MMW-083
やってきました岩山。
岩山ってだけなら、そこら中にあるし、なんならいくつも通過してきた。
今回の岩山が特別なのには、理由がある……はず。
近くまで道路として整地されてるといえば聞こえはいいけども、単に走れるだけ。
綺麗とは言い難いし、何より……。
「違和感がすごいんだけど……」
「安心しろ、俺もだ」
リングに続き、表向きの依頼主であるオックスとフェイスレスからも同意の声。
まだ目的地は遠いにも関わらず、俺は緊張感に襲われていた。
この方面を通る人は少ないと聞いた。
──だというのに、こうも荒れていないのはなんでだ?
「お嬢様、エルデ、いつでも逃げられるようにしててね」
「は、はい。セイヤも、一緒ですよ」
「ん、考えとく。何もない可能性もあるんだけどさ……」
言いながら、それはないだろうなあと感じている。
安全のためなら、ここで引き返すのがいいのだろうけど、そうなると何も成果がない。
依頼を表向き出してくれた2人も問題だし、俺とリングもいい評価はもらえないだろう。
そもそも、何かあるからとこの探索をしているわけではないけれど、本当に何もなしはね。
「セイヤくん。今のうちに復習しておこう。向かう先の鉱山もどきには、ろくな資源が産出されなかった。これはいい?」
「うん。フェイスレスの言うとおりに、その方面では望み薄」
「うむ。となれば狙うは、謎の敵性体である。無人機とされているが、果たして……」
先輩戦士2人に頷きを返しつつ、同じぐらい先輩戦士らしいリングに視線を向けると、どこか様子がおかしい。
コックピット内部に表示される、相手のコックピットでは前をにらんだまま、無言だ。
同じ向きに視線を向けても、変なのは動いて……いや?
「止まって。なんだろう、まっすぐ正面、何かある」
「こちらでも拡大してみますね。言われてみれば、何か光ってますね」
「燃えてる……のかしら」
そう、お嬢様とエルデのいうように、向かう先の岩山に、何かある。
ただ光ってるというより、揺らめいている。
燃えてるような、そうではないような。
ともあれ、決まっていることがある。
「セイヤ、少し浮いて上空を頼む」
「ん、もちろん」
武装を展開。
いつでも撃てるようにしつつ、高度をトラックの2倍ぐらいに取る。
リングが真正面、オックスたちがトラックの左右斜め後ろ。
これで大抵のことには対応できるはずという自信がある。
緊張のまま、なぜか岩があまりない道路を進み、目的地へと近づく。
『これまでに見たことはないな……だが、わかるか?』
(うん、わかるよ。これ……この岩山……)
どこか自信のなさげな、確証がないけどといった感じのプレストンの声。
感じているものは同じだ。
近づくことで、光ってるのが何かまではわかった。
岩山から、何かが突き出て、その先端から光が出ている。
でもこの岩山、事前に聞いていたのとは形が違う。
「ガスが燃えてる? いや、でもあれは、違う気がするね」
「リングよ、もう少し下がれ。戦士セイヤよ、何か飛んで来るやもしれんぞ」
こうなると、誰も自然の産物だとは思っていない。
何者かの意志がある何かだと認識している。
そのことは、俺とプレストンのカンのような何かを補強する。
そう、この岩山は……。
「初めて見たけど、これ、山じゃなくない?」
「んん? セイヤ、どういうことだ?」
「カンだけどさ。この岩山、作られたものだと思う。かなり崩れたのか、情報より小さくなってるけど」
俺の言葉に、全員が押し黙るのがわかる。
プレストンの記憶からの予想と、俺のひらめき。
大きな岩山は、そのまま大きな大きな、まるで囲いのように見えるのだ。
なぜか?
それは……形が整いすぎている。
自然にできたものじゃなく、何かを隠したい、外に出したくない。
そんな意志を感じるのだ。
でも、それもかなり崩壊しかかっている。
「そりゃあ、掘っても何も出ないと思うよ。調べてないけどさ、中の何かを隠すか封印するために、岩で固めた感じ。それ自体はろくに資源にもならない素材なんじゃないかな」
なんでわかるのかは、言葉にできない。
でもわかる。
何かが中にある、と。
そして、放っておくとまずい気がする。
危険はあるけど、今、暴いておきたい。
「何もわかってないのだ。戦士セイヤのいうように、何かあると思うのが良いだろう。戦士セイヤよ、して、どうする?」
「……一発当てる。防衛の準備してて」
「若い子は思い切りがいいねえ。いいよ、やろう」
お嬢様とエルデの乗るトラックも含め、少し下がって防衛の準備。
その準備を終えたところで、俺は浮いたままで武器を構えさせる。
狙うは、岩山から突き出た先端が光る何か。
あれはそう、どう見ても……。
「工場の煙突!」
エネルギー弾が数発、勢いよく飛んでいき……着弾したと思えば、岩山の一部が光りだした!
中の何かが、隠しきれずに存在を叫んでいるのだ。
『場合によっては全力で撤退だぞ』
(わかってる)
そのまま放っておくよりはマシ、というカンを信じ、相手の動きを見守る俺だった。




