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買い食い

「ねえねえ、あれ何? 歩きながら食べてるわ!」


 我慢しきれなくなったのか、ティルダが見慣れない光景に興味を示した。街中の女の子が道端のベンチに座って、あるいは普通に歩きながら食べているモノ。


「えっ!!?」


 つられて視線を送ったユーカが、目を輝かせた。


「あれ、クレープですか!?」


 ふふふ、気付いたか。パティスリー・アヤカ発の流行だ。

 二代目店長は大分やり手なようで、すでに三号店まで出している。その三号店は、店内での飲食の他、外のお客に対面でアイスやクレープを販売できるシステムを導入しているのだ。きっとアヤカの遺した計画を実現させている途中なんだろうな。

 本店でのケーキ作りの腕も上がってきたし、師匠の抜けた穴を頑張って埋めているようで、密かに応援している。


「この界隈では若い女の子の間にすっかり定着したみたい。私たちも食べてみようか」

「はい!」

「街中で歩きながら食べるの?」

「それがおいしいんです!」


 驚くソニアに、ユーカが自信満々に即答した。


 それからちゃんと並んで一人ひとり注文し、自分でお金を出す。実のところ、みんなお嬢様で軍資金には不自由してないし、なんなら誰か一人がまとめて払った方が手っ取り早いんだけど、これはユーカ以外の全員に事前に通達しておいた。今日は普通の女子高生だったユーカの基準に合わせる日なのだ。お金のことはしっかりしないといけない。


 ユーカも保護されている身とはいえ、国の要請で働いてもいるから、お給料はしっかりともらっている。しかも学費も生活にかかる経費も税金だし、学園と王城の往復生活で、外に出て使う暇もないから、貯まっていく一方ってやつだ。まだ十代なのにまるで社畜みたいで、涙を禁じ得ない。


 その上、建国祭での活躍では結構な額の報奨金までもらってるのだ。

 しっかりユーカ向けのお店をリサーチしておいたから、今日は目いっぱいお買い物を楽しんでもらいたい。

 ユーカもなんだかんだで、将来のためにしっかり貯蓄タイプなんだよなあ、あれで。ここでは身寄りもないし、堅実になるのも無理ないんだけど。


 でも、この世界に来てからずっと異世界人として特殊な立場で過ごしてきたユーカに、たまには普通の女子高生気分を味わってもらってもバチは当たらんでしょ。周囲をあえて目立つタイプで固めたのは、一人だけ好奇の目にさらされないようにという意図もある。代わりに羨望のまなざしならビシビシ来てるけどね!

 街中でこれだけの美少女軍団なかなか見られないぞ! うっかり手を出したら大ヤケドだけどな!


「ああ、アイスも捨てられない! 両方行きます!」

「じゃあ、あたしも!」


 ユーカとダニエルが、クレープとコーンに乗ったアイスの二刀流で、交互に食べだした。

 うん、それはさすがに目立ってるね。楽しんでくれてるならいいんだけど。


「私も今はアイスの気分ね。あのチョコミントってのが気になるわ」


 ティルダはクレープのトッピングにアイスを選んだ。さすがパティスリー・アヤカ! まさかチョコミントまで揃えているとは! 二代目店長、頑張ってるね!

 それにしてもこの真冬に外でアイスかよと、突っ込みたいとこだけど、ティルダは魔術を使ってなんか寒さ対策のズルしてるぞ。私もこたつでアイス食べたい。


「じゃあ、私はあのピンクの」

「私はチョコ味がいいわ」


 続いてヴァイオラとソニアもアイスのクレープを選択! さすが武闘派。普段から野外で鍛えてるから街中程度の寒さなんか気にも留めねえ!


 結局私だけ寒さに負けて、アップルカスタードのホットクレープにしておいた。大昔は裸足で早朝の寒稽古に臨んだのに、すっかり軟弱になったもんだよ。年かねえ。いや、今はか弱い超絶お嬢様だし、問題ないよね! ユーカ以外はみんな同じく貴族のお嬢様だとか知らん! この国の令嬢は逞し過ぎなんだ!!


 街の女の子と同じように食べ歩きをしながら、ユーカがすれ違う子たちを面白そうに眺めた。


「なんだか、周りの女の子の着てる服が、すごく元の世界に近い気がします」


 王城と学校がほぼ活動範囲のすべてのユーカは、今の街の流行を初めて知り、不思議そうにきょろきょろと視線を移す。


 ふはははは! もちろん私のせいだ!!


