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応援

 女子だけの内緒話を切り上げて、待ち合わせ場所の食堂でキアランたちと合流した。


 いつも通りのランチの席で、マックスがふと思い出したように一つの話題を切り出した。


「そういやお前、一昨日誕生日だったんだって?」


 私の隣に座るユーカに話しかける。よしよし、私の忠告をちゃんと覚えていたね。命の恩人への礼儀はしっかりするべきだ。


「えっ、そうなんですか!?」


 問われたユーカが、初耳だとばかりに素っ頓狂に訊き返す。

 居合わせた面々は、完全にきょとん顔。


 訝りながら、マックスが確認を取る。


「お前の誕生日は、建国の日なんだろう? 召喚された日だって聞いたぞ」

「え? 私の誕生日は『八月八日』です。それに召喚されたのは、確か六百年祭のはずですよ?」

「――お、おう……」


 ぽかんとするマックス。ちなみに『八月八日』は日本語で言った。私も思わず苦笑いだ。マックスが日本の建国記念の日を知ってるわけがないだろ。あれって二月頃だったけ? 少なくとも夏ではなかったよね。


 それにしても、なんというか、さすがユーカ。まさか自分の誕生日も召喚された日も把握してなかったとか、そんな斜め上を行ってるとは思わなかった。


 なるほど、確かにそういう勘違いもあるかもね。六百年祭は建国祭の豪華版だとか、教わらなきゃ分からないか。


 その上、向こうでの誕生日は夏休み中か。こっちの建国の日は冬間近で、季節が違う。それどころか暦も日にちも変わっちゃったわけだし、感覚がズレててもしょうがないか。


「それじゃ去年も今年も、誕生日祝いとかなかったんだ?」

「それどころじゃありませんでしたから」


 少ししょんぼりするユーカ。


 そりゃ、そうか。国の仕事を手伝ってるとはいえ、税金で世話になってる身。生活に馴染むだけで大変な時に、周りにそんなこと言えるわけないよな。ただでさえ当日は建国祭で、みんな大忙しなのに。

 私も仕事にかまけて気が回らな過ぎたわ。今年の分は注目こそ派手に浴びたけど、十七歳の誕生日を孤独に過ごさせちゃったなんて、想像したら泣けてくる。


「じゃあ、今年は二年分のお祝いをしよう!」


 よし、これは決定事項だ。何としても盛大に祝ってあげないと。パティスリー・アヤカの二代目店長も腕を上げてきたし、誕生日ケーキを特注で頼もう。


「そうだな。何か欲しいものはあるか? 俺に用意できそうなものなら何でも言ってくれ」


 この場での言い出しっぺのマックスも同意する。


 ユーカはすごく嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。泣くのを我慢してるのに気付いてるのは私と、多分キアランくらいだろう。


 少し悩むように考えてから、ユーカは躊躇うように口を開いた。


「私の一番欲しいもの――物じゃなくてもいいですか? 私、普通に街歩きしてみたいです」


 予想外の希望に、みんな不思議そうに目を丸くした。


 ああ、これは盲点だった。召喚されて以来、ユーカはほとんど王城に隔離同然の身。

 慣れた頃、少しずつ外の世界にも馴染ませようとした矢先に誘拐事件があったせいで、安全性を優先して結局頓挫したままだった。


 なによりユーカの護衛その他の経費も、税金からだもんな。王城の外に出るとなれば、人手も資金も警備計画の手間も余計にかかる。

 私もザカライア時代には覚えがあるわ。毎日が王城と学園の往復だけ。それ以外の行動は、行く前から億劫で諦めた。学生時代は私も若かったものだよ。オバちゃんになるごとに全然気にしなくなったけど。


 脳筋とはいえ、基本的に普通の女の子のユーカ。遠慮して我慢しちゃってたんだね。

 せっかくファンタジー世界に転移したってのに、まともに街をぶらついたこともなかったなんて。気苦労ばっかでお楽しみが全然足りないじゃないか。それは何とかしてあげないと可哀想だな。


「いいよ。ラングレー家で全ての責任を持つ。街に遊びに行こう」


 その場で請け負ってから、キアランに視線を向ける。


「そうだな。俺も、できるだけの協力はする」


 いろいろ不都合なこともあるだろうに、全てを飲み込んで、キアランも協力を申し出てくれた。


「僕もおじい様に、相談しておくね」


 ノアも快く話に乗ってくる。アイザックの協力があれば一気に計画が具体的に進められる。ユーカへの誕生日プレゼントなんてプライベートなことで、他人の私が宰相を動かすわけにもいかないし、ノアが切り出してくれて助かった。


 ――って、あれ? もしかして、ノアも私の()に気付いてる!?

