協力要請
突然見えた、グレイスのビジョン。
今まで、向こうの世界に関わる予言に関しては、辛うじて直前にとか、ユーカの力を借りて偶発的にしか見えた例はないんだけど。
なんでこんなにはっきり見えたんだろう?
通常手段で入った情報なら、罠で誘き出されてる可能性も疑うとこだけど、こんな私にもどうにもできない運次第の予知、他者にコントロールできるわけもない。
王都内のとある場所に、グレイスが現れる画が、これから起こる未来の現実として脳裏に残っている。
敵が現れる場所が明確に掴めているというのなら、せっかくのチャンスを素通りする手もない。
オルホフ公の名で、街の警備に情報を渡してから、すぐに現場に向かうことにする。それなりの戦力の人員が整うのを待っていたら機を逃す。
「で、私クラスの敵って、例の犯人が、また規格外の魔物を召喚でもするわけ?」
警備の騎士から、ついでに剣を借りて装備したロクサンナが、戦う意欲満々で訊いてきた。想定にあるのは、ギディオンの葬儀の時に見た巨大怪獣みたいなアリの魔物だろう。
グレイスの情報は、王都の上層部と警備網には共有されてるけど、基本、部外者には詳細が知らされていない。
「半分正解。その召喚の犯人は、人型の魔物なんだよ。はっきり言って、自分が呼び出す魔物より更に強い。正直あんたでも厳しい。あんたと同格のルーファスですら、攻めきれずに逃したからね。騎士並みに動ける魔力特化型って感じかな。相性が悪い。無理はせず、勝てればラッキーくらいのつもりで当たった方がいいね」
「――気が遠くなりそうな話ね」
嘆息とは正反対に、傍目にもロクサンナの闘気が漲ったのが分かる。腕が鳴るって目だ。
「こんな場所で何事だ」
異変を察知した厳格そうな人物が、店から飛び出してロクサンナに対峙した。
ソニアのお父さんのグラントだ。さすがに武闘派一族。戦闘の気配に敏感だね。連れの若者が、その後ろで周囲の状況を警戒している。遠くから見かけたことがある、ソニアのちょっと年の離れたお兄さん。名前は確かスタンリー。わらわらいる従兄弟の兄様でなくて、実の兄の方。
「ちょうどいいわ。手伝ってもらいましょう」
ロクサンナに提案すると、3人の視線が一斉に私に集まる。
いかにも普段から厳格な頑固オヤジグラントの目は、通常運転で厳しいけど、感情は読み取れないように極力消している。まあ、大体分かるけど。愛娘を傾倒させた悪友に対して思うところはあるけど、大人気ないから抑えてる感じだね。
「手伝うとは、どういうことだ」
その問いに、ロクサンナに視線を向けて返答を促す。私はあんまり出しゃばりたくないから任せた。
「さっき入った緊急の情報でね、例の魔物の召喚の犯人が近くにいるらしいのよ。騎士団の準備が間に合わないから、私が一足先に急襲するところよ。協力してもらえる?」
おお、さすが。ロクサンナがいい感じに誤魔化して、説明してくれた。間に合わないというより、通常の騎士団レベルでは対応できないという方が正しい。
年齢は離れてても、有力騎士は大体、演習や行事、パーティー、大会やらで繋がりがある。当然二人は顔見知り。
「応じよう」
グラントは即決で了承する。さすがに名の知れた武闘派一族。
一方で私は、密かに預言者能力全開の感知で、近辺を探る。今ここに居合わせてる騎士の中で、ロクサンナのフォローができそうな実力者は、他にはいなそうだ。必要なのは数より質だからね。
「じゃあ、早速行きましょう」
私の提案に、再び注目が集まる。
「なぜお前まで?」
強面のグラント。戦えもしないのに足手まといがでしゃばるんじゃねえと、露骨に目が言ってるぞ。良識ある大人としても、友達の父親としても正しい意見なんだけど、そんなので引き下がる私じゃありませんよと。
「私、前回の目撃者ですから。対象は、存在が唯一確認された人型魔物です。もし人混みに紛れていたとして、私なしで見分けを付けられます?」
オラオラどうすんだ、とばかりに逆に脅しにかかる。鋭い目線を余裕で受け止め、返答を促す私を、ロクサンナがまだるっこしいとばかりに抱き上げた。
「グラディスは連れて行くわ! 私も見分け付かないし。時間が惜しいから行くわよ!」
さっさと言い捨て、来ないなら置いていきそうな勢いでアーケードを走り出した。おお、手っ取り早くていいね。
暴走危険運転ですよ~と注意したいとこだけど、ロクサンナほどの騎士が事故るほど鈍いわけもない。グラントも渋々な表情で、直ちに付いてきた。お兄ちゃんも。
「ところで、どこ行けばいいの?」
爆走しながら、こっそり訊いてくる。
「それは走り出す前に訊くことでしょ。ちなみにどっちかというと今反対方向に走ってる」
「まずはアーケードを抜けてからでしょ?」
しれっと答えながら、空が見えた瞬間に、ロクサンナは建物の屋上まで飛び上がる。このジェットコースター感に、私もすっかり慣れたもんだ。
一番高い場所に登らなくても、目的の場所は見通せた。
「あの辺りだね」
都会である王都の中で、憩いとなる緑がよく目立つ。
「また森林公園? 確か夏祭りにも召喚事件があったわよね?」
「うん。前はアスレチックだったけど今度はネル湖の周辺」
見えたビジョンには、広い湖面があった。森林公園内にある、王都で唯一の人造湖だ。
「オッケー、一直線に行くわよ!」
ロクサンナが宣言通りに飛び出し、グラント父子も付いてくる。
――ネル湖か……。これ、確実にアレに関わってそうだよなあ……。
私は遠目に見える湖面を眺めながら、二代目大預言者デメトリアの手記を思い出していた。




