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秘密特訓

 今日の用事は、選考会だけではない。スゲー面白くて、もうお腹いっぱいな感じだけど。


 どうせ王城に来るならついでの用件もすませちゃえと、ユーカへの面会のアポも入れといた。ユーカはあれで普段なかなか多忙だから、プライベートでは会いにくい。


「お待たせしました! もう、今日が超楽しみでした!」


 見るからにウキウキしたユーカが、小走りで寄ってくる。


 王城内のカフェで待ち合わせ。午後の授業が終わって、いつも通り寄り道もせず即行で帰ってきたようだ。


「じゃ、早速行こう」

「はい!」


 そのまま、王城内にあるユーカの自室へと案内してもらう。


 おお、なんだかんだで、転生以降、お友達のお部屋訪問って、人生初だよ。私もちょっとワクワクしちゃう。預言者たちの生活スペースの一角にあるから、すごく慣れた場所ではあるけど。


 お友達にプライベートで会いに来た体だけど、今日の目的はズバリ、()()()()転移魔術検証。ユーカにもできるかどうか、前々から気になってたんだよね。


 転移魔術は、ゲートの向こうの異界由来の技術で、行使にはわずかながらも黒い瘴気を要する。こっちサイドに、私以外の使い手がいたら、いざという時に心強い。


 キアラン同様、ユーカもあまり一人になる機会がないから、内緒で実験する時間を作るのも一苦労だった。学園では毎日会ってるけど、学園内は無許可の魔術禁止だし人目もある。常に護衛付きのユーカと二人きりになれるのは、この形しかなかった。


 前々から疑問に思ってた、ユーカの魔力の有無だけど、測定したら普通に宮廷魔術師レベルであったそうだ。しかも測るごとに成長してるとか。

 そもそもこっちの世界に呼ばれる魂というのは、元から魔力の潜在能力が強い人間に限定されるのかもしれない。まさに絵に描いたようなチートヒロインか。


 当のユーカもすでにやる気満々。


「魔法の秘密特訓とか、超絶たぎりますね!」

「ふふふ。特訓にはならないかもね。あくまでも実験だから」


 私の訂正に、いまいち違いの分からないユーカが首を捻る。悠長なことしてる時間が惜しいから、ちょっとズルをするつもり。


「この部屋は、魔法可だよね?」

「はい。生活スペースは基本的に許可されてます。私もよく自分の部屋で自主練してます」

「じゃあ、早速」


 私の脳に更新された膨大なデータの中から、すでに実証済みの魔術をユーカに施す。限られた時間内で修行してる暇はないから、超お手軽時短技。


 頭脳へのデータの焼き付け。

 私の身に実際に起こったことの、超スペシャル簡易版だ。これも世間には残されていない危険な禁術の類。


 私ですら、初めて預言を受けた時は、脳がショートするかと思った。森林の時みたいな部分的な解凍でも、いまだに発熱する。

 本気でやったらユーカが無事で済む保証がないから、かなり軽目にして、転移魔術一つだけに絞る。


「これでも、もしかしたら少し寝込むかもよ?」

「望むところですよ! 特訓でぶっ倒れるぐらい、ヨユーです」


 すでに燃え上がっているユーカの手を片手で握り、魔力をもらいながら、もう片方の手で、その額に触れた。

 おでこに軽い魔力の閃光が走り、すうっと消える。


 技術さえ脳に刷り込めば、あとはできるかできないかだけ。結果はすぐ出る。


「どう? やり方分かった?」

「あ、すごい! なんか、分かります!」


 ユーカが目を輝かせた。うん、うん、そうだよね。私も感動したもん。


「じゃあ、とりあえずこの部屋限定で、やってみて。まずは目視できる場所への短距離転移」

「はい! 行きますよおっ」


 ユーカは視線を一点に定めて、ついさっき記憶に刻まれたばかりの術を試してみる。


 一瞬で、3メートル先の壁際に向き合って立っていた。


『やったあっ! 大成功!!』


 興奮のあまり、日本語で叫んだ。飛び上がる勢いで振り向いた顔は、歓喜に溢れている。


「完全に『エスパー』です! 『厨二罹患期』に誰もが夢見る『瞬間移動』ですよ!」


 ものすごく共感するセリフを絶叫して、喜びを爆発させる姿は、痛いと同時に微笑ましくもあるな。まったく同感です。


「うん。モノになりそうだね。よかった」


 できることさえ判明すれば、あとはユーカに任せよう。この子も勝手に自主練に励むタイプだからね。この調子だと、相当やりこみそうで、逆に心配だ。


「はい。これ注意事項。必ず守るように」


 成功した時用に用意していたメモを手渡した。

 転移魔術を使ったり、練習したりする上での注意を、事細かに記してある。


 それに目を通しながら、ユーカが不思議そうな顔をする。一番目の項目からまず引っかかったようだ。


「どうして隠しておく必要があるんですか? すごく便利ですよ?」

「強力な手札は、切り札として隠し持っておきたい。できることが敵に把握されてると、対策が取られるでしょ? だから私も、魔法は使えないことにしたままだよ」


 キアランの忠告をほぼそのまま伝える。でも、他にも理由はある。


「そもそも、なんでいきなり使えるようになったか、追及されたら、下手したら魔法陣の犯人との繋がりを疑われかねないよ。逆に私にたどり着かれても困るし。近いうち、必ずその力を使う時は来るから……それまでは、見せかけは現状維持の方向に徹して。トロイたち研究班との特訓の分は、普通に成長してかまわないから」

「真のパワーアップを隠して、今まで通りを装い、召喚の犯人を油断させるわけですね!」


 ユーカは目に強い光を浮かべて頷く。

 ユーカが今、力を付けようと努力しているのは、この世界に自分を無理やり引きずり込んだ犯人の更なる悪事に抵抗するため、もっと言えば戦えるようになるためだ。

 そうは見えなくても、内には激しい使命感と闘争心を秘めている。


「心配しないでください。グラディスの指示なら、必ず守ります。理由はよく分からなくても、必要があってのことでしょ? この世界での、私の監督みたいなものですからね。グラディスに秘密が多いのは、いつものことですし」


 冗談めかした中にも、私への強い信頼を示してくれる。

 そして、いたずらめいた色を浮かべて言った。


「なんだかグラディスを見てると、エイダさんと重なる時があるんですよ」

「――!!!」

「あはは、一本取れましたか?」


 目を丸くした私に、屈託なく笑った。その他意のない笑顔に、思わず苦笑する。


 確かに一本取られた。

 考えてみれば、多分ユーカは、エイダとも私とも双方に、日常で深く付き合いのある唯一の人間だもんね。

 何も分かってなさそうに見えても、預言者に共通する何かを、ちゃんと肌で感じていたらしい。

 

「もちろん、『トップシークレット』ですね」

「――うん。よろしく」


 体育会系らしく、大げさに拳を合わせた。

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