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訪問

「グラディス、ちょっといいか?」

 

 寝室でデザインに没頭してたとこで、ノックの音と声がかかる。

 夕方になる前に、マックスが帰ってきた。


「うん、いいよ」


 今日あったことも聞きたいし、ちょうどいい気分転換だ。

 ベッドに上半身起こしたままで、ノートを置いて返事をすると、すぐに扉が開いた。


「お帰り、マックス……って、え!? キアランも!?」


 マックスの後ろから、続いて入って来たキアランに、素で驚いた。うちに訪ねてきたのって、何気に初めてだ。


 ベッドにいる私を見て、キアランが申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「悪い。お前に相談があって、マクシミリアンに頼んで連れてきてもらった。具合が悪いならすぐ帰る」

「ううんっ、全然大丈夫だよ! 来てくれて嬉しいし!」


 歓迎しながらも、ちょっとノゾキをやってた手前、後ろめたさで内心あたふたしてしまった。


 やっぱ悪いことは駄目だな! せっかく会えたのに、素直に喜べない! ってゆーか、よく考えたらキアランには絶対すぐにバレる!! 改めて考えると、ノアのメンタル結構すげえな。私とは別ベクトルで突き抜けてねえっ?

 ――反省して悔い改めるよ、コンチクショウ!!


 それにしても完全に油断してたわ。いつもなら、少なくとも屋敷に来た時点では、確実にキアランの存在に気付くはずなのに。やっぱり、調子がまだ不安定だなあ。


「それで、相談って……」


 何?――と問いかけようとした言葉を、そこで切る。近寄ろうとしたキアランの様子が、一瞬で変わった。私を見た直後、一瞬目を見開いた気がする。


 そして表情を隠すように額に手を置いて、何かを考え込むように足を止めた。


「キアラン?」

「――」


 呼びかけても、珍しく反応がない。


 え? ちょっと何、この反応? どっか変? すっぴんだから? でも普段はナチュラルメイクだし、第一キアランそんなことを気にする人じゃないよね?


 戸惑う私をよそに、立ち止まって動かないキアランは、その姿勢のままで呻くように隣のマックスを呼び留める。


「――マクシミリアン」

「何だ?」


 マックスは理由が分かってるらしく、意味ありげににやにやと応じた。

 なんか私だけ蚊帳の外な感じなんだけど……。


「えっ!?」


 キアランは何の予備動作すらもなく、いきなり無言でマックスの顔面に拳を放った。


 イメージとあまりにかけ離れた突拍子もない行動に、唖然とする。


 騎士同士からすれば、じゃれ合う程度のぬるいパンチ。マックスは当然余裕で、軽く片手で受け止め……られなかった!?


 次の瞬間には、マックスは尻餅をついていた。見事なくらい、ハトが豆鉄砲食らったような顔で。


 お見事!

 王家の特殊能力使って、防御力に細工したらしい。身体的なダメージは欠片もないのに、想定外の敗北に、マックスが唖然としている。


 おお、これは貴重なシャッターチャンス! カメラないけど。


 マックスが同年代にしてやられる光景なんて見たことない。能力に恵まれてるこういう奴が鼻をポッキリ折られるのは、悪くない経験だぞ。

 無傷でも、精神的なショックは相当なもの。

 なんだか知らんけど、キアラングッジョブ!


「――くそう……」

「ところで、この出し抜けのやり取りは一体何?」


 悔しそうに立ち上がるマックスと、しれっと涼しい顔をしてるキアランを見比べて尋ねる。

 本当に意味が分からない。


「驚かせて悪かったな。お前の意志を蔑ろにするなと釘を刺しておいたんだが、すでに反していたようだから制裁した」

「……制裁?」


 あまりにキアランらしくない脳筋行動に、困惑を禁じ得ない……。

 確かにマックスにとっては、下手に全力で戦ってボコられるより、今みたいなチョロい倒され方の方が圧倒的に屈辱には違いないんだけど。


 それからキアランはベッドの脇まで近寄ると、あまりの謎展開に軽く傾げていた私の首へと、有無を言わせず手を伸ばした。


「えっ、キ、キアランっ!?」


 なっ、何が起きてるんですか!? この強引な感じ!! すぐそこにマックスいるんですけど!?


 いや、考えが大暴投してるのは分かってるけどねっ、うっかり期待しかけてもしょうがないでしょ!?


 思わず硬直したまま、成り行きを見守ってると、触れられた首筋の部分が少し温かくなった気がした。


「――あっ……」


 そこでやっと一連の謎の言動の理由に思い当たる。


 私の意志を蔑ろって、アレか!? 昨日の、キアランの反応確かめてやるってやつ。すっかり忘れてた!

