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寄り添う・2

「ファーン森林地帯の時は、魔力残量がどんどん減っていってヒヤヒヤしたからな」


 キアランも同じことを思い出してたみたい。確かに燃料ギリギリで際どかったもんなあ。

 あの時も、大預言者としての最初の仕事を、キアランは傍で支えてくれていた。


「つまり、もう十分貯まったから、徴収が終わったということか?」

「それもあるだろうけど、全面対決になったら自衛の必要もあるからじゃないかな」


 常に誰かに守ってもらえてるとは限らないし、いざその時になったら、何が起こるかなんて分からない。自力で対処できる方が絶対いい。


 ――それよりも。


 ついに、ついにこの時が来た!!

 ガソリンタンクが空っぽだったスーパーカーが、やっと燃料満タンに!! もう他人から燃料をちびちび分けてもらいながら瞬間的にかっ飛ばす必要はなくなった。

 古今東西の魔術を操る最強魔導師爆誕ですよ!! とうとう憧れの魔女っ娘になる日がやってきたのだ!!

 二人で会いたいな、なんてねぼけてちょっと思っただけで、一瞬にカレシの寝室にひとっ飛びなんてことだってもはやお手の物なのだ!! もうやりたい放題!!


 ……なんて、テンション上がると思ってたんだけどなあ……。


 いざ本当にそうなったら、なんか逆に胃の辺りがずっしりと重くなってきた感じがする。


 その時が、少しずつ確実に近づいてきている――実感するごとに、プレッシャーがのしかかってくる。

 本番前のメンタルが、まだ作れてないんだよなあ。


「グラディス?」


 キアランに心配そうに顔を覗き込まれ、はっとした。

 いやいや、それはそれとして!! と、そこで気を取り直す。


 一瞬一瞬の今を大事にすることで、未来に繋がっていくのだ!

 ということで、私は今できること――いや、今しかできないことをやらなければ!!


 そう、今の状況はと言えば、普段二人きりで会えることなんて滅多にないキアランと、なんとベッドで差し向い!

 この空前絶後のチャンスをスルーするわけにはいかない!!

 どうせダメで元々。とりあえず挑戦することに意義がある。何度でも叫ぼう。そこに高い山があるから登るのだ!!


「キアラン、ぎゅってして、いい?」


 身を乗り出して、まずは軽いジャブとばかりにおねだりしてみる。

 まあ、これまでの傾向から考えて、医務室のベッドですら規制の厳しいキアランが、こんな状況でOK出してくれるわけないんだけどね。


 ――なんて、最初から断られること前提で迫った私は、直後のキアランの反応に、数秒理解が遅れた。


「――へっ?」


 キアランは考える間すら置かずに私に手を伸ばしてきた。


 気が付いたら、横抱きで胡坐の上に乗せられるような体勢で抱えられていた。


 ええええええええええ~~~~~~~~~~~~~っっっ!??


 予想外の対応に、頭の中のごちゃごちゃが一気に浮き飛んで、言い出した私の方があたふたしてしまう。

 お互いに薄着でしかもベッドの上なんてシチュエーションじゃ、絶対に応えてくれないと思ったのに!


「お前――また、一人で背負いこんでるだろう?」


 私を優しく抱き締めるキアランの声が耳元で聞こえて、二重の意味で心臓が跳ね上がる。


 そんな私に、なだめるような優しい言葉が続く。


「前に言ったろう。お前は神じゃない。確かにお前の負担は大きいが、一人で背負う必要はない。一人ひとり、役割が違うだけだ。王都民、全員の戦いなんだ」

「――キアラン……」


 キアランは、ここしばらくの私の不安を読み取ってくれていた。

 同時に、私はまた、一人で突っ走りかけていたことに気が付く。


「恐れはあって当たり前だ。気付かないふりをする方が余程危うい。これも、ずっと前にも言ったな。恐れや不安から目を逸らすなと。現実を受け止めるのは、悪いことじゃない。その上で不安な部分は、俺が……俺たちが支える」

「うん……」

「雪中行軍の時と同じだ。戦いを有利に導くための下準備を、お前はちゃんとやっていただろう? それでいい。お前が用意してくれた勝利への道筋をたどって、あとはみんなが力を尽くす。そして最終責任は、お前ではなく、王家のものだ。だからただ、お前はお前の仕事を全力でやればいい。俺たちもそうする」


 穏やかな声で、私を抱きしめながら囁くように言葉を紡ぐ。


 胸が、ドキドキとは違う熱で、熱くなった。

 責任を負う覚悟のある王子のキアランだからこそ、私に届く言葉が出せる。


 出会った時からずっとこうだ。

 私が揺れ動いている時は、いつも。

 本当に、私を見て、支えてくれる人。言葉だけでなく、いつでも何度でも、道を見失いそうになるたびに必ず。


 ザカライアの時には、どんなに不安でも抱きしめてくれる人なんていなかった。私自身が諦めて拒絶していた。最初から助けなんて求めなかった。


 キアランは絶対にそれを見逃さない。さっきみたいに冗談めかした時でも。

 のしかかる未来の重さに怯えそうになる私を、心ごと抱き締めてくれる。


「キアラン。なんかやっぱり本当に迫りたくなってきたかも」

「その調子だと言いたいところだが、今は、違うだろう?」

「――うん」


 本当に、どうしてこんなに分かってくれるんだろう。

 今は、不安が収まるまで、ただこうしていてほしい。


 ぬくもりを感じながら、ザカライアの死の直前に視た予知をふと思い出して、不思議な気分になった。


 キアランにこっぴどくフラれる未来も、ありえたのに。

 それが、こんな風に幸せな時間を持てるとは思わなかった。まだ長い人生の途中だけど、今、この未来にたどり着いた運命に、感謝したくなる。


「どうした?」


 かすかに笑ってたのかもしれない。気が付いたキアランに問われ、今まで誰にもしゃべったことのない予言を口にした。


「ザカライアとして死ぬ瞬間にね、今の私の未来を視たの。その未来での私は、キアランにもノアにもルーファスにも嫌われてて、私とうまくいく相手は、マックスだったんだよ」


