MMW-064
「次は右3つのターゲットを。その後はご自由に」
「了解」
聞こえる無線に従い、MMWを操作。
しっかり磨かれて、照明に光る銃を構えさせ、発射。
放たれた弾丸はスペック通りの威力を発揮し、的を砕く。
続けて出現する的を、思うままに撃ち、移動させる。
真剣にやると、中央にしっかり当たってしまうのでわざと少しずらす。
商会が新規に売り出すという、実体弾のライフル。
その性能テスト兼テスター兼インタビュー。
そんな仕事の真っ最中である。
合図の音がコックピットに響き、一時休憩。
「これでいいのかなあ、本当に」
『言われた通りだからな、大丈夫だろう』
小さく呟けば、肯定の返事。
実際、やり直しは言われていないから大丈夫なのかな。
外の様子をモニター越しに見れば、無数の照明がまるで視線のよう。
同時に、複数のカメラが浮いている。
それら全部で、こちらの動きを撮影しているのだという。
(あれ1つで、どんな値段だろうなあ)
どこかで保守、整備されながら動いているという昔々の工場。
今は新造できないらしいその工場たちが、MMWやいろいろな機械を生み出しているという。
外での仕事には、そんな施設の発掘、探索もあるとかないとか。
「次は別室でインタビューになります」
「了解、降りるよ」
聞こえた声に、コックピットを解放して外に。
今いるのは、リッポフ商会の建物のそばにある倉庫のような場所だ。
試合会場とは言わないけれど、倉庫にしては広すぎる。
聞いてみたところ、大量に引き渡しをするときに使うためらしい。
10機同時になんてときに、トラックとMMWが入れる空間をとのこと。
『表向きは、だろうな。じゃなきゃ、こんな都合よく撮影はできない』
(だね。ま、理由なんてどうでもいいよ)
外に出て、空調による風が思ったより冷たく感じて驚いた。
近寄ってきた人からタオルが投げ渡され……って。
「よう、セイヤ」
「リング!? どうして……もしかして、見学してた?」
「ああ。こっちも時間ができたからな。お嬢ちゃんから一応の相談というか、仕事を受けたから試合は後日でという連絡を受けてな」
妙ににやにやしているリングに、じとっとした視線を向けつつ、汗を拭く。
インタビューを受ける前に、こうして体を温めておいてと言われたけれど……。
「そのぐらいのほうが、戦士らしさがあるってことだろうな。冷える前にとっとと行こうぜ」
「どうせリングは見てるだけなんでしょ? エルデは……お嬢様と一緒か」
「ああ、そうだ。化粧の1つぐらいはしないとな」
その言葉に首を傾げつつ、指定された場所に移動。
扉を開いて中に入ると……。
「あら、ノックぐらいしなさいな」
「着替えてるわけじゃねえんだ、いいだろう」
こちらに顔だけ向けて、ちょっと起こった様子のエルデ。
答えるリングの声はどこか楽しげだ。
「来たのですか、セイヤ」
「うん。来た……よ?」
さっと横に動いたエルデ。
その結果、見えたのはキラキラしてるお嬢様だった。
服は以前買った……買い戻した一張羅なドレス風の服。
そして、エルデの手によってだろうお化粧。
「? どうしました、セイヤ」
「う、うん。お嬢様だなって」
『我ながら、他に言い方があるだろうとあきれるな、うん』
(うっさい!)
表情にプレストンとのやり取りを出さないように必死だった。
たぶん、これが可愛い、あるいは美少女ということなんだろう。
「ふふっ。ありがとうございます。セイヤのほうが良ければ、インタビューを始めてしまいましょう」
視線を向ければ、別の入り口からリッポフ商会の人員だろう男が2人。
こちらを見て頭を下げてくるあたり、教育がしっかりしている。
「俺はいいよ。ええっと、どう座れば?」
「お二人の関係性も売りですから、いつも通りで」
そう言われ、周囲を見ればいくつかの椅子。
その中から、お嬢様の物より落ちる品質のものを持ってきて横に座る。
リングとエルデが見守るという不思議空間の中、インタビューが始まる。
「では、最初からお二人は……」
インタビューをすることに慣れているのか、スムーズに話は進んだ。
多少はわざとらしく、それでいて本音も交えて。
先日の高ランク相手の集団戦の話は、ウケがとてもよかった。
そして、お嬢様の両親、その行方を確かめるためにこれからも戦う予定。
話自体はそんな感じで終わった。
話と、戦闘シーン、うまいとこ編集して映像化するらしい。
「これで、MMWも装備もまた売れることでしょう」
なんでもない日常のことのように、リッポフが最後に言っていたのがなぜか耳に残った。
その言葉が、予言であったかのように試合たちには変化が出た。
俺が操作していたMMWと装備、それに酷似した編成で戦う戦士たちが急増したのだった。




