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女性に独創的な仕事はムリだと婚約者に言われました ~私はただ錬金術師として天命をまっとうしたいだけ~  作者: 脇役C


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第25話 会見が始まりました

記者会見の会場となった政府庁舎の大広間は、異様な熱気に包まれていた。

石造りの重厚な壁に囲まれた空間に、各国から集まった記者たちがひしめき合っている。

彼らの手には万年筆とノート、そして期待と好奇心に満ちた眼差しがある。

最前列には政府高官たちが険しい表情で着席し、その隣には国際錬金術協会から派遣された審査官たちが控えていた。


ただの記者会見ではない。

キュリー様が預かったことで、このようなことになったのだろうか。


私は会場の入口で一度立ち止まり、深呼吸をした。

朝から着付けてもらったドレスが、緊張で少し窮屈に感じる。

髪も丁寧に結い上げられ、普段の研究着姿とは別人のようだ。

バンデンさんが言った通り、今日の私は「ヴェールランドの顔」でもある。


「大丈夫です」

隣にいるジェイムスさんが、優しく声をかけてくれた。

いつもの完璧な身なりだが、よく見ると目の下に薄く隈ができている。

私のために、一晩中動いてくれたのだろう。

「あなたらしく振る舞えば、真実は必ず伝わります」

その言葉に、小さく頷く。


密かにポケットに忍ばせた愛用の実験ノートに触れる。

これさえあれば、私は私でいられる。


会場に足を踏み入れると、ざわめきが一瞬静まった。

そして次の瞬間、記者たちが一斉にこちらを見る。

まるで獲物を狙う肉食獣のような視線に、思わず足がすくみそうになる。


「お嬢様」

後ろからユゼフの小さな声が聞こえた。

「僕、ここで見守ってます」

振り返ると、ユゼフが真剣な表情で立っている。

まだ幼さの残る顔に、決意が宿っていた。

「ありがとう」

勇気が湧いてきた。


壇上を見ると、すでにケルヴィが待ち構えていた。

完璧に整えられた金髪は、ポマードで固められて光沢を放っている。

祖国の礼服ではなく、仕立ての良い黒のスーツに身を包んでいるのは、この国へ敬意を払っているというアピールだろうか。

胸を張って立つ姿は、確かに研究所長としての威厳がある。


その隣には、エミリアが誇らしげに寄り添っていた。

薄紫色のドレスが彼女の美しさを引き立てている。

ケルヴィと目が合った。

彼の唇が、小さく歪む。

勝利を確信した者の笑みだった。


私は視線を外し、二階席を見上げた。

そこに、キュリー様がいた。

初めてお目にかかった日と同じ、黒のスーツに公爵位を示す鷲の紋章、胸には勲章が輝いている。

「キュリー様」

思わずつぶやく。


キュリー様がこちらを見たような気がした。

いや、見ている。

公的な場にふさわしい表情を保っているが、その瞳は確かに私を見つめている。

わずかに、本当にわずかに、キュリー様が頷いた。


「ありがとうございます」

心が、落ち着いた。


「マリ・ラ・ジョリオ」

司会を務める政府高官が、私の名前を呼んだ。

「はい」

「指定の席にお着きください」


示された席は、ケルヴィの向かい側。

まるで法廷の被告人席のような配置だった。

ゆっくりと歩いて、席に着く。


会場の構造がよく見えた。

正面にはヴェールランドとスィフト両国の国旗が掲げられ、窓から差し込む午後の光が、埃の粒子を金色に輝かせている。


「それでは、記者会見を開始します」

司会の高官が立ち上がった。

白髪混じりの初老の男性で、厳格そうな顔立ちをしている。

「本日は、スィフト国より提出された申し立てについて、公開の場で事実関係を明らかにします。まず、申し立て人であるケルヴィ・ユーディラス殿より、ご説明いただきます」


ケルヴィが優雅に立ち上がった。

まるで舞台役者のような、計算された動作。


「ご列席の皆様」

よく通る声が会場に響く。

「本日は、我が国の知的財産が、いかに不当に扱われたかをお話しします。そして、一人の裏切り者によって、両国の信頼関係が損なわれた事実を明らかにします」


裏切り者。

今、その言葉に心を揺らしてはいけない。

実験ノートに触れ、深呼吸する。


「マリ・ラ・ジョリオ」

ケルヴィが私を指差す。

「彼女は、我がアルケミア研究所在籍中に、国家機密にあたる研究を密かに行っていました」

助手が大きな紙を掲げる。私の実験記録の写しだった。


見覚えのある私の筆跡。

でも、内容は…。


「ご覧ください。1年前の日付で、電気通信の基礎実験が詳細に記録されています」

記者たちが一斉にペンを走らせる。

カリカリという音が、会場に響く。

助手が次々と紙を掲げていく。

回路図、化学式、実験データ。


「注目すべきは、ここです」

ケルヴィが得意げに一枚の紙を指す。

「使用電圧50ボルト。当時、これほどの高電圧を安定して発生させる技術は、我が国の最高機密でした」

ざわめきが起こる。


「さらに、プラチナ線を使用した精密な回路構成。これも、当時の最先端技術です」

ケルヴィは私を見た。勝ち誇った目で。

「彼女は、これらの技術を盗み出し、ヴェールランドに売り渡した。いわば、産業スパイです」


産業スパイ。

なんて分かりやすく、聴衆の興味を引く言葉だろう。

記者たちの視線が、一斉に私に向けられる。

好奇心と、軽蔑と、様々な感情が入り混じった視線。


私の情熱なんかで、この空気を変えられるのだろうか。


「証拠は、この実験記録だけではありません」

ケルヴィは続ける。

「彼女が我が国を去った直後、ヴェールランドで急速に電気通信技術が発展しました。偶然でしょうか? いいえ、これは明らかに...」


「ケルヴィ・ユーディラス殿」


静かな声が、ケルヴィの演説を遮った。

二階席から、一人の人物が立ち上がっていた。


キュリー様だった。


会場が、水を打ったように静まり返る。


「公爵閣下」

司会の高官が慌てたように言う。

「ご発言は、質疑応答の時間にしていただけませんか」

「いえ、今でなければ意味がありません」


キュリー様は、ゆっくりと階段を降りてきた。

一歩一歩が、まるで時間を止めるかのように荘厳だった。


「私は、ヴェールランド公爵として、そして一人の錬金術愛好家として、重大な事実誤認を正す必要があります」


壇上に立ったキュリー様は、ケルヴィを真っ直ぐに見据えた。

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