 ちらっと見れば、意味ありげに微笑まれる。


 ――おおうっ、これは確定か。表情は全然違うのに、あの()()()にアイザックと通じるものを感じる。血は争えないな。

 まあ、あの情報収集モンスターの前では時間の問題だったか。ヤブヘビになりそうだから、あえて触れるのはやめとこう。


 現実問題としても、危険要素のグレイスは、建国祭の大暴れで多くの力を使い果たしてるはず。今のうちのタイミングだったら、安全な気がする。

 ゲート問題が公表されたらしばらく騒がしくなるだろうし。


「よし、決まりだね! できるだけ大人数で楽しくやろうよ。スケジュール調整とか、いろんな準備で少し先のことになっちゃうけど、いい?」

「――嬉しいです。楽しみに、してます」


 ユーカは最後の方は、声をかすかに震わせて、ありがとうと言った。

 もう、涙は我慢できなかったみたいで、手の甲で目元を拭っていた。


 頑張ってる子には、やっぱり相応の応援があって欲しいとこだよね。


 このユーカの姿で、やる気にガッツリ燃料が注がれたぞ。プレゼントの製作と並行してパーティーの企画も進行させていこう。






 復帰初日の学園生活を平穏に終え、今日は仕事も寄り道もせずに真っすぐ帰宅した。


「良かった、間に合った」


 屋敷に戻ると、すでに帰り支度を整えて、叔父様と居間でくつろいでるトリスタンがいた。いつでも旅立てるいでたちだ。


 今日も王城での用事を最低限に済ませ、これ以上は面倒事に引きずり込まれないうちに、さっさと領地に帰る算段だ。後はジュリアス叔父様に押し付けて。


 せめて明日の朝の出発にすればいいのに、相変わらずのせっかち。似た者親子と言いたいとこだけど、他人だった時代からお互いそうだから何とも言えん。


「もちろんグラディスの顔を見るために待ってたに決まってるだろう?」


 立ち上がったトリスタンは、いつものようにお別れの抱っこをしてくる。とっくに成人してるのに、もうすぐ三歳のクリスとロレインたちといまだ同じ扱い。片手で軽々と抱え上げる。ちなみにマックスへの可愛がり方は、鬼のしごきだ。私より遥かに手がかかってるけど、羨ましいとは全く思わない。


「次に会えるのは、()だからな」


 続いて出た言葉は、普段のように社交時期を意味しているのではないとすぐに分かった。


「必要になったらすぐに俺を呼べ」

「当然」


 普段は適当でも、そこは信用している。

 それより、私が()()()()を持ってることも感付いてるんだね。預言者ってホント油断できないわ~。


 感心する私を、トリスタンは珍しくじいっと見つめてきた。


「何?」

「大きくなったなあと思ってね」


 どこかしみじみとしたように答える。


「本当に、時が流れるのはあっという間ですね」


 ジュリアス叔父様も感慨深そうに同意した。


 叔父様はともかく、トリスタンまで吐き出した似合いもしない親らしいセリフに、思わずドキリとした。

 これはアレだね。キアランとのことが嗅ぎ付けられてる感じ?


 切り出し方が分からなくて、いまだに伝えてないんだよなあ。結局世間への公表NG食らって出ばなをくじかれちゃったし。


 トリスタンは私を抱えたまま、実に楽しそうに恐ろしいセリフをさらりと抜かした。


「娘が欲しければ俺を倒せとか、言ってみたいよなあ」


 ちょ~~~~っ、シャレになってねえ!! そしてやっぱりバレてる!!

 そんなの私また行かず後家決定じゃん!! 叔父様も「そうですねえ」じゃないよ!! 割と本気で言ってない!?


 強さが正義なとこのある風土だから、この国では一般人の層ですら割と普通にあるんだよ。我が子が選んだ恋人との、拳での語り合いが。

 トリスタンにしてみたら、キアランは王子というよりは、後輩夫婦の息子。意外と無理がまかり通りそうで怖い。


「エリアスの奴、俺に一言もないのはどういうことなんだろうなあ?」


 ああ、やっぱりエリアスにまで飛び火した!? あんたと違って多分死ぬほど忙しいんだから勘弁してあげて!!


「キアランと付き合い始めたこと、黙ってたから、イジワル言ってる?」


 私はちょっと口をとがらせる。

 二人が安全以外の件で、私に干渉してくることなんて滅多にないのに。


「ごめんね。冗談がきつかったかな? ちょっと寂しくなってしまってね」


 ジュリアス叔父様が、いつもの優しい笑顔で謝ってきた。私の頭を、髪をすくように撫でる。


「どんな選択をしようと、僕たちはいつでも君の味方だよ」

「グラディスはグラディスらしく自由にすればいい。今まで通りに」


 トリスタンもキッパリと応援してくれた。


 挟まれるように猫可愛がりされながら、胸がじんわりと温かくなる。


「――お父様、叔父様……」


 そうだよね。いつだって二人とも、やりたい放題の私を見守ってきてくれたもんね。なのに黙っててごめんね。

 思わずほろりとしかけたところで、更にトリスタンが続けた。


「お前の邪魔をするものは何者であろうと、俺たちが確実に欠片も残さず排除してやるからな」

「だから安心して、君の好きなように突き進みなさい」


 叔父様もにっこりと保証する。


「…………」


 頼もしい宣言に、私の笑顔は引きつっていたかもしれない。


 ――逆 に 安 心 で き ね え!!!


 内心で戦慄を覚えたのは内緒だ。

 いや、ありがたいよ!? 涙がちょちょぎれちゃうほどありがたいんだけどね!? この武力と知力の最凶タッグは、最終的に何と戦うつもりなの!?


 お願いだからやり過ぎないでね?

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