MMW-061
俺の飼い主、ソフィア・グランデール。
身分ごと俺を買った買い主であり、主従の関係である飼い主。
当の本人は、どちらかというと……飼い主らしくない。
自分で費用を負担してでも、俺に自身を買いなおしてほしいらしい。
その理由は、恐らくは家族に飢えている。
両親を、外での事件で亡くし、まともな親族はおらず1人きり。
甘い部分も多いけれど、1人でもこれまで生きてきたところから、たくましさもあると思う。
そんな彼女が、俺以外にずっと気にかけているだろうこと、それは両親のことだ。
「興味深いな。戦士セイヤにとって、それほどのことなのだろうか」
「それが気になって、わざわざ知らせてくれたの?」
フェイスレスとオックスはもう帰ったというのに、だ。
この男、まだまだ分からない部分が多い。
とはいえ、話を聞かせないほどでもない。
「実はな、私も外の依頼でグランデールの者と一緒になったことはあるのだ。命が失われるのが世の常とはいえ、な」
「そっか……。うーん、理由は単純なんだよね。1つはお嬢様が落ち込んでるのが嫌。で、こっちのほうが本命なんだけど、何があったのかなって。お嬢様の両親、結構な手練れなんでしょ?」
確かめるような問いかけに、なぜかお嬢様だけでなくリングたちもうなずいた。
そういえば、彼らも関係者というか、知り合いというか。
ともあれ、ずっと気になっていたのだ。
「何度も外で依頼をこなせるだけの集団が、詳報が残らないような形で戻ってこなかった。よっぽどのことだよ。だけど、こうしてチャンスをつかむまで、情報を得ることができそうになかった」
「セイヤ……そこまで私のことを……」
お嬢様は少し勘違い、いや、そうでもないかな?
涙ぐんでいるのが、こそばゆい。
それはそれとして、本当に気になるのだ。
どんな相手で、どんな数で、そして……どうして勝利をつかんで帰ってこれなかったのか。
『知ったら、もう戻れないぞ?』
(今も、もうただの戦士には戻れないよ)
どこか冷静な声に、心で返す。
プレストンは、それなり以上に事情を知っている。
そのことは、結構前からわかっていた。
けれど、これは自分が動いてつかむべき情報だとも思っていた。
「もし、それが大規模な敵対勢力のせいなら、もっと下のランクの戦士も駆り出されてると思う。コロニーの防衛に、ね。それが特にないってことは、突発的な事故か何か。あるいは、もう脅威自体は遠ざかったか」
「ふふ、ふふふ。やはり、いいな。戦士セイヤ、もっとランクを上げるといい。そうすれば、おのずと目的に近づける」
「よせよ、アデル。確かにセイヤは生き急ぐように駆け上がっちゃいるが、まだガキだぜ」
ため口なリングに、アデルは表情を変えない。
細かい事情は聞いていないけど、2人の関係性をもう言っているようなものだ。
聞きたいけど、このままでも、まあ悪くはないと思う。
「おっと、そうだな。人生を楽しむのも、大事だ。どちらにせよ、話が来るのは少し後だろう。運び込まれるMMWをいじって過ごすといい」
「そうさせてもらうよ。ほら、お嬢様。泣いてないでガレージに帰るよ」
「は、はい。セイヤには驚かされてばかりですね……」
それはどちらかというと俺の……どっちもどっちかな?
女の子ってのはわからない。
目は赤いけどすぐに泣き止んだお嬢様を見て、そう思う。
リングを見れば笑われ、エルデにも生暖かい視線をいただいた。
どこかすっきりしない感情を抱えつつ、ガレージへと帰ることに。
ちなみに、今日から使っていいぞと言われ、移動用の車両を与えられた。
4人が乗れるぐらいの車で、ほぼ自動運転が可能だからと俺でも運転できるらしい。
どこで発掘か、作られるのかなと思いつつ、新しい移動手段に乗り込むのだった。




