歓迎
ラングレー城に帰ると、すでに30人を超える一族が集まって、大広間で酒盛りが始まっていた。
お~い、主賓の御到着ですよ~。あ、聞いてないですね~。どうぞどうぞ、続けてください。いつものことなので慣れてますよ~。
結局のところ、何か理由を付けてはどんちゃん騒ぎがしたいだけなんだよね。まあ、気を使わなくていいのが、体育会系一族のいいところなのかな?
「グラディス、いらっしゃい。長旅お疲れ様。あなたの食事はこちらに用意してありますよ。マクシミリアンも一緒にいらっしゃい」
「お世話になります、叔母様!」
イーニッドが、酔っ払いたちとは少し離れた席に、御馳走を用意してくれていた。トリスタンと別れ、子供たちだけで、食事の席に着いた。
ご馳走にありつきながら、イーニッドを目で追うと、甲斐甲斐しく仕事帰りのトリスタンの世話をしている。うん、ゴーサイン、出していいね、これ。
「マックス。ちょっと相談があるの。あとで二人きりになれる?」
「なんだよ、ここじゃダメな話なのか?」
「かもね」
「おやおや、早速何かの悪巧みかね、お嬢ちゃん」
声を潜めていた私とマックスの会話に、酒瓶を抱えた老人が割って入ってきた。
「セオドアおじい様!」
私の隣に腰を下ろし、いたずらめいた表情でのぞき込んでくる。
「突然領地に戻ってきて、どんな楽しいことをやらかすつもりかな?」
「それは、お楽しみということで」
私は笑顔でとぼけて見せた。多分、分かってるだろうけどね。
セオドアおじい様は、本当の祖父ではない。たしか高祖父の弟? 正直血縁関係がごちゃごちゃしてる上、興味もなかったから、あんまりその辺把握してないんだよね。曾祖母だ大叔父だ又従兄弟だ、その配偶者やら兄弟やらと入り乱れてて、いちいち覚えてられないもん。だから大体の年齢で、おじい様とおじ様を使い分けてる。
このセオドアおじい様はなんと前世の私を合わせても若干上回る、90歳越え! 戦場以外役に立たない領主のトリスタンに代わって一族を取りまとめる、今なおかくしゃくとしたおじいちゃんだ。
多分、ジュリアス叔父様があと70歳年を取ったら、こんな感じなんだろうね。
ラングレーの家系は何代か置きに天才が現れるらしくて、この人もそう。
ニコニコとした顔で、まるで全て見通しているよう。年季が入ってる分、ジュリアス叔父様より砕けてるけどね。
ワガママ娘の私を特に可愛がってくれるから、私も大好きだ。
私が領地に戻らずに王都で好き勝手出来てるのは、このおじいちゃんが一族を抑えてくれてるからなんだよね。前のグラディスは気付いてなかったけど、状況を観察してみて間違いないと思う。
今も、他の大人たちの目が向く前に、真っ先に私の元に来てくれたし。みんなの私に対する疑問や不満を、いい感じにコントロールしてくれてるみたい。
「期待していいのかな?」
「もちろん!」
「おい、何の話をしてるんだよ?」
私たちの会話に、マックスが一人首を捻る。だから、それは後でね。
食事を終えて、お風呂の用意をしてもらった。ザラは滞在のために部屋を整えているから、イーニッドが連れて行ってくれた。田舎だし身内の繋がりが強いから、こういうとこも適当で緩い。親戚のおばちゃんになってしまった元生徒と、楽しくおしゃべりだ。
「旅で困ったことはなかった?」
「いいえ、全然。叔母様は、お父様に困らされてませんか?」
「もう、慣れたわね」
イーニッドは、楽しそうに笑った。ああ、相変わらず気立てのいい子です。そしてやっぱり気持ちも満ちて、いいタイミングのようだね。
苦労よりも充実感を幸せに思う叔母様に、最大の幸せをプレゼントしましょう。ぜひうちの不良物件を受け取っていただきたい。
魔道具のランタンをかざしながら、城の外の細い歩道を、二人で並んで歩く。
もちろん城内にも浴室はあるんだけど、田舎だけあって、城の裏口から徒歩五分の敷地内に温泉があるんだよね。ちょっとこじゃれた外観だけど、中に入るとお風呂なの。それもちゃんと男女別に仕切られた露天風呂付き! きっと戦闘職にはありがたい施設だよね。ラングレーに来た時のお楽しみの一つなのだ!
「後からマクシミリアンも入りに来るはずだから、帰りは一緒にね?」
「はい!」
まだまだ忙しいイーニッドは私を置いて、屋敷に戻っていった。
女性用の脱衣場に入ると、誰もいない。
やった! 貸し切りだ! やっぱみんな風呂より、どんちゃん騒ぎだよね。
一周目を思い出すね。盛大に脱ぎ捨てて、そのまま露天風呂へゴー!!!
汗を流してから、ゆっくりと浸かった。
あ~、いい湯だな~。体に染み渡る!
満月がきれいだね。田舎の夜は、最低限に用意した灯りしかなくて、静かな暗闇の中、星がよく見える。
なんか無防備みたいだけど、魔法的な防犯設備がばっちり敷いてあるらしくて、覗きその他の対策もばっちりだから、落ち着いてのんびりできるのだ!
誰もいないとなれば、潜水と平泳ぎは必須! あ~、テンション上がります!
30分くらいバチャバチャ遊んでたら、高い仕切りの向こうから焦った声が聞こえてきた。
「おい、グラディス!? 溺れてないか!? 大丈夫か!?」
男湯に入ってきたマックスが、尋常でない物音にぎょっとしたらしい。
「あー、大丈夫! 遊んでただけ~」
「紛らわしい真似するな!」
「ごめ~ん」
おっとアブナイ。この状態で突入されるのはさすがに恥ずかしい。背泳ぎをやめて、大人しく岩の段差に腰かけた。
「まだ時間かかるのか? 俺、長風呂嫌いなんだけど」
「じゃあ、もうちょっとしたら出る!」
「おう、分かった」
マックスは今来たとこだから、あと10分くらいしたら出よう。あいつは烏の行水だから、それでも長いくらいだ。
鼻歌を何曲か歌って、十分堪能したところで、露天風呂を上がった。