「インパクトで出したデザインが浸透してきてるねえ」


 布教活動の結果が、はっきりと目に見えてきていて、思わずにんまりと答える。


 冬の外歩きだから、見えるのはコートと靴、小物ばかりだけど、それでも日本にいたころと変わらないような装いの子を何人も見かける。そしてそういうデザインの服を並べている洋服屋も、見える範囲だけでもちらほらあった。

 もちろん「インパクト」や「マダム・サロメ」とは、まったく関係のない店だ。

 

「明らかにインパクトの後追いみたいなお店だらけだわ」

「気になったとこがあったらのぞいてみようよ」


 目を丸くするソニアに、笑って答える。


 もともと私が着たいファッションの普及が目標だから、真似されるのは一向に構わない。むしろ望むところ。そうやって、とうとうキャミソールと膝上スカートまで、目くじらを立てられないレベルに持ってこれた。

 私の野望が着々と実現してきている!!

 これからもジャンジャン追っかけてきて! フォローミー!!


「ふうん、こういうところにも、そこそこ着られそうなのがあるのね」


 普段高級品しか知らないティルダが澄まし顔で評する。でも、目がウインドウの一点に釘付けなのは見逃さないぞ! 私の影響もあって、痩せてからすっかりオシャレに目覚めているのだ。おっかないお母様のお許しも出てるらしい。

 ソニアも興味津々に見回す。


「インパクトにはよく行くけど、他のこういうお店を見るのって初めてなの」

「ふふ、私に義理立てする必要ないから、どこでも好きなとこに行って。私もよく行ってるよ」

「本当に?」


 驚いたような反応に、逆にこっちがびっくりだ。遠慮なんていらないのに。他人の店だって私はじゃんじゃん入ってく。だって色々見たいでしょ。よそのお店をのぞくだけでも、予想外の発見とか刺激があるもんだし。


 なにより、現代ファッションの革命児扱いの私がお店に入ると、ちょっとした騒ぎが起こって、反応が面白かったりするんだよね。

 ファンと仲良くなったり、アンチをおちょくったりで、いろんな交流が持てる。もはやそっちの方が目的になってるかもしれない。

 マネキンの奥に、獲物を虎視眈々と狙うような熱い視線のまま身を潜めているティナさんを発見した時には、さすがにドン引きで気が付かないふりをした。

 ――あれ、ホントにどうすればいいの?

 いや、実害はないから別にいいんだけど、やっぱどうにもしたくないから、可能な限り放置で。


「私はこういう街自体来たことないの。せっかく王都にいるんだから、もっといろいろ行ってみたいわよねえ」


 との発言はヴァイオラ。次期当主として修業に明け暮れる身としては、初めての街ブラにワクワクを隠しきれないみたい。名残惜しそうにクレープの最後の一口を放り込んでいる。

 うん、あんたの叔母さん、同じ年頃の時、散々遊びまくってたよ。文句なんか言わせないから、もっと羽目外しちゃっても全然オッケーだよ。


「じゃあ、また来ようぜ! ホントは今日、ジェイドも来たがってたんだよ」

「じゃあ、次は来たい人みんなで」


 今回はユーカに近しい人だけに絞らせてもらったけど、人数増やしたらもっとにぎやかで楽しそう。


「そうね。楽しみだわ」


 ダニエルの提案に、一斉に賛同が返る。


「どうしてもというなら、しょうがないから入れてあげてもいいわよ」


 ジェイドとは同学年で、ライバル関係のティルダだけ、お約束な反応だった。相変わらずのツンデレか。この前学食で、口ゲンカしながら一緒に食べてるの見たぞ。


 次は一緒にというのも、口だけじゃなくて実現したいとこだな。

 みんなの都合を合わせるのは大変なんだけど、やっぱこういう時間って何物にも代えがたい。久しぶりなだけに実感するね。


 インパクトの日本風ディスプレイの影響が、大分広がってるみたい。何気なくぶらついてると、普通に外国の街並みを歩いてるくらいの錯覚すらしそう。各ショップが一押しの商品を見えるように展示して、お店の傾向が判断しやすい。


「あそこ、入っていいですか!?」


 また気になった店を見つけたユーカが、目を輝かせてみんなを振り返る。


「もちろん」


 それからユーカは、二年のブランクを取り戻すかのように、ショッピングのはしごを楽しんだ。


 学校の女友達と洋服や雑貨を見に行くなんて、私も一周目以来何十年かぶりだ。なんかいろいろなものが充電できる気がする。

 誰のための企画か分からないくらい、贅沢なひと時を過ごさせてもらった。

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