表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

362/378

離脱

 私は今のところ、表面的には大人しく仲間と協力し合いながら、裏ではこまめに学園全体に意識を広げては、現状確認に努めている。

 でも、特に身内の比重が多くなっちゃうのは、しょうがないよね?


 マックスは、さすがにトリスタンにしごかれてきてるだけあって、一年生ながら見事なエースぶり。班の中心になって、氷雪系の魔術攻撃を個人の能力の高さで弾きまくっている。


 キアランは逆に、攻撃力の高いガイを自由に暴れさせて、大味な動きのために生じてしまう穴を、他の班員に随時指示しフォローに徹している。相変わらず安定の防衛力だね。あとガイ、リーダーの仕事しろ。裏のリーダーに操られてるぞ。いや、この国の正しい姿というべきなのか。

 まあともかく、非戦闘員を近くの倉庫に避難させて守りを固める形で、一番安心感があるチームだ。


 ここの二班は危なげないから、当分大丈夫そう。


 私のいつものパーティーメンバーの女子たちは、それぞれが組んでる班員に突出した実力者がいなくて、ちょっと苦戦中かな。攻撃の特性と相性も良くない感じ。今は何とかなってるけど、魔術を封じられた状態が続いたら、もう長くは持たないかもしれない。


 そんな中の例外がユーカ。

 敷地内に存在する()()の中で、まったく制限なく魔術が使えている。それはもう、反則じゃね?ってくらい。

 まだへたくそな魔術攻撃は控えて、その代わり、例によって魔物に敵認定されないバリアを班員にかけている。それはもう無警戒の魔物に、一方的な物理攻撃を可能にさせるという無双ぶり。

 そもそも小物にとって、ユーカは遥か格上の魔物扱い。モーゼのように目の前の道が拓けていく。

 さすがチート転移者! あの班はユーカがいてラッキーだな!


 そして問題なのが最後の一人――ここは特殊な状況になっちゃって、ちょっとまずい。大健闘はしてるけど、限界が近い。助けがいるな。


 素知らぬ顔で各班の戦闘を一通り観察しながらも、ちょっと思うところがあった。思わず感心してしまう。


 不謹慎かもしれないけど、面白い。


 魔術が使えないなりに、各班工夫をこらし、仲間と力を合わせて、四苦八苦しながらも何とか決定的な崩壊をしのいでいる。


 そこはまあ狙い通りともいえるけど、大預言者視点であることに気付いた。


 この光景、少し前に似た感じのものを見ているのだ。多分学園中で、同様に感じている生徒は、特に戦闘職で多いと思う。


 それは、雪中行軍の予行演習で起こった、第二用具室前でのベルタ発のひと騒動。

 もちろん今は、あれよりも遥かに危険度は高いけれど、あちこちで展開されている多様な魔術の入り混じった攻撃は、まるであの時をなぞっているようだ。


 『経験』は強い。

 まるで行軍とは別の予行演習を、すでにしていたかのような既視感。

 おかげで最初の戸惑いも最短で振り払い、みんなこの事態の対応に慣れるのが想定以上に早かった。


 私があの事態を無理に止めようとしなかった理由は、ここに繋がっていたんだなと、自分でも今更ながら実感する。

 本当に運命は、気楽にいじっていいものじゃないな。あの時の苦労が、今のみんなの力にちゃんとなっている。


 そして今直面している困難もまた、いずれもっと大きな戦いに向けての大事な肥やしになっていくのだ。

 

 ただ、善戦しているとはいえ、このまま続けばジリ貧になる一方なのも避けられない事実。

 遠からず、崩れる班は出てくるし、次々とその数は増えていく。


 仮に力及ばず総崩れしたとしても、各所に配備中の騎士団員の助けが入るから、本当の意味での最悪の事態はない。だけど自力で試練を乗り越える経験は大事にしたい。更なるステップアップのために。


 だから私のするべき仕事は、そんな彼らの戦いを、より有利に――確実に勝てる環境へと整えてあげることだ。

 それが、本来戦場には立たない大預言者の役割。


 というわけで、そろそろ次の行動に移ろう。うちの班はもう大丈夫そうだしね。

 

 実は、すでに限界間近の班、ここから割と近くにある。


 とはいっても、うちの班全員で固まって、防衛しながら慎重に近付いていたのでは、間に合わない。そもそも全部の班を助けに行くなんて不可能だしね。

 必要なのは、根本の問題解決だ。


 そして、もうすぐ絶好のタイミングがやってくる。


 ちらりと、デリンジャー先生に視線を向ける。

 採点役の同行教師は、基本手出し無用のポジションだけど別にカカシなわけじゃない。本当に危ない咄嗟の場面なら、警護役同様に対応する用意はある。

 しかも体力ばかりの若造よりずっと経験豊富な先生は、さすがの隙のなさで、班員全員にしっかり目を配っている。


 それが私にとってはずっとネックだったけど、ようやく抜け出せるルートが見えた。


 警戒の隙を縫い、一直線にこっちめがけてくる個体がある。


「あっ!」


 私はそちらにみんなの視線を誘導してから、よけようとして足を滑らせ、体勢を崩して見せた。すぐ横には、急な段差がある。

 デリンジャー先生が、すかさず保護しようとしたけど、私に注目していた人は他にもいるのだ。


「危な~~~いっ!!!」


 それはもう折に触れ、警察に訴えたくなる勢いで私をガン見していたティナさんが、こちらに向かってくる攻撃の射線上に反射的に飛び出してしまったのだ。


 熱狂的なファン(信者)は、偶像(アイドル)のためなら自らの危険すら顧みない!! 私のピンチに我慢しきれず、とうとう本性を現した!!