 キアランは、マックスに強引に付けられた痣を、治癒魔術で消したんだ。


 終わってから、手を離したキアランが、少しバツが悪そうに私の顔を覗き込む。


「――すまない。またお前に確認しないで、勝手なことをした」

「う、ううんっ、大丈夫、ありがとっ」


 顔が勝手に緩みそうになるのを、必死でこらえる。

 昨日から見慣れない一面のオンパレードに、内心テンション爆上がり!!

 こんなキアランが見られるなんて!!


 これは大人の対応でスルーどころか、過剰なくらいがっつり反応を見せてくれたって判定でいいんだよね!? もしかしてヤキモチ!? そして私の二股とか欠片も疑ってもないこの信頼感!!

 どうしよう、嬉し過ぎてなんか鼻血出そう!! 乙女の意地にかけて死んでも出さないけど!!


 自分に非があると分かってるせいか、マックスもあえて反撃をする気配はなかった。ものすっごく苦虫をかみつぶした顔だけど。


 いやいや、でかした、マイブラザー! 昨日は怒ったけど褒めてやるぞ! ご褒美はないけどな!!

 何を賭けたわけでもないのに、マックスとの賭けに完勝した気分だ。

 これで不合格とは言わさないぞ!


 それに内容はまだ不明だけど、キアランが一人で抱え込まないで早速相談に来てくれたというのも嬉しい。

 ちゃんと昨日の注文に応えてくれてるってことだもんね。


 早速話し合いだと、毛布をよけてベッドから降りる。

 朝より体調は良くなったし、いつまでも寝室にいてもらうのもなんだし。マックスがいなかったら分からんかったけども。

 とゆーか、マックス同伴でなかったら、キアランはお見舞いでも絶対寝室になんて入ってこないか。


 隣の自室に案内してお茶でも用意させて……と考えてたところで、キアランが驚いた表情をした。


「グラディス、その恰好は……」


 目のやり場に困ったように、視線を逸らす。


 おおうっ、これでもアウトか。

 うちではずっとこれが当たり前だったから、逆にこっちがビックリだよ。自分の格好を改めて確認して、世間とのズレを今更認識する。


 私は昔から寝る時はTシャツ短パン派なのだ。

 パジャマもネグリジェも、鬱陶しくて邪魔に感じる。


 なんなら一周目なんて、下着で家をうろつくこともザラだった。

 二周目以降の住環境では、周りが他人だらけだったからさすがにやめたけど、布団の中でのこのこだわりはなかなか変えられない。安眠に関わるからね。

 ザカライアの時は特注で作らせて、寝室限定で愛用してた。

 それどころか、前世の記憶が覚醒する前の子供グラディスですら例外でなかったほど筋金入り。可愛いかぼちゃパンツとか、うるさくない程度にレースやらフリルで飾ったノースリーブとか、自分の寝巻用にデザインして、着てたもん。


 マックスもうちの使用人も慣れてて、私自身なんとも思ってなかったけど、これですらまだ世間的には露出過多なんだよなあ。

 上はともかく、足がほぼ露出してるのがマズイらしい。せっかく自慢のスラっとした長い足が、完全に宝の持ち腐れなんだけど。


 ミニスカートで太腿をさらせる世の中になるまで、あと何年かかるんだ? 二十歳過ぎまでもう三年ちょっとしかないのに。

 少なくとも三十過ぎてミニスカートは痛いと思ってる私は、意外と保守的なのかもしれない。他人が着てる分には、似合ってさえいれば勝手だけど、私の価値観とは違うんだよな。だからこそ、自分が堂々と着られる期限がじりじり減っていて焦るんだけど。


 だけど、さすがにねえ……どうなんだろう?

 いくら何でもTシャツ短パンごときでは、なかなか恥じらえないよ? この世界基準で普通の感性の持ち主のキアランが戸惑うのはしょうがないんだけど……。


 ――って、あれっ? 嘘っ!


 顔が自然に火照ってきたのを自覚する。

 意識されてるのを意識したら、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ!? ただのショートパンツなのにっ、太腿むき出しってそんな大層なもんだったっけっ!? ああ、なんか分からなくなってきた!


 どっ、どうすればいいんだ!? とりあえず布団に戻っとく!?


「二人の世界作ってんじゃねえ、コノヤローっ」


 すかさずマックスが、焦る私にワンピースタイプのルームウエアを強引にかぶせてきた。そしてやけっぱちのように吐き捨てる。


「話があって来たんだろ、とっとと話してさっさと帰れっ!」 


 キアランをせっつきながら、最後にぶつくさと一言悔しそうに呻く。――可愛いじゃねえか、ちくしょうっ、と。

 まあ、あんた相手に恥じらったことないからね。


 私だって自分の制御不能っぷりには、昨日からほとほと困ってんだよ。

 この感情の乱高下。ザカライア時代に完全封印してたのも納得だわ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >すかさずマックスが、焦る私にワンピースタイプのルームウエアを強引にかぶせてきた。そしてやけっぱちのように吐き捨てる。 姉とはいえレディのタンスを勝手に開けちゃあかんでしょ。 ダウト…
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