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女性に独創的な仕事はムリだと婚約者に言われました ~私はただ錬金術師として天命をまっとうしたいだけ~  作者: 脇役C


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第24話 情熱だと言われました


「その様子だと、あまり順調ではなさそうですね」

メイク室でバンデンさんがそう言う。

いつもは女性しかいないこの部屋に、男性が二人、バンデンさんとユゼフがいるのは不思議な感じだ。


「そうですね…。気持ちだけが空回っている感じです」

「そうですか」

バンデンさんは静かに頷く。

「錬金術では湯水のようにアイディアを出す貴女が、おもしろいものですね」

バンデンさんに言葉のはしに余裕を感じる。


「そんな…、目の前のことにただただ夢中になっているだけです」

その余裕のおかげで、少しだけ冷静になれている気がする。

いや、それだけじゃない。


「キュリー様が、この件を預かってくださる」

先ほどのバンデンさんの言葉を繰り返す。

念を押すように。


「あくまで公的な形です。残念ながら、貴女の味方ではありません」

浮き上がっていた心が叩き落とされた気持ちになった。

「そうですよね…」

当たり前のことだ。

何を喜んでいたんだろう。


「しっかりしてください。そんな露骨な表情されると困ります。貴女が主役なのですから」

主役?

「主役か、そうかもしれませんね」

記者もこの国も祖国も、今日は私に注目している。

吐きそう。


「貴女の最大の武器は何ですか?」

「武器…?」

「あなたが持っていて、ケルヴィ氏が持っていないものは何ですか?」

考える。


知識? いや、彼も勉強はできる。

経験? 彼の方が長い。

何だろうか?


「分かりません」

「情熱です」

バンデンさんは微笑む。

「錬金術への純粋な情熱。それが、あなたの最大の武器です」

「でも…それは今回、何の役にも」

「立ちますよ」

バンデンさんが断言する。

「本物の錬金術師かどうかは、話せば分かる。特に、専門家なら」

「………」


正直、半信半疑だ。

物事が情熱でうまく行くのなら、この世界はもっと平和だ。

特に政治は。


「マリ様」

バンデンさんが真剣な顔になる。

「この時代を動かしているのは間違いなく錬金です。でもどの時代でも、情熱がなければ人も時代も動かないものです」


言っていることは分かるような気がする。

でも、ふわふわしている話のような気がした。


「公爵閣下を信じてください」

ドキッとした。

「情熱をぶつけてください。貴女はそれだけでいい。いえ、それがかなめです」


バンデンさんが、ここまで時間をかけて話をしてくれている。

キュリー様も、難しい立場にいながらも私のために動いてくださている。


「貴女のことを失いたくない。貴女に関わってきた人はみな、そう思っています」


「ありがとうございます」

深呼吸をする。

やるしかない。


ドアが勢いよく開いた。

「マリさん!」

ジェイムスさんが飛び込んできた。

いつもの優雅さはなく、髪は乱れ、ネクタイも緩んでいる。


ジェイムスさんとバンデンさんの目が合う。

「ここにも、貴女のこと強く思っている方がいるようですね」

バンデンさんが微笑みながら、そう言う。

「当然です。彼女は大切なビジネスパートナーです。こんなことで消えるような人材ではない」

ジェイムスさんは顔を背けながら、ネクタイを結びなおす。


「そういうことにしておきましょう」

バンデンさんは扉に手をかける。

「それでは。会見での貴女の勇姿を楽しみにしています」

そう言って去っていった。


「失礼しました」

ジェイムスさんが咳ばらいをする。

「ケルヴィ氏の過去の論文を全て調査しました」

ジェイムスさんは大量の資料を机に広げる。


「見てください。これが5年前、これが3年前、そしてこれが去年の論文。全て、部下の研究を横取りしたものです」

「どうして分かるんですか?」

「文体と筆跡です。微妙に違う。そして何より、研究分野がバラバラ。専門性がない」

確かに。一人の研究者がこれほど広範囲の研究をするのは不自然だ。


「でも、それだけでは証拠に…」

「そこで、これです」

ジェイムスさんは一枚の書類を取り出した。

「一年前、ケルヴィ氏は突然、研究所の予算配分を変更しています。電気研究部門に、通常の10倍の予算を」

「一年前…」

私がこの国を発ったあたりだ。


「しかも、その資金で購入したのが、ヴェールランド製の実験機材。プラチナ線、特殊電池、精密測定器」

「まるで、私の研究を再現しようとしたみたい」

「その通りです。でも、失敗した」

ジェイムスさんは別の書類を見せる。


「これ、スィフト国の事故報告書です。電気実験中の爆発事故が3件。全て、ケルヴィ氏の指示で行われた実験です」

爆発…。

電気を扱う実験は危険だ。

正しい知識なしに行えば、大事故につながる。


「彼は理論を理解せずに、見よう見まねで実験を行い、失敗した。ケルヴィ氏の責任を問われ始めています。予算がついやして結果が出ていないのだから、それも当然でしょう。だから、あなたを連れ戻そうとしている」


なるほど。

でも、これも状況証拠でしかない。


「だから、貴女は貴女のままでいい」

そうジェイムスさんが言った。

その言葉の意味をくみ取れないでいると、

「貴女が持っている錬金術へのくなき“情熱“ それをケルヴィ氏に、いえ民衆に伝えればいいのです。証拠を揃えたり、矛盾をついたりするのは、私の仕事です」


情熱。

違う二人が同じ言葉を言ったことに、不思議な気持ちになった。


「情熱」

思わず口にも出してしまう。

「そうです。貴女は根からの錬金術師です。偽物の言葉など、本物の前では色あせて見えます。民衆だってバカでは」

ジェイムスさんが言葉を止める。


「どうかしましたか?」

言葉を止めたことに、何かあったのかと思ってそう尋ねた。

「いえ、貴女がまれたので。良かったです。やはり貴女は笑顔が似合う」


そうか、私は笑っていたんだ。

本当に、ありがたいな。

私は本当に恵まれている。


あんなに目の前がくすんでいたのに。

今では景色が良く見える。

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