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驚愕

 例の殺人事件について続報を促す私に、ノアは難しい顔で頷いた。


「厳しいね。公式な捜査も打ち切られちゃったし。でも、君は次があると思ってるんだよね?」

「思ってるね」

「だとしたら、可能性として一番高いのは、翌年の同じ日ってことだよね」

「うん。そう思う」


 私たちの意見が一致したのには、理由がある。

 前回、女の子を生贄にした魔法陣の儀式が行われたのは、夏至の日だった。そういう特別な日に行われた儀式なら、その日自体に意味がある。冬至にも警戒はしたけど、何も起こらなかった。

 だから、可能性としては次の夏至が怪しい。


「だからあとは、場所の予測だ。ああいう緻密な魔法陣には、場所の設定にも決め事が多いはず」


 確かにそれが分かれば、事前に防ぐことも、犯人を捕まえることもできるかもしれないけど。


「まだ一回じゃ、法則性が掴めないでしょ。それより設置場所の特殊性も調べたら? あの場所で過去に何か特別なことがなかったかとか、歴史を探るのもアリかも」


 今できることを提案してみる。ノアは素直に頷いた。


「調べてみる」

「あと、現場は今どうなってるの?」

「魔法陣は、結局完全に撤去されちゃったよ」

「場所の、残留瘴気は調べた?」

「どういう意味?」

「あの目に見えるくらい黒い瘴気、覚えてるでしょ? 何もない場所で、あの儀式一回でいきなりああなる? 最初から、そういう歪みとか、下地のある場所だったんじゃないかな? もし、魔法陣が撤去されてる現時点でも、瘴気の漏れが続いてるなら、あれはある意味『穴』を開けるための儀式だったのかもよ?」

「『穴』?」

「どこに続いてるのかは分からないけどね。そういう、瘴気を呼び出しやすいか、『穴』を開けやすい、不安定な場所」

「なるほど。現時点では、歴史も含めてあの場所との共通点を探るくらいしか、次の地点を予測する手はないか」


 二人で色々と意見を出し合って、今後の方針を少しずつ決めて行った。こういう話し合いは、100のアイデア中一つでも使えればいいからね。意見だけはどんどん出す。


「やっぱり手紙のやり取りよりはかどるね。何か新しいことがあったら、これからは会いに行っていい?」

「いいよ」


 一通り終わってからのノアの提案に、気軽に頷く。こっちの方がたしかに手っ取り早かった。


 話し合いにけっこう夢中になってたみたいだね。訓練、ちょうど今終わっちゃったとこだ。もうちょっと見てたかったのに。


「じゃあ、僕行くよ」

「うん、またね」


 そうそう、たしか君勉強会に来てたんだったね。キアランより遅れちゃ駄目だよね。


 ノアが去ったところで、疲れ果てつつも充実した少年少女たちが戻ってきた。


「お疲れ様」

「おう、さっきの誰?」


 戻ってきたマックスが開口一番に訊いてくる。訓練しつつも気にしてたわけか。集中が足らんぞ!


「友達のノア・クレイトン。キアランとの勉強会に来たんだって」

「ああ、宰相の孫の……まったく、王城は油断できねえな」


 ぶつぶつとぼやく背中を、力いっぱい叩く。


「くだらないこと言ってないで、あっち手伝ってきなよ。ほとんどあんたの責任でしょ」


 エインズワース家の少年少女たちを指差した。ほぼ全員医務室送りだよ。何かしらの怪我してる。

 こっちの世界は治癒魔法とかポーションとか都合のいいものがあるから、訓練がすごく過激なんだよねえ。普通に骨折するレベルでやっちゃう。

 練習も試合も、常にフルコンタクトでガチバトルするようなもんだよ、恐ろしい。だからこそシャレにならないレベルで戦闘カンとかも磨かれるわけだけど。

 そしてマックスは当然のように無傷。


「ああ、じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


 マックスは素直に手を貸しに行った。この訓練でずいぶん仲良くなったらしい。


「観戦はどうだった?」


 同じく無傷のキアランが、私のとこに来た。おお、さすが気遣いの王子様。マックスが戻るまで、付き合ってくれるらしい。


「面白かった。私も混ざれればなあ、ってちょっと羨ましかったかな」


 正直な感想を返す。

 まあ、これは私自身の選択の結果だから、文句はないんだけどね。グラディスの立場だったら、ソニアみたいに戦いの道を選ぶこともできた。多分私なら魔力がないなりの戦い方もできたと思う。

 でも、一番やりたいことを選んで、そっちは捨てたわけだからね。特別な情熱もないし。あくまでも、ただの憧れ。


「キアランは凄いね。あのメンツに引けを取らないなんて」

「まだまだだよ。自由に動けるうちに、もっと強くなりたいんだ。少なくとも母上ぐらいにはね」

「ふふふ。大変な目標だね。実戦から遠ざかってても、王妃様は強いでしょ」

「そうだな」


 笑ったキアランは、そこで何かに気付いて、私の横を指差した。


「ああ、そこ、いるぞ」

「っ!!!?」


 瞬時に意図を理解。


 いやあああああああっ!!!


 悲鳴を上げる余裕すらもなく、キアランにしがみついた。


「そんなに、苦手なのか?」


 キアランが苦笑しながら、私の背中に手を回して移動させてくれる。そう、例の『物体X』――奴がいたのだ!


「な、なんで、分かったの?」


 もう視線を向けるのも嫌だ。気配だけで安全距離を確信してから、問いかける。


「木陰を不自然に移動してたから。この季節は多いからな」

「え!? 不自然だった!?」


 素で驚く。もう、普段から無意識で避けてるものだから、自分でも気付いてなかった。


 本当に、なんで毛虫だけこんなにキライなんだろう。芋虫は平気なのに。突き抜ける嫌悪感でとにかく頭の中が真っ白になって、何もできなくなる。正直イヤんなる。


「虫全般苦手な女性は多いし、気にすることはないだろう?」


 へこみかけた私をフォローするキアランの言葉に、思わず目から鱗が落ちた。


 おおっ、言われてみれば確かにそうですよ!!

 ザカライア時代は弱味を見せたくなくて隠す方向で通したけど、今の私はか弱い公爵令嬢! むしろ毛虫なんて苦手で当然じゃありませんこと!? おほほほほ!

 まあ、他の虫は全然平気なんだけど。


 目の前がぱあっと開けた気分になった私に、キアランは驚愕の一言を続けた。


「確か建国の初代大預言者ガラテア様も、生物の中で毛虫だけは駄目だったそうだ」

「……」


 ――はあああああああぁっっっっっ!!!? 

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