情報交換
二回目の魔物発生事案のあった5日後。
今日はノアの屋敷にお邪魔していた。キアランも交えて、3人で情報を交換と意見をまとめるために。
久し振りだなあ。
馬車で乗り付けたクレイトン邸に、懐かしさを覚える。ザカライアの子供時代、たまに遊びに来たし、大人になってからも用事で何度か訪れた、幼馴染みの屋敷。
程よく蔦に覆われた、趣のある雰囲気が、何十年経っても変わらない。なんとなく、いかにもアイザックの自宅ってイメージ。
通された応接室も頑ななくらい昔と変わってなくて、やっぱりアイザックらしさを感じる。
そこで、すでにノアとキアランが待っていた。
机の上にはすでに資料がたくさん広げられている。キアランとノアが並んで座って、ひと足先に目を通していた。
向かい合ったソファーに腰を下ろして、早速本題に入る。
「何か進展あった?」
「新情報はいくつか。でも、犯人についてはさっぱりだね」
そこにある資料の束は、ただの子供が揃えるにしては、かなり手広く詳細な報告書だと分かる。
宰相の孫だからというより、事件の当事者だから、便宜が図られたのかもしれないね。アイザックはそういうとこで公私混同するタイプじゃないから。でも、事件解決に役立つなら、ちゃんと融通を利かすことも知ってる。
「私にも見せて」
手近の一束をがっと手に取り、パラパラとめくって事件の詳細に目を通してみる。
夏至の日の深夜。去年のものと全く同じ魔法陣。やはりその中央には、同じ手口で惨殺された生贄の女の子。
そしてその翌日には、魔物が発生する騒動。一連の流れを同様になぞってる。
前例からの予測で、初めから騎士や兵士を揃えて臨戦態勢を敷いて待ち構えていたおかげで、発生した魔物は迅速に処理できたらしい。
資料を机に戻しては、次の資料を手に取ってパラパラめくる作業を繰り返す。
「問題点がいくつもあるね」
あるだけの情報に一通り目を通したところで、早速議題に入ろうとして、目を見開いた二人に気付く。
「なに?」
「い、いや、なにって……今ので、読めたの?」
聞かれて、何に驚かれているのか分かった。
二周目の前世から、大量の本を読み込んでたせいで勝手に身に付いた速読の技術。
そういえば、知らない人から見たら、けっこうなビックリ特技らしい。身内とか家庭教師以外の前で披露するのが初めてだから、気にしてなかった。
「ああ、私読むのちょっと早いから」
「いやいやいや、ちょっとなんてレベルじゃないでしょ! めくってただけじゃない!」
軽く流そうとしたけど、ノアが食いつく。う~ん、君は突っ込み属性だな。
「私の叔父様は超天才だよ。同じ血は私にも流れてるの」
適当な言い訳に、ノアは口を尖らせた。
「見かけによらず君の頭の回転が速いのは分かってたけど、もしかして想定の遥か上で優秀だったわけ? なんか、世の不条理を感じる」
あ、すねちゃった。意外と負けん気の強いとこがあるらしい。全然似てないと思ってたけど、アイザックに重なるな。
「おい、話がそれ過ぎだ。本題に戻ろう」
キアランが吹き出すのをこらえるように、話を無理やり戻した。どうも私とノアだけだと、果てしなく脱線していきそうな気がする。そしてキアランには私たちのやり取りがきっとコメディに見えてるんだろう。
「そうそう。遊びに来たわけじゃないからね」
私も乗っかって、不満げなノアを流して、気になる資料を抜き出す。
「それでこの現場って、どういうこと? あり得るの?」
「むしろ、盲点だったというべきかもな」
キアランが眉間にしわを寄せる。そうだよねえ。すごくナメられてる気がする。
王都郊外にある、王立の練兵場だった。魔法陣が出現するわずか数時間前まで、数百人の兵士が激しい訓練をしていた場所。
前例からすれば、ちょうど真夜中の時刻に惨状の現場は出現していたのかもしれない。けれど大通りの時と違って、深夜は誰もいなかったせいで、発見が早朝まで遅れた。
「兵が訓練を引き上げてから、犯人が侵入して、魔法陣の儀式をしたってことだよね?」
「ああ、荒らされるような場所でもないから、特別な警備もなかった。忍び込もうと思えば、難しくないな。兵士たちは怒り心頭だったらしいが」
「そりゃ、そうだよねえ」
思いっきり職場を汚されたわけだもんなあ。きっと翌日の魔物退治は、練兵場内で「繰り返す、これは訓練ではない」な光景が、怒りの兵士たちに繰り広げられたんだろうなあ。
「発生した魔物、二体に増えてるね」
待ち構えていた100人近い兵士の目撃証言のおかげで、詳細な情報が残されている。
「しかも、完成度が明らかに上がってるよ」
ノアの指摘に、いやな空気が流れる。去年の魔物は形を維持できずに自壊したけど、今年の二体は兵士からの一斉攻撃のダメージによる霧散だったらしい。更に感想を漏らす。
「最初の現場で発生しかけた二体目の魔物って、完成してたらやっぱり去年よりグレードアップしてたのかな」
「可能性は高いだろうな。国も今回の件で、この事案をただの連続殺人ではなく、国家の安全に関わる問題として対処することにしたようだ」
「そりゃそうだよね。もし毎年続くようだったら、どれだけ厄介になってくの、って話だもんね」
「正直事態が、僕たちが個人的に調べていくって段階を超えてきちゃったんだよね。それで、おじい様が……」
ノアが言いかけたところで、ノックの音が聞こえた。ん? アイザックがなんだって?
聞き返そうとしたところで、扉が開いた。入ってきたのはアイザック本人だ。
「おじい様が、関係者から直接話を聞きたいって……」
そういうことは、早く言え~~~~!!!




