ファッションショー
国内で最低限の準備が整い、次の春に魔物の大発生が王都内で起こるという預言者の予言が、とうとう王国全土に告げられた。
当然蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
そして、それから二週間。
その騒動は、今も王都内で続いている。
格闘教室の会員数が激増したり、避難所までの障害物レースの類が各地で企画・開催されたり、魔物大発生記念(!?)セールがあちこちで行われたり――なんか、そんな感じだ。
俄然活気に溢れちゃっている。
王都民はグダグダ抜かすよりも、その時の到来を前に、現実的な備えを着々と進め始めている。薄々予想はしてたけど、本当にここの国民は逞しい。
混乱が一過性のもので速やかに落ち着いたのは、預言者の儀式による予言としてはっきりと明示されたから。
人々が王都に留まり、その時が来たら直ちに事前の公示通りの対処をして避難所で待てば、大きな被害もなくすぐに収束すると。
実際のところは、儀式でもそんな予知はされていない。普通に関係閣僚が急ピッチでまとめ上げた、まっとうな対策案に過ぎない。
建国時のガラテアたちは、こういう場面を想定して、このシステムを作り上げたんだろうなあ。結果を目の当たりにして、絶大な効力には改めて感心するばかりだ。
私が言うのもなんだけど、よくできた詐欺のお手本みたい。完全にプロパガンダの広告塔とか、宗教の教祖様とか、その類。
この時のために、預言者が絶対的な聖域のように祭り上げられ、六百年もの間ずっと確実に当たる予言のパフォーマンスを示し続けてきたんだろう。その信頼の実績は、こんな大災禍まで、無条件で大衆の心理と行動をコントロールできてしまう。
その成果もあって、大した混乱もなく、王都民は一丸となって事態に備えながらも、タフに日常生活を送っている。
もちろん現在進行形の防災対策セールの波には、経営者のはしくれとして私もばっちり乗っかっている。
ここぞとばかりに売り出した『インパクト』のデザイン性を兼ね備えた実用的パンツスタイルは狙い通り、爆発的に売り上げを伸ばし始めた。
学園が休日の今日は、事前のスケジュールに変更もなく、アレクシスへのご機嫌伺いの日。
デザイナーとして表舞台に立って以来、直接ご指名がかかっている私は、王妃様担当として外商にも携わっている。
もう一体何足の草鞋を履いてるのか、自分でも分からん!
現在『マダム・サロメ』のスタッフを引き連れ、イチオシの最新作を大量に持って、お城のサロンだ。
こんなご時世でも、いつも通りの余裕があるのはいいことだよね、うん。
ただ、前からデザイナー、グラディス・ラングレーの大ファンを公言してるアレクシスだし、機嫌がいいのはいつものことなんだけど、多分本題は別にあるんだろうなあ……。
私としても、とうとうこの日が来ちゃったなあという感はある。カレシのお母さんとご対面の気まずさというか、元教え子にバレてる恥ずかしさというか。
実際、最初に顔を合わせた瞬間、すっごい笑顔だったもんで、ちょっとイラっとしたよ。
お互いに思惑を抱えつつ、いつものようにおススメファッションの話題に花を咲かせる。多少の面倒はあっても、最強のファッションリーダーたる王妃様を使わない手はない。
「ずぼんなんて、戦闘服か作業着くらいの武骨で野暮ったいものだと思ってたけど、随分印象が変わるのねえ」
「はい。足のラインがはっきり出る分、デザインによっては遥かにスタイルがよく見えます」
見本を前に感心するアレクシスに、私も我が意を得たりとばかりのセールストーク。
実際に着用した姿を見たいというアレクシスが、ちょっとしたファッションショーもどきの空間を室内いっぱいに作り出してしまっていた。
私に同行したスタッフはもちろん、王妃様付きの侍女やメイドが、マネキン代わりに華やかな衣装をまとって並んでいる様相は、なかなか壮観。仕事とは別に楽しくなってきたぞ。
「アガサ、くるっと回ってみて」
「はっ」
アレクシスの指示に、長身の女性がきびきびと対応する。
護衛の女性騎士すらも凛々しく着こなしてくれていて、私も澄ました笑顔とは裏腹に内心では超ハイテンションだ。
ああこんなことなら、アレもコレももっと持ってくればよかった!
