MMW-062
戻ってきたガレージは、なんだか妙な感じになっていた。
建物自体は変わらないのだけど、明らかに防犯設備が増えている。
カメラに、あれは……ネットが飛び出る感じ?
殺してしまうようなものはないようだけど、物騒なのは変わりがない。
お嬢様を見ると、首を振る。
ということは、誰かが勝手に……うん、ガレージに見慣れたロゴのトラック。
そういうことか、と安心しながらトラックから出てきた相手に手を振る。
「お帰りですか」
「うん。留守番させた形になっちゃったみたいだよ、お嬢様」
「あ、なるほど。お待たせしてしまいましたか、リッポフさん」
そう。ガレージに車両を横づけして、勝手に留守番と防犯設備の増設をしていたのは彼だったのだ。
低ランクから高ランクまで、ほぼ独占状態のリッポフ商会、その社長。
社長のわりにフットワークが軽い? 俺たちが一番をそれを感じているよ、うん。
今日も今日とて、人間らしくない護衛2人。
重装備な気がするけども……。
視線に気が付いたのか、驚くことに眉を上げて微笑んでいる。
『強さを証明し、主人の役に立つ存在だと認識されることで、こうなるってことさ』
(変なの……まあいいけど)
「報酬のMMWをお届けにあがった次第で」
「早いね……でも、在庫があったってことかな」
「セイヤ、まずは中に。お話はそれからで」
お嬢様のいうことはもっともで、仮にも客人相手なのだ。
リッポフを室内に案内、と今日は護衛もついてきた。
トラックはいいのかと思ったけど、このコロニーでリッポフ商会に手を出すやつはいないと気が付く。
なにせ、犯人となればあらゆるものが買えないのだから。
ガレージにMMW2機を運び込んだら、一気に手狭になった。
けれど、悪くない気分だ。
「上位ランク、しかもランカーとの戦闘での生存と活躍、おめでとうございます」
「今回はリーダーがよかったよ。俺も……必死だったけどさ」
何度か、リッポフ相手に丁寧に接したほうがいいのか確認したことがある。
結果は、かまわないということだった。
考えてみれば、低ランクの戦士なんてのは荒くれ同然。
話ができるだけ、上等ということになってしまう。
「商会の武装は十分、強さを発揮してくれたようです。あの防犯設備も期待しても?」
「ええ、もちろん。ご心配なのは代金でしょう? 勝手に設置したものです。お祝いということで」
「それはうれしいです。でも、タダより……と言いますからね」
薄い笑みを浮かべるリッポフに対し、お嬢様もきりっとした態度で負けていない。
余計な口は挟まずに、見守ることにしよう。
リッポフが後ろを向き、護衛の1人に合図したと思うとどこからかタブレットが1枚。
そこに映し出されたのは、同じ姿のMMWが2機。
「なあに、先ほどおっしゃっていたように、装備の宣伝への感謝もありですよ。ひとまず、MMWはノーマルのままですが、コアの増設は2機とも行いますか?」
「セイヤ次第ですが、予定では。ああ、でも……預けてある青石をコアにできるのが案外近いかもしれないので、片方だけを増設としたほうが良いかもしれません」
聞くだけなら、何もおかしいことはない会話。
けれど、表情や隠されたメッセージからは、裏を感じた。
すなわち、何かいい話があればそうするんだが?という流れだ。
「そうですな……。話は早いほうがよろしい。正直に言えば、まだ不安が残りますな。予算よりも、戦士としてのランクが。本来、あの青石、サファイアをコアにするにはランク8程度が適していると言われていますのでね」
「8……それだけ秘められた力が強いということですね。両親に聞いたことがあります。上位のMMW、そのコアはそれだけで兵器にできそうなほどにパワーを強く引き出すと」
ランク8にならないとできないというより、そのぐらい腕を上げないと振り回されるということかな。
実際、ウニバース粒子を使った武器は、どのぐらい強力なのかは体験したばかりだもんね。
そんなコアに、攻撃を受けたらどうなるか……。
『聞きたいか?』
(やめとく)
ささやきに心の中で首を振り、リッポフとお嬢様を見る。
「ええ、その通り。とはいえ、実力を示された戦士セイヤなら、一度試すぐらいはいいと思いますよ。無理だと思えばすぐに停止し、コア自体は厳重に保管しておけばよろしいかと」
「なるほど……セイヤ、何かありますか」
「何かっていうか、それだけでわざわざ商会の長が来ないよね。仕事、あるんじゃない?」
そんな俺の言葉に、深い笑みを浮かべて頷くリッポフ。
苦手というわけじゃないけど、何が出てくるか怖いよね、うん。
「ええ、そうですね。インタビュー、受けませんか。これはお二人にですが」
「「インタビュー?」」
同時に疑問を口にする俺たちに、リッポフは告げる。
── 正確には、商品レビューとセットでですが、と。