「っ!?」


 意表をついて現れた障害物(ティナさん)のせいで私に手が届かなくなったデリンジャー先生は、眼前に危機の差し迫ったティナさんを抱えてよけるしかなくなった。放置したらティナさん顔面直撃の上、真っ逆さまコースだから。


 ティナさんをかばいながら、私を目で追う先生。追いかけるための次の動作に移られる前に、私はバランスを立て直すのに失敗した体で、段差に向けて大きく踏み切った。


「グラディス!?」


 班の仲間の叫び声を背に、そのまま下に向けて滑り落ちていく。


 ゴメン先生! そしてありがとうティナさん! 今度なんか小物くらいプレゼントするから! いやでも、祭壇とか作って祀られそうだから、やっぱやめとこう。


 っていうか、今それどころじゃねえっ!!!


(ぎゃ~~~~~~~~~~~~っっっ!!!)


 いや、これ演技じゃなくて、リアルで怖いわ!!


 尻もちをついた状態で、雪の急斜面を勢いに乗って動き出せば、もう自力では止められない。

 ソリなしで木々の合間を縫う、スリル満点の滑走。一瞬の油断が命取りだ。絶叫マシンは好きだったけど、これはひゃっっは~~っとか言ってる余裕なんてないわ。


 わずか十数秒の時間とはいえ、予知を駆使してバランスを取り、なんとか障害物への激突を避けながら滑って行った。


 目的の場所へと。 


 寿命が縮みそうな勢いにちょっと後悔したけど、このタイミングしかなかったための強行突入だ。

 その先には、今度は2メートルくらいの段差が現れ、スピードに乗ったまま大きく跳ねるようにジャンプ。

 悲鳴を噛み殺して気配を消し、しっかりと前を向く。


 一瞬にして開けた視界に、()()()()()が映った。今まで脳内だけにあった映像が、目視に切り替わる。


 目の前には、仁王立ちする男の背中と、その真正面で攻撃を何とかかわそうとしているノアの姿。


 間に合った!


 こっちに出現した魔物は、マインドコントロール系だったのだ。


 ノアの班は、護衛も含めて付近の人間すべてが、事実誤認と錯乱による同士討ちが始まって、えらいことになっていた。下手な攻撃魔術よりよっぽど質が悪い。


 そして今まさに、ギル・ハンター相手に、ノアが絶体絶命のピンチに追い込まれたところだった。


 投げ出された勢いに乗って、そのままギルの後頭部にドロップキックを叩き込んだ。


「った~~~~~~~っ!!」


 足首に走った痛みに、思わず声が漏れる。

 まるで壁に飛び蹴りをしたように、その場で跳ね返されて落下した。


 これだけ気配消して死角から不意を衝いてやったのに、ギルのヤロー、ちょっとぐらついた程度だよ、ちくしょ~!! これだからハンターのタフさときたら、手に負えないんだよ!! やっぱ靴にナイフ仕込んどくべきだった!? なんかこいつ相手なら死なない気がする!


 でも、ダメージは与えられなかったけど、この一瞬の隙で十分。

 ギルの意識が私に向いた瞬間、ノアが隠し武器で見事に仕留めた。


 突然、糸を切られたマリオネットのようにぐらりと地面に倒れたギル。


 これはあれだ! 一番近いやつで例えるなら、かの少年探偵の麻酔針攻撃! 小学生の時、蝶ネクタイとセットで超欲しかった奴!

 これも私的にはある種のロマン武器だったなあ。リアルで見れてちょっと嬉しい。


 一応これも魔道具だけど、仕掛けから針を打ち出す動作は問題なくできたらしい。本体から離れた後は、ほぼ物理攻撃だから魔術妨害の影響ないし。


 それにしても、この年になってもリアルに少年探偵続けてるとは! 確かに人の秘密暴くのはプロ級だけどね。 


「やあ、また会ったね~。助かったよ~、グラディス~」


 ノアが脱力したように、私に感謝の声を漏らす。


「ノアが引き付けてたから、不意打ちできたんだよ。わざと悲鳴上げてくれたでしょ」

「ギルの背後に君が滑り下りながら現れた時は、表情に出さないのに苦労したよ」


 お互いに尻もちをついたままで、笑い合った。


 周りには大人も教え子もいないから、ようやく普段の私に戻って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