね。
内心楽しみにしていたら、早速私の前に、見知らぬ少年がやって来た。
ほぼオレンジ色に近い茶髪に、鳶色の瞳。背が高くて少し年上の、明らかに騎士。この年でマックスレベルかも知れない。
「グラディスだな? 俺が誰か、分かるか?」
敵意はないけど、どこか探るように尋ねられた。私はにっこりと、笑顔で答えた。
「もちろん」
どことなく警戒感を漂わせながら私を見下ろす、見ず知らずの少年。
でも、誰かはすぐに分かった。
「イングラム家の、私の従兄弟ね? ふふふ、お母様似なのかしら?」
その目を真っすぐ見返して、言い当てた。つまりはクエンティンの息子。ギディオンの孫。
クエンティンは地元イングラム領の騎士家の女性と結婚したから、どんな奥方かは知らないんだよね。
この少年に、父や祖父の面影はあまりない。
それなのになんだか、半世紀以上も前、ギディオンと初めて出会った時のことを思い出した。学園の中庭で、座っているギディオンに話しかけた時のこと。ふふふ、あの時とは逆だけどね。