 言った途端、私を抱きしめる手に力がこもった。


「その予言の未来に進まなかった俺でよかった。俺が、お前を自分から手放すことなんて、ありえない。マクシミリアンにも、誰にも、渡すつもりはない」

「――うん」


 感極まって、私もギュッと抱き付いた。


「キアラン、大好き」

「そうか。俺はお前を愛してるぞ、グラディス」


 何のてらいもなく、さらっと返される。


 うおぉぉぉおいっ、またか! 相変わらずだけど、さっきからこれでホントに口説いてるつもりないのかっ。今ベッドの上ですよ!?


 ――と思ったら、そうでもなかったのかもしれない。


「グラディス。あまり動かないでもらえると、ありがたい」


 私がぎゅうっと抱き付きながら、キアランの膝の上でもぞもぞと悶えていることにクレームが入った。

 いつもの涼しい顔が、どこか困っているように見える。


 おお、なんだか思春期男子のような反応じゃないか!? いや、実際そうなんだろうけど、なんかキアラン違うんだもん。私の方がよっぽど子供っぽく感じることがあるくらいだし。

 つい本気で訊いてしまう。

 

「キアランにも、そういうのってあるの? 心頭滅却やらなんやらで雑念とか軽く吹き飛ばしちゃう感じなんじゃないの?」


 私の攻撃がクリティカルヒットしたためしがない難敵に、思わず疑いのまなざしを投げかけると、珍しく少し仏頂面が返ってくる。


「俺が石でできてるとでも思ってるのか?」

「鋼でできるって言われても驚かないよ!」

「――俺が今どれだけ自分と闘っているか、大預言者なら少しは分かってくれ……」


 これ見よがしの溜め息を吐く。


 だったら、無理に我慢なんかしなければいいのに! この真面目過ぎる頑固者は!!


 あ~でもテンション上がってきた!

 戦い前のフラグがどうとか言ってる場合じゃないよね! ここはもう心のまま本能に忠実に行くとこか!! 俺たちの戦いはこれからだ!!


「ねえ、キアラン、やっぱり」

「却下だ」

「早い! 早いよ! まだ何も言ってないでしょ!? なんなの、その鉄壁のディフェンス力は! 世界でも目指してんの!? 女の子に恥かかせるものじゃないヨ!? 大体普通逆じゃないの!?」

「俺たちのどこに普通があるんだ? 就寝中のベッドでいきなり隣にいたから、危うく斬りかけたぞ」

「それを言われると返す言葉がないけどもっ、そこはラッキーと受け止めちゃって全然いいとこじゃないの!? ほらっ、勢いでさ!」

「そこをラッキーとか勢いに頼る気はない」

「も~、なんでそう若さがないの!」

「お前相手ならこれでちょうどいいだろう?」

「だから年寄り扱いしないでくれる!? 私まだ十六歳だから!」


 そんな感じで不毛なやり取りはしばらく続くも、キアラン城塞の壁はどこまでも高く固かった。

 こんな美味しい状況なのに、結局抱きしめて髪をなでる他は、私に一切手を出しやしねえ!!


 っていうか、さすがにちょっと疲れてうっかりうとうとしかけたら、「もう大丈夫だな」って容赦なく起こされて自宅に帰らされた。


 ちっ、ホントしっかりしてるよ! こうなるとなまじ自在に転移ができるようになったのも考えものだな。

 そこは、やれやれしょうがないあって困りながらも一緒に添い寝とかしてくれる流れなんじゃないの!? 何なら間違いが起こっても全然OKだし! むしろウエルカムだし!! もうビックリするくらいブレないよね!!

 鋼どころか、オリハルコンでできてるんじゃない!?


 ――と自宅に転移し、自分のベッドに潜ってからも悶々としてたけど、翌日学園で会ったキアランは、目の下にうっすらとした隈が確かにあった。


 今回のところは引き分けにしといたらあっ!! ――と、あくびを噛み殺しながら心の中でガッツポーズを取った。


 私の地道なジャブは効いている!! 足元はもうフラフラだぞ! あと一息だ!! ――多分。

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― 新着の感想 ―
なろうで1、2を争う好きな作品です。いつか、完結まで見届けられるのを楽しみにしてます。
また、何周目か読み直してここまで来ました。 やっぱりこのお話し大好きです。 いつか、この先を読むことが出来る事を楽しみにしております!
コミカライズ最終巻から続きが読みたくてなろうに辿り着きました。続き、めちゃくちゃ楽しみにしております! 普通の商業化だと巻分けしにくいのかなあとも思うので、いつかどこかで一気に読める媒体で完結まで拝読…
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