MMW-068
目指す空、その下にある本当の大地。
そのさらに下にある世界が、俺が今いる地下世界。
本当なら暗闇が支配する地下世界が、ほんのり明るいのはこのスターレイのおかげだ、
まるで、何かの蓋に棒を突き刺したかのような、巨大な杭。
濁っていたり、透明だったりする何かの結晶。
(それが、空の向こうにある光を地下世界に届けてるっていう……けど……)
地下世界の広さに対して、スターレイからの光はほんのわずか。
部屋の床に、一滴水を落としたようなものだ。
「生き物っていうのは、どうにかして増えようとするらしい。それは植物でも同じ。少ない光で、どうやって増えるか。あれは、自分たちが光ることを覚えたんだよ」
「自分たちで? でもそんなエネルギーどこから……まさか!」
MMWを歩かせつつ、リングと無線で話す。
ただそれだけの時間が、とても長く感じた。
暗い部屋が、どんどん明るくなっていくような感覚。
見えてきた光る大地、そこに広がる草原のような何か。
「おう。あいつらはそうやって光ってるのさ」
『単純にヒカリゴケって呼んでるが、ウニバース粒子を吸収し、天然の回路で全体をメタルムコアみたいにしてるわけだ』
「ウニバース粒子を……取り込んでる。あんな小さい生き物が? すごいな」
と、幻想的ともいえる光景に見とれつつも、疑問が産まれる。
今回は、探索の護衛、だ。
でも、この光景の中に未探索の地域があるようには見えない。
ヒカリゴケを採取、あるいは地面を掘るのだろうか?
トラックが光る草原にたどり着き、停車する。
降りてきた人が何かタンクをもって向かう先には、ちょっとした小屋のようなもの。
「ねえ、リング。今回の仕事は……」
「そいつは依頼主たちから説明があるだろうさ。ここには補給に寄るんだ。簡単だが井戸があるんだ」
「わかった。護衛の仕事はちゃんとやらないとね」
俺の疑問は、わかりやすかったらしい。
すぐに帰ってきたリングの回答に、井戸?と思いつつも役目を果たすべく周囲を見張る。
どうしても薄暗い世界は、何かが奇襲するにはぴったりだ。
何もいないはずなのに、何かが出てきそうで背筋がぞくぞくしてしまう。
『ずっと緊張してると身が持たないぞ。とはいえ、これも経験だ』
(それはわかってるけど、難しいね。俺たちはともかく、トラックが撃たれたら大変だもん)
からかうような声に、頭の中で答えつつ、念のために武器を手に。
今度買い替えないとなと思いつつ、適当な方向を望遠で……。
「? リング、あれ……ええっと、俺から見て3時の方向、変だよ」
「何? セイヤから見て3時……んん? ありゃあ、なんだ? 光の柱?」
ヒカリゴケとも違う、確かな光。
距離的には遠く、たまたま途中に障害物がないから見えている。
光としては、スターレイが近いような。
「セイヤ、目的はあそこらしい。聞いてみたら、興奮した返事が返ってきたぞ」
「そうなんだ? 確かに、変な感じだもんね」
「ああ。少し前、スターレイが何本か落ちたという噂があるらしい。大方、降り注ぐ光が強かったのを見間違えたと思われてたが、本当ならカケラでも落ちてたら有用な資源だ」
上にあるのを打ち落とすことは、良くないことになるらしい。
けれど、落ちてきた奴なら別ってことか。
「へぇ。俺はてっきり、未知の施設でも発掘を狙ってるのかと」
「馬鹿言え。近くは採掘しつくされてるさ。何年もかけてな」
(ですよねー。ロマンだけじゃだめだよなあ)
『わからんぞ。俺もこれは知らない』
プレストンが、いろんな未来を経験した俺も知らない。
そのことが、ずっしりと重さをもってのしかかってくる。
いそいそとトラックに戻る依頼主たちを見つつ、操縦桿を握る手に力が入る。
何が出てきても、生き残れるように、と。
そして、再出発。
向かう先は、光の柱。