でもどう考えても職務外の行為で、着飾らされた彼女たちは明らかに不本意そう。これはもう、護衛対象の方が遥かに強いゆえの喜劇だよな。
男子禁制女の園と言えば聞こえはよさげだけど、ここだって当然体育会系だ。権力も腕力もこの場で最強の王妃アレクシス。そのタチの悪いお遊びに誰も逆らえない。
もちろん私自身も広告塔として、一番目立つ使命がある。長身モデルでもなきゃ着こなせないサンプルで参戦中!
前の世界ではオールドだったものもそれ以外も、全部最新ファッションになっちゃうのが、こっちの世界でやってて面白いとこだ。おかげで好きなものをやりたい放題自由にぶっこめる。
十年の布教活動の賜物で、女性服のバリエーションに、一周目の現代ファッションスタイルが確実に増えてきている。
そんな中で今回私が選んだのは、まだ世に出していないベルボトムに、アンクルトップの10センチチャンキーヒールパンプス。細身の長身万歳!
一周目なら絶対に無理だった! 指をくわえて雑誌のモデルさんを眺めてるだけだった! だって、なまじ有名アスリートだっただけに、うっかり穿いたらどんな痛い目で見られたことかと。自分でイメージしてみて、脚長効果どこ行った!? 筋肉で太腿パツンパツンんじゃねーか!! と自分に容赦ないツッコミいれたっての。
今だったらこのままランウェイだって歩いてやるぜ!
上は体のラインに沿ったシンプルなニット。トップスのシルエットをコンパクトにして、体の半分以上が余裕で足に見えるように強調している。
夏場の定番として浸透させつつあるオフショルダーを、勢いに乗って真冬にも続行してみた点でも、人目を引いている。
暑いんだか寒いんだかはっきりしろとか、すれ違う人たちの視線からの無言のツッコミが読み取れるけど全部シカト。
オシャレはガマンだ! 城内に入っちゃえば、快適だからいいんだ! コート脱いだ瞬間の周りの驚きが、逆に快感の域に入ってるくらいだから、もう手遅れだ!
前世では、テレビでメジャーなデザイナーを見る度に、スゲーカッコしてんなオイとかちょっと引いたもんだけど、いざ自分がその立場になってみるとやっぱ目立ってナンボだ。当然似合ってることは必須としても。
そもそもまだここだと新奇に見えるだけで、そんな奇抜な服のつもりはないし。着る人は選ぶけどね。
ともかく目論見通り、私が一番目立っている。それはいい。
ただ、この肩丸出しファッションで城内を歩き回ったことが、あとで叔父様にバレやしないかと、そんなところにヒヤヒヤしている。ってゆーか、確実にバレる。
いや、そろそろ反抗期もアリだな! とっくに成人してるから遅いくらいだよ!
「うふふ。なかなか好評のようね?」
「はい、恐れ入ります」
楽しそうに眺めて悦に入るアレクシスに、私も笑顔で答える。
実際に着てみた個々の反応を、直接見せてくれたアレクシスに感謝だね。上流寄りの一般人にモニターさせてもらったようなもんだ。
今回のイチオシの評価がなかなか上々で、まずは一安心。男性か騎士のものという先入観を大きく払拭するため、特に洗練、上品、セクシーを心掛けたからかな?
程よくスリットを入れたり、一部シースルー生地を使用したり、サイドをレースアップにしたりで、極力女性らしさを強調させている。この世界的にはかなり繊細なスラックスの数々に、普段から戦闘服のズボンを着用している女性騎士なんか、こっそり目がキラキラしてる。
マネキンを強いられている他の使用人たちも一様に内心のトキメキが隠せないようで、私もしてやったりだ。
こういう顔が見られるから、どんなに忙しくてもこの仕事はやめられないんだよなあ。
もう何足でも草鞋履いたらあ!




