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空を目指して走れ~地下ロボ闘技場でトップランカーを目指す俺の記録~  作者: ユーリアル


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MMW-090



「ずいぶん買い込んだなあ、おい……」


「このぐらいがちょうどいいわよ。一か月とか二か月、ずっとということも考えられるわよ?」


「そんなにコロニーを留守にして、大丈夫なんでしょうか……」


 4人で暮らすガレージに、買い物した荷物を持ち帰っての会話。

 俺は最後の箱を置いて、会話に合流だ。


 店から、ガレージまで運んでもらったぐらい、大量である。

 それでも、まだまだ予算に余裕はある。

 ソフィアも言っていたが、機体の修理費用が抑えられてるのが大きい。


(ま、許されている範囲で自分たちに賭けているってのがあるけどさ)


 戦士たちのやる気を出すためか、一発逆転もできるよとしているのか。

 試合の際、自身の勝利に賭けることができる。

 もっとも、その分不正がないかを厳しくチェックされるらしいが……。


『相手が約束を破って、殺しにかかることだってあり得るからな。不正はほぼできないさ』


(そりゃあねえ……事故を装って、良いところに当ててくるかもしれないもんね)


 負ける側にとっては、言葉通りに致命的な負けをする可能性がある以上、そんな約束はしたくない。

 命がかかってるこの地下世界での試合では、不正は事実上無理なのだ。


 それは、外での仕事でも同じ。

 やろうと思えば脱走のように旅立てるが、外で補給は困難だ。

 つまり、いつか力尽きる。


「大丈夫だろう。コロニー側だって俺たちが外でただ朽ち果てるとは思っちゃいない」


「そんな言い方しないの。この子のためにも、戻ってこないといけないんだから」


 真面目ぶった口調で、そんなことを告げてくるリング。

 そんな彼を、エルデは腕の中に赤ん坊を抱きながらたしなめている。


 そう、赤ん坊だ。

 ついに、生まれたのだ。


「そのさ……リングはここにいなよ。エルデ一人でってわけにはいかないからさ。俺と、ソフィアで行くから」


「大丈夫、とは言えないですからね。私たちは子育て初心者です」


 俺なりに気を使った言葉に、ソフィアも同意してくれた。

 そう、赤ちゃんは体が丈夫ではないということは、学んでいる。


 教育、そして……プレストンの記憶で。


『よっぽど大丈夫だが、いざというときに治療ができないからな。とはいえだ。コロニーにいても同じだぞ?』


(それは……そうかもだけど)


「ありがとう。でもね、セイヤ。コロニーにけがを治す人はいても、病気、特に子供の病気を診れる人はいないのよ。これは他のコロニーでもそう。失われているの」


「そうだ。さすがに今すぐは無理だが、落ち着いたら一緒に行くぜ。なんなら、戦力がそばにいる外のほうが安全まである」


 コロニーでの生活が長い2人が言うように、コロニーには成人向けの治療しかない。

 子供、赤ん坊用のものは、ないらしいのだ。


 エルデは失われたと言っているけど、恐らく真相は……本来必要ないから。

 戦士として生産されるのが今の人類であり、人間同士で子供を作るのは、今では特別なのだ。


 ぐっすりと眠る赤ちゃんの寝床も、どうにか用意したのだ。

 これが、俺たちみたいに成長するって、目の前で見ても信じられない。

 けれど……確かに感じるものがある。


「ん、わかった。被害が出ないように、きっちりやるよ。それでいいんでしょ」


「そういうこった。期待してるぜ」


 リングもエルデも、そしてソフィアも、そのことはわかっているんだろう。

 プレストンの記憶もある俺にとっては、少しもどかしいけど、やるべきことははっきりした。


 たとえ外で何かあっても、守り切ればいい、と。


「ですね。では、次の試合が終わったら、遠征を進言してきます。そろそろ、良いようですから」


 詳しく聞けば、ベルテクスからメッセージが来ていたらしい。

 準備はしておけ、と。


 いよいよの時間が、目の前に迫ったことを感じる。




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