MMW-071
降参に次ぐ降参。
それが、現実として目の前に広がる光景である。
最低限の報酬は入るものの、もやもやすることこの上ない。
(命の危険がないって部分は、良いこと……か?)
『賭け事としてはまったく成立していないな』
頭に響くプレストンの声も、どこかあきれが感じられる。
いや、俺自身だからこそわかるが、これは懐かしさも?
「セイヤ、やはり戦いたかったですか?」
こちらを気にするようなお嬢様の声。
何度目か、数えることをやめた降参という結果。
それに不満で、俺がむすっと押し黙っていると思ったようだった。
「いや、そんなことはないよ。けど、これじゃまずいなあと」
そう、まずいのだ。
お金を稼ぐという目的は、達成しやすい状態。
けれど、ランクを上げるという点では、微妙だ。
どこかに出て行ったリングとエルデの顔が、何とも言えないものだったのもその証拠だ。
彼らも、生きるだけならこれでいいが、先を求めるとなると……って思っているだろう。
その意味では、お嬢様も認識は同じはず。
ただ、戦わないに越したことはないと考えているだけだ。
「恐らく、しばらくこれが続けば、動きがあるとは思います。二人はそれを前倒しにいったと思いますが……」
「そうなの? そっか……」
じゃあ、下手に動かないほうがいい。
いくつもある控室の1つで、静かに2人の帰りを待つ。
タブレットに、報酬の着金が知らされたのと、ノックされたのはほぼ同時だった。
「よう、動けるか」
「いつでも。暇すぎたぐらいだよ。エルデはまだ出歩いてて大丈夫なの?」
「ええ。つらくなったらすぐ休ませてもらうわ」
大きくなってきたお腹を、やさしい顔を浮かべてなでるエルデ。
お嬢様もそんな彼女の横に立って、お腹を興味深そうに見つめている。
『ほしいって言いだすかもな』
(最近学んだけど、俺にできるかはわからないよ、ほんとさ)
何より、お嬢様相手ではそういう気持ちにならない気がする。
今のところは、だけど。
「とりあえず、上も今の状況で納得はしてない。賭けが成立してないからな。そこでだ。呼び出しだ。俺とセイヤで行く」
「了解。じゃ、二人は鍵をしっかりかけて休んでてね」
「セイヤも気を付けてくださいね」
女性2人に見送られつつ、リングの先導でどこかへと移動する。
たぶん、上ってことなんだろうけど……。
向かった先にある建物に、堂々と入っていくリング。
最初はベルテクスに会うのだと思ったけど、建物は違う。
いったい誰に……そう思いながら、たどり着いた先には大きな部屋。
扉の前に、護衛の兵士が左右に2人ずつ、4人もいる。
武装しており、物々しい。
「入れ。失礼のないようにな」
護衛のうち、誰が言ったかはわからないけど案内を受けて中に。
いくつものテーブル、その向こう側に座っている数名の人間。
周囲には、さらに護衛の集団。
がっつり守られている相手、その顔を見ようとして、中央に見覚えのある相手を見つける。
いないと思っていた、ベルテクスだ。
「あちらは私が普段いる場所の1つでしかない。ようこそ、戦士リング、セイヤ。まあ、かけたまえ」
どんな言葉がふさわしいか悩む光景に、おとなしく座ることで回答とする俺。
リングも同じように、緊張感を顔に貼りつけつつ、横に座った。
雰囲気的には、ベルテクスの左右にいるのは、彼の部下か、そのぐらいの関係だと思う。
どちらも、ベルテクスの様子をうかがうような感じだからだ。
「要件を知りたいだろう? 私も忙しいのでね。早めに終わらせよう。おい、説明を」
「は、はいっ」
やはり、部下めいた存在なのは間違っていなかったようだ。
ベルテクスの隣にいた1人の男が、焦ったような返事の後、こちらに何やら話し始めた。
試合が成り立たないことへの懸念、その対策。
内容自体はとても単純だった。
「ランクの上昇と、正式なチーム設立?」
「その通り。チームといっても、戦士は君たち2人だけになるだろうがな」
ちらりと見たリングの顔は驚いたまま。
つまるところ、かなり特別ってことだ。
「ん、わかった。その通りにするよ。それが一番早いんでしょう?」
敬語は好まない。
そう感じた俺が、いつも通りの感じで応対すると、ベルテクスはにやりと笑った。
それが正解だったことは、そのまま話が進んだことが証明してくれるだろう。
そうして、俺は新たな戦いのステージに立ったのだ。




