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書籍化します!

それに伴い、タイトル、PNが変わりました。

大預言者は前世から逃げる ~三周目は公爵令嬢に転生したから、バラ色ライフを送りたい~(旧題:三周目の公爵令嬢は全力で前世から逃げる)

詳細はお待ちください。

よろしくお願いします。

「ところでキアランは、どうしてここに?」


 どことなくそわそわと落ち着かないまま、紛らわせるように尋ねる。


「――ああ」


 問われて、キアランはまず私を下に降ろしにかかった。靴を置いてあった場所まで運んでくれて、どうぞとばかりに膝を折る。


「…………」


 裸足の私が靴を履きやすいようにという気遣いはありがたい。でも、跪いた状態のキアランの膝に座って、横に抱えられたこの状態――どうにも呼吸が不自然になりそうだ。

 すぐ真横に視線を感じながら履くまでをじっと見守られてるのって、普通に抱っこされてるより、何倍も気恥ずかしい。

 何とも言えない気分で、そそくさと立ち上がる。


 するとすかさずキアランは、自分が着ていた上着を脱いで、ボロボロのドレスの上からかけてくれた。なんとも至れり尽くせりだ。ここはどこのホストクラブか。行ったことないけど。

 キアランの温もりと匂いが、不意にふわりと広がる。


「汚れちゃうよ」

「今更だろう」


 なんとなく照れを誤魔化すと、キアランがかすかに笑う。


 確かに森林中を行動した名残がうかがえる、朝より多少くたびれた上着を、ありがたく受け入れる。そもそも例によってハンカチ代わりにしちゃってたし、ホント今更だ。


 羽織らせてくれるだけかと思ったら、ちゃんと腕を通されて、第一ボタンまできっちり留められて、余った袖まで程よい長さに折ってくれる気配り。王子様なのに。キアランらしくて、なんだかおかしい。

 きっと行くとこ行ったら即ナンバー1になっちゃうよ。通い詰める女性の気持ちを悟りそうで怖い。

 

 丈が長いからちょっとドレスみたいになってる。目にした瞬間から、かっこよさに心を奪われた軍服を着たせいか、妙にテンションが上がった。


「これを……」


 私に着せた上着のポケットからキアランが取り出したのは、紫の光を反射する守護石。私の手を取って、その上に乗せる。


「あ……」


 トロイに奪われた後、確か樹林の管理小屋にそのまま置いてきちゃったんだ。


「見つけてくれたんだ……ありがとう。でも、後でもよかったのに」


 こんな大事件の後で、わざわざ馬で一時間もかかるようなところまで来させてしまって、申し訳ないくらいだ。

 まあ、キアランならその辺はしっかり手を打ってるか。


「大体、ここにいるとは限らなかったでしょ?」


 突然カッサンドラに、転移で跳ばされたんだし。みんなから見れば忽然と消失した状況で、私の所在地なんて見当が付くはずもない。

 トロイのナワバリだった樹林と同様、ここはカッサンドラの聖域だから、多分ユーカの転移とかも無効だろう。行き先も不確かなまま、地道に足で移動するしかない。

 大分らしくない無計画さだな。


 キアランは大したことでもないように頷く。


「そうだな。ここにいなかったら、次の心当たりを順に探すつもりだった。だが、ここだと思った。同じ消え方を、前にも見たから」


 なるほどと思い出す。前回キアランをここに連れてきた時、私は水中に引き込まれるようにして消えたんだ。今回と同様、カッサンドラに呼ばれて。


「俺はマクシミリアンのように、自宅で待ってるわけにはいかないからな。――少しでも早く、お前に会いたかった」


 真っすぐ見下ろしながら告げられた言葉に、どきりと心臓が跳ね上がった。


「な、なんで……?」


 変な汗を感じながら尋ねると、キアランは少しだけ苦しそうに口元を歪めた。


「お前に、謝りたかった」

「――え?」


 予想外の一言に、思わず訊き返す。


 ふぁっ!? 謝る?


 あ~~~~! 危なかった~~~!! なんだか知らないけど、私なんかとんでもなく先走るとこだった!? いや、セーフだセーフ!!


「謝るって、なんで……?」

「何としてもお前を助けたかったのに……俺は、何もできなかった。肝心な時に、間に合わなかった。無事だったのは、ただの運だ。お前を最後まで一人で戦わせて、辛い結末を味わわせて……無力な自分が、不甲斐ない」


 本気で自責の念に駆られる姿に、胸を突かれた。


「それは違うよ! 私、一人でも、ずっと一人じゃなかった! 戦う手段もなくて心細かったけど、知らない間に護られてたって気付いた時、すごく心強かったよ!」


 自分でも驚くほどの大声で、はっきりと否定した。


「キアランがトロイに歯止めをかけてくれたから、あれ以上の精神干渉が防げた! そうでなかったら、今頃もっと取り返しのつかないことになってたんだよ! それからガラテアの守護石だって……って、あれ!? どこだっけ!?」


 すっかり忘れてた!


 焦って周りを見回すと、草のベッドに赤い光が見えた。半分埋もれている石を見つけて、ほっとする。疲れ果てて意識を失ってた時に、手から零れ落ちていたらしい。

 すぐに拾い上げて、キアランに差し出した。


「キアラン、これを託されてからずっと魔力を込め続けてくれてたんでしょ? そして、私の元に送り届けてくれた。これがあったから、何とか持ちこたえられたんだよ。そうでなかったら、私もあの場で死んでた。キアランもみんなも、私をちゃんと護ってくれた。本当に感謝してるよ。謝ったりしないで」


 その手を掴んで、強引に握らせる。


「私を支えてくれて、ありがとう、キアラン」


 心からの感謝の想いを伝えた。キアランは、すっきりとは呑み込みがたい様子で、それでも観念したように、言葉とともに受け取った。

 珍しく迷ったような、当惑したような表情で見つめ返してくる。


 そして、ひっこめかけた私の手を、引き留めるように掴み取った。


「キ、キアラン……?」


 思わず飛び上がりそうになる自分を、必死で抑え込む。


 もう、さっきから、何なんだろう。

 なんだかずっと息苦しい気がする。ここの空気は澄んでるはずなのに、普段より薄く感じる。


 自分が、いつもと違っておかしくなっていることには、少し前から気付いている。

 って言うか、気付かずにいた今までがどうかしていた。

 抜け出せないほど強く握られた手に、激しく狼狽えている。


 キアランもキアランだ。

 さっきからずっと変に言動が紛らわしくて、振り回される。

 今度は一体何なんだ。心臓が駆け足状態から、少しも速度を緩めてくれない。


「悪い……さっきのは、言い訳だな」


 私の内心の動揺をよそに、キアランは苦笑いで呟く。


「感情くらい、抑えられると思っていたんだ……。――でも、お前が連れ去られた時、目の前が真っ暗になった。どうして俺は、ただ見ているだけなんだと、死ぬほど後悔した」


 自嘲めいた表情で、そのアメジストの瞳が、魂まで届くように私の目を射貫いてくる。


 間違いようのない予感に、今度こそ心臓が早鐘を打ち出した。


 掴まれた手から、熱が伝わってくる。


 さっき湧水で抱き止められた時も、抱え上げられた時もそうだった。


 いつもの、宥める時の優しく癒す遠慮がちな手とも、助ける時の必死な手とも違う――別の熱を、触れる手から感じていた。


 私が息苦しくなったのは、そのせいだ。


 キアランは掴んだ手を引いて、私をそっと抱きしめた。


「ただ、無性に会いたかった。――俺は、お前に会いたかったんだ」 

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