MMW-058
「ようこそ、戦士セイヤよ。ここがこのコランダムコロニーで一番大きな試合会場だ」
「防壁も性能は最上級、流れ弾でも破損しないんだってさ」
「配置されている岩のように見える物も、実際には岩ではない。お主はぶつからんようにな」
慣れているのであろう3人の声に、頷くしかできない。
予想以上に広く感じる……っていうか、外に出たときにこんな大きい場所あったっけ?
『一応あるんだが、外からはただの建物というか、大きな壁があるようにしか見えないからな』
(そんなもの?……それだけ試合数が多くないんだ)
色々と察してしまう。
ランクが上がるほど、命を惜しむ戦士が増え……と。
試合会場は、そんなに数がいらなくなるのだ。
「わかったみたいだな。だからこそ、今回の試合が盛り上がるのさ」
「アデルの強さを見に? それとも、そんな彼が誘った俺たちが無様に負けるのを? どっちもかな」
ようやくというべきか、緊張が襲ってきたような気がする。
それでも、動けなくなるようなものじゃなく、戦いへの興奮が近い。
そして、相手も出てきたようだった。
事前の情報通り、10人。
全員が、見る限りは男だ。
(女性の戦士って、いないのかな? たぶんいるとは思うんだけど)
両方が出てきたことで、観客席からの歓声が大きくなる。
会場がこんなに広いのに、それでも揺れるような大きな声。
娯楽としては、最上級らしいけど……それもどうなんだろうね?
「アデルぅぅ……! 今日こそてめえもお終いだ。こっちはフルメンだぜえ!」
「ほう。それはよいことだ。我々の糧となる人数が増えることは喜ばしい」
相手の先頭にいた男、顔が傷だらけで、服もなんだか傷んでいるけどわざとかな?
どうやらアデルとは因縁があるらしいけど、アデルは軽く受け流している。
カウンター気味に発せられた言葉に、逆に相手が赤らむほどだ。
「んだとぉ。そっちはいつもの2人に、見ねえ顔……いや、リングじゃねえか。死にぞこないが」
「今日の俺はおまけだよ。ククッ……わかるだろ、本命」
突然のネタ振り。
それが作戦の1つというか、想定された状況の1つ。
俺に意識を向けさせ、他が動きやすくという作戦。
当然、俺が危険な目にあう可能性が高まる方法だけど、結局危険なのは一緒だからね。
「ああん? けっ、ガキじゃねえか。頭数になるだけマシだけどよ。おい、ガキ。わかってんのか? 負ければ死ぬか、すぐに借金まみれだ」
「戦士になったなら、そのぐらい知ってるよ。それよりいいの? 俺に負けたときの心構えは大丈夫?」
こうなれば、突き抜けたほうがいい。
そう感じ、相手の会話に乗っかり、こちらも押し返す。
俺が言い返すとは思っていなかったのか、ぽかーんとなる相手の男たち。
瞬間、周囲と会場から笑い声。
どうやら今の会話は観客席にも伝わっていたらしい。
手を叩いても聞こえないぐらいの騒がしさの中、アデルたちは笑い、相手は怒っていた。
「ふざけっ!」
「おっと、手を出せば反則負けだぞ? いいのか?」
思わずという形で目の前に来た男を、アデルが止めてくれる。
この男、MMW戦だけじゃなく、生身でも強いらしい。
『見えてないところじゃ、鍛錬鍛錬、また鍛錬って生活だよ』
(そうなんだ……見習おう)
そうこうしてるうちに、相手も引き下がり、試合のために一度戻ることに。
歓声を背中に浴びながら、気持ちを引き締めていく。
「良い感じに場も温まり、相手も冷静ではない。セイヤ、やれるな」
「問題ないよ。きっちり、作戦通り。勝とう」
「お主、恐怖はないのか? 作戦と言える作戦とは思えんが」
「ボクたちですら、できればやりたくないよー」
俺を見て真剣な表情のアデル。
心配そうなフェイスレスと、表情はわからないけど声は心配してるオックス。
そして、答える俺を真顔で見つめるリング。
「お前がやるってんなら、やれるんだろうな。フォローは任せろ」
「うん。任せた」
拳を突き出し、みんなとぶつけてMMWに乗り込む。
立ち並び、合図とともに試合開始。
「見るがいい、これがトップランカーというものだ!」
響き渡るような声と同時に、アデルのMMWが何本も背面武装を展開。
そして発射される暴力の塊。
一発一発が強力なUGの連発、それがアデルの得意分野なのだそう。
実際、広いはずの試合会場に、当たれば被害確実な暴力がまき散らされる。
相手の10人も、当たるわけにはいかず、回避することだろう。
俺たちも、巻き込まれないように動く必要がある。
……本来ならば。
『右コンマ3、左前8!』
「うお……おおっ!」
一回ミスれば暴力により砕け散る。
そんなUGの嵐の中を、俺は一気に突き抜けていた。
正確には、効果範囲ぎりぎりを攻めて相手に突っ込んでいるのだ。
見える数名の敵機が、見るからに慌てているのがわかる。
当然のことだ。
こっちを気にしてると、UGが直撃するかもしれないのだから。
(見える。ウニバース粒子の流れ、アデルの殺気めいた意識が!)
UGが、ウニバース粒子を使った武装ということは、その力の流れも見えるということだ。
俺の、プレストンが教えてくれた力なら!
『左前1機、射程!』
「見え……たぁっ!」
少し離れたところに、リングたちの援護射撃が着弾するのを感じる。
それによる土煙も利用しながら、俺はついにUGの暴力から抜け出し、誰かわからないけど敵に迫る。
「っらぁっ!」
エネルギーブレードに集中。
伸びる刃は、まるで試作品の時と同じ力強さ。
それでもルール内に収まった程度の長さで、人でいうところの両手剣の最大サイズといったところ。
それが、まっすぐ突き進む槍のような俺の手で、確かな力となる。
「まずは1つ!」
手加減する余裕はなかった。
それでも、さすが上位というべきかぎりぎりコックピットは外された。
深々と刺さったブレードは、相手の戦闘力を奪い去ったのはわかった。
容器のふたを開けるかのように、ブレードで切ったところから中が見えたからだ。
おびえる相手の姿に、すぐに意識を他の敵に向ける。
まだ試合は始まったばかりなのだから。




