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懐柔

「おかしいと思ったのよねえ。あなたたちの取り合わせって」


 体にぴったりとしたドレスをセクシーに着こなしたロクサンナが、私とエイダの前に仁王立ちしている。


「この前のアリの時、ジュリアスと義弟君の態度は違和感バリバリだったわね。あれで疑いが深まったの。まるで、あなたの言葉は絶対のものであるかのようで」


 強力な圧力を持った笑顔で、私とエイダににじり寄ってくる。


「今日エイダに確かめようと思ったらいないから、もしかしたらと思って、ここまで跳んできたわけ」


 ああ、こりゃダメだな、とエイダと視線を交わし合う。この子も直感系だもんなあ。


「去年あなたとしたファッションの話、すごく楽しかった。でも、どこか懐かしかった。……よくも1年も騙してくれたわね」


 長身のロクサンナは、私の前にぬうっと立ちはだかる。


「もう、ひどいじゃない、先生!」


 両手を広げて、私をガバッと抱きしめた。まだ小柄な私の体に、力いっぱいぎゅうぎゅうとしがみついてくる。


「……せんせ~」

「バカだね。泣くこたないでしょーが」

「うう~」


 ロクサンナの豊満な胸の谷間に顔を埋めながら、その背中を優しくトントンと叩く。王都中の男性諸氏が羨むこと間違いなし。騎士の力も相まって、窒息しそうだけど、そこを指摘するのはさすがにヤボだね。甘んじて受け入れましょう。


 再会を泣くほど喜んでくれてるなんて教師冥利に尽きるってもの。教え子からの熱烈な抱擁を、しばらく耐え抜いた。苦しくても、すごく嬉しい。いや、でもやっぱ苦しい。あああ、髪型が崩れるじゃないか!?


「こら、バカ力! お師匠様が死んじゃうでしょ!?」


 見かねたエイダがすぐ横から、ロクサンナを叱りつけた。私もぜいぜいしながら、たしなめる。


「ほら、オルホフ公爵! こんなに立派になっても、中身は変わらないの?」

「……先生は、随分と可愛くなっちゃったわよね」


 名残惜しそうにようやく体を離したロクサンナは、改めて私の姿形をまじまじと眺めてきた。そしてあっと目をむく。


「ああ、しかもこのドレス! マダム・サロメの新作ねっ。っていうか、なにそれ!? こんなスタイルのドレス、見たことない!」

「ふふふ。今日に備えて、満を持しての投入だ! バルーンスカートっていうの。可愛いでしょ。上半身はピッタリシャープにして、スカートのふんわりを余計に引き立たせてみたの。本当はもう少し丈を短くしたかったんだけど、それはもう少し後かな」

「ああ、本当に可愛い~。似合う~。お人形みたい~。あんな因業ばばあがこんな可憐になっちゃうなんて、詐欺だわ~」


 おい、それは褒めてるつもりか?


「誰が因業ばばあだ。もうあんたのドレス作ってやらないよ」


 伝家の宝刀を抜く。その一言にロクサンナははっとした。


「ま、まさか……!」

「あんたが会いたがってた、マダム・サロメのデザイナー。私だから。去年からは『インパクト』も立ち上げた」

「きゃ~~~~~!! さすが先生!! 一生付いてくわ!」

「よ~しよし、じゃあ、今日知ったことは、全力で口を閉ざすこと!」

「イエス、マム!!」


 ビシッと、敬礼。いいノリだ。この子は話が早くて助かるね。横でエイダが、冷ややかな目で呆れていた。


 話が付いたところで、ロクサンナが首を傾げて疑問を呈する。


「ところで先生のこと、トリスタンは知ってるの? まさか、自分の娘が先生とか~ウケるわ」

「あいつは特別だから。私が生まれた瞬間から気付いてたらしいね」

「ええ!? 預言者並みですね」

「あはははは、トリスタンらし~」


 預言者のエイダも驚く野生の直感力に、ロクサンナは大笑いした。


「それにしても先生って、転生しても相変わらず人目引くわよね~。ギディオンさんの葬儀なんか、すごかったもの」

「そうねえ。お師匠様、正体を隠したいにしては目立ち過ぎよね」


 教え子二人が、共感して頷き合う。意味が分からず首を傾げる。


「あの時は、何もしてなかったはずだよ? 衣装だって特に目立つってほどのものでもなかったし。ギディオンが死んで、さすがに落ち込んでたからね」


 そんなに目立ったと評されるような心当たりがなかった。

 エイダが苦笑する。


「そもそもあの教会の中で、ラングレー家自体が、別格の存在感でしたから」

「そうそう。銀髪金瞳の美形騎士を10代20代30代と取り揃えて、ガッチリ護られてる嫋やかな深窓のお姫様って感じで、もの凄く注目されてたのよ。見てるだけじゃ、中身が雑な先生だなんて思わないもの」

「あの一角だけ別世界のように耽美な空間になってましたよ」


 予想外の感想に、思わず渋い顔になる。


「そんなの、私にはどうしようもないじゃない」

「美形一族の宿命ですね」


 エイダがおかしなまとめ方をすると、さすがにちょっと不安になってくる。


「ロクサンナが気付いたくらいだから、他にもバレたりしてないかな? 特に魔法陣の出現を察知した辺り、行動が不自然だった気がする」

「私は魔法陣の直前から間近で見てたし、グラディスとエイダの接触を最初から知ってたから繋がったけど、普通は分からないと思うわ。迅速に警戒態勢を取ったジュリアスたちやトリスタンの方が、ぶっちぎりで目立ってたもの。あんな騒ぎの直後で、トリスタンと抱き合って笑ってたとこなんて、ちょっと頭の弱い子なんじゃないかと思ったわよ」

「私も同感です。容姿の点で目立っていただけで、離れて見ていた限り、特別な能力を感じさせる行動はなかったかと。むしろ直前までのか弱いイメージのせいで、怯えて立ちすくんでいたように見えたくらいですし。あの場でお師匠様の無神経な中身に気付いた人はいないと思います」


 二人の保証にひとまずほっとする。一部引っかかるけど。


「ホントに、知った以上はあんた達も協力してよ? 私はこの人生は、のんびり無責任に生きて、趣味に人生捧げる予定なんだから」

「もちろん! 私は先生のドレスの大ファンだから! これからもよろしくお願いします!」


 ドレスにつられて、ロクサンナは全面的協力に賛同してくれた。エイダもため息をついて頷く。


「まあ、ロクサンナを間に挟むことで、私とお師匠様との連絡は円滑になるでしょうね。世間的にもお二人には衣装道楽の共通点が有名ですから、親しくしても疑われたりはしないでしょう。そして私とロクサンナが同級生であることも知られてますから」


 おお、なるほど。その上、サロメ、ソニアに続く3人目の趣味仲間を公にゲットしたわけだ。


「よし、ロクサンナ。これからもあんたにはマダム・サロメの広告塔やってもらうから!」

「望むところよ!」

「というか、すでに勝手に広告塔をやらせてたわけですよね?」

「そうとも言う!」


 正体がバレた時にはちょっと焦ったけど、教え子たちとの思いがけない女子会は、予想外に楽しい時間になった。 

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