MMW-075
勝利。
それはいつも欲しいもの。
目標のためには、1つでもそれを重ねるべきもの。
けれど……。
『不思議か? ランクが上がったのに、同じ戦法が普通に通じることが』
(そう……だね。うん、そうだ)
試合会場から戻り、待機時間を過ごす俺。
最初のころと違い、すぐに飼い主、お嬢様に会える状況ではない。
よくわからないけど、色々とあるらしい。
『ある意味単純な話さ。俺たちは強くなっている。けれど、それがわかるのはいつだって誰かを通してなのさ』
遊びのような言葉が、なぜか意味を伴ってしみ込んでくる。
言っているのが俺自身だからなのかもしれない。
つまり、相手も強いはずだが、自分もその分強くなっているから違いが無いように感じるのだと。
待機中に見える試合の映像に、その答えを見つけた気がした。
こうして外から見ると、確かにどちらも早い。
(自分としては、そこまで動いてた感じはないけど……)
高速戦闘が行われ、決着は思ったよりも早かった様子。
自分で見返しても、映像のシーンシーンで、どういう操作をしたかがイマイチ思い出せない。
そのぐらい、意識せずとも動かしているのだろうか。
(……思考1つとっても、早く鍛えられている)
俺の試合を見た、誰かが評価するとしたらこうなるだろうか?
そうやって自分を客観的に見ることでわかったことがある。
俺は、強い戦士へと歩きだしているのだと。
となると、だ。
「もしかして、早く終わりすぎて、次の試合のための時間なのか、これ」
思わずのつぶやきが、コックピットに響いた。
そんなはずはという気持ちと、納得の気持ちが沸き立つ。
『正解。今頃、必死でアナウンスが盛り上げてるさ』
そう言われると、なんだかおかしくなってしまう。
緊張をほぐすように、座ったまま体を動かす。
言われてみれば、この動き自体も、慣れたものだ。
教育で知識だけは知っているが、実践できるかは別だと実感する。
そうだ、教育。
しっかり覚えてる暇はなかったけど、よく考えたらMMWの操作も教育内容にあったような?
その情報は、どこからまとめられたのだろう。
教官役が記録したのか? いや、そんな手間をかけなくても……。
『ああ、そういうことだ。そのうち、俺たちの動きを教育で叩き込まれた戦士が誕生する。人類はそうして、戦士の底上げをして対策としてきたんだ。当たり外れが大きいがな』
(一体何の対策っと、時間切れか)
合図の音が響き、MMWを移動させることに。
これで機体が壊れていると、荷物のように運ばれるので恥ずかしいんだよな。
誘導に従い、MMWをトラックに固定。
これでようやく降りられる。
迎えの形になったお嬢様の顔は余所行きの真面目な顔。
外向けの会話の後、トラックに乗り込む。
「お疲れ様です。セイヤがあまりに早く終わらせるので、不正を疑われてましたよ。でも、疑いは晴れた上に、実力をほめられました」
「それはよかった。飼い主のお嬢様の評判も良くなったんじゃない?」
俺の運転でガレージに帰りながらの会話。
お嬢様は声を出さずに頷き、前を見ている。
何か、あったんだろうか?
「他に戦士を抱えないか、そう誘われました。自分のところの戦士を譲ってやってもいいと」
「ふうん……でも断ったんだよね」
もし、受けているのならその話が出るはずだが、それがないのだ。
思わずと漏れ出た声に、お嬢様はしっかりと頷いた。
「ええ、そうです。結局、まだ1年もたっていませんし、何より……セイヤ以外に一緒に走ってくれる戦士がいるとは思えません」
お嬢様は、俺に賭けている、そう思っていいのだろうか。
恥ずかしくなるような言葉に、そっか、なんて返事しか返せなかった。
親がいない、作られた俺。
そんな人間もどきのような存在である俺が、人間でいられる。
お嬢様と話していると、そう感じられるのだった。




