MMW-091
いよいよ遠征にいく話が具体的になったのは、ベルテクスのメッセージから数か月後だった。
それまで、試合を定期的にこなし、外仕事をこなす日々。
じっくりと準備をし、赤ん坊の成長を見守る日々でもあった。
思ったより遅いと考えるべきか、これでも早いと考えるべきか。
悩ましい中で決まった遠征だが、結論から言うと、自分たちだけの遠征ではなかった。
理由は、他の戦士やその飼い主が妙に興味を持ったから。
先日見つけた施設と同じように、当たりが隠れていたらと考えたらしい。
「はっ、余裕のあるやつ、ないやつ、色々だな」
「逆転に賭けるには、どうかと思うけどね」
出発の日。
集合場所に集まってくる面々は本当に様々だ。
それでも、コロニー側が選別したらしいから、腕は確かだろうし、変な思想もないだろう。
なにせ、今回向かう先は事件があった場所にとても近い。
そう、ソフィアの両親が行方不明になった地域にだ。
(都合が、良すぎる……いくらなんでも、一回目で目的に近づける物だろうか?)
遠征としての仕事、その話を聞いた俺はまずそう感じた。
いや、ベルテクスが事前にわざわざ伝えてきたのだ。
深く考えずともそういうことだろうか。
『コロニー側としても、ちょうどよかったのかもな。有力な勢力が、ただいなくなったのは悩ましいだろう』
確かに、ソフィアの家、グランデールはトップランカーのアデルたちも知っているぐらいの家だ。
こんな時代に、貴族だどうとかを維持できていたほどの。
であれば、コロニーへの貢献も相当なものだっただろう。
(そうでなくちゃ、そもそもソフィアが1人でどうにかしようなんてことが許されるはずもない)
きっと、普通の家だったらとっくにどこかでひどい目にあっていただろう。
当主たちが行方不明だとしても、死亡の確認がされたわけじゃない。
そんな状況で、ソフィアに何かあって、それで両親たちが戻ってきたら?というわけだ。
「考えることが多いと、嫌になるね」
「考え事か? なあに、気にすることはない。やれることしか、やれねえんだ」
そのつぶやきは、遠征に集まった人々の喧騒に溶けて消える。
代表の1人ということで、ソフィアが事務手続きにいったのを待っている状態。
視線も、雰囲気も、どうも落ち着かない。
こんな時間は、考えばかりがぐるぐる回るような気がする。
「セイヤ、落ち着けとは言わねえ。もう少し堂々としてろ。お前はもう主戦力の1人だ。後ろについてこい、ぐらいの気構えでいろ」
「そういことか……ありがとう。そうそう、赤ちゃんが健康そうで何よりだよ」
「ああ、それは本当にそう思うぜ。長引いたり、そもそも産めないことがあるって聞いてたからよ」
気分を変えるべく、何度もした会話に戻る。
そう、無事に生まれたリングとエルデの子供の話に。
男の子らしく、名前は考え中だそうだ。
悩んでるというのもあるし、結局……死ぬかもしれないというのが大きいのだろう。
仮に、親としての2人が死んでしまったら、子供だけでは生きられない。
そして、この状況で赤ん坊を育てるやつはいないってことだ。
「名前が付けられるように、生き残ってもらうからね」
「……ありがとうよ。っと、来たな」
トラックの中で赤ん坊と過ごしているエルデ。
そんな彼女のいる場所を2人で見ていると、少し騒がしくなった。
ソフィアたちが、建物から出てきたのだ。
その中には、ベルテクスもいた。
それだけ、この遠征にコロニーが本気ということだ。
アデルたちがいないのは、別の要件があるのだろう、恐らく。
「行きますよ、セイヤ。目標は星の海、かつて人類がこの地下世界に逃げ込んだといわれる地上への道、その1つです」
「っ!! 了解!」
事前の予定より、さらに踏み込んだ目的地に、驚きつつも同意を返すのだった。




