MMW-057
『こいつはまた……運が良いのか、悪いのか』
(間違いなく、良くはないよ、うん)
発表された相手の戦士だが……なんと、10人。
相手は上位陣が全員参加。
逆に下位ランクは辞退。
人数だけなら5人対10人。
それだけでも厳しいのに、このランク差。
俺以外が、慌てていないのが不思議だ。
「勝負になるの?」
「なるともさ。アデルがいる。お主は本気のアデルを見たことはあるまい?」
「年に1回でも本気になったら珍しいからねえ……ふふっ」
思わずの問いかけに、何でもないように答えてくれるフェイスレスとオックス。
ちらりとリングを見ても、頷かれた。
どうやら、俺が思ってる以上のようだ。
俺とリングには装備の貸与が認められた。
少しでも盛り上がるようにってことみたいだ。
俺が選んだのは、この前リッポフが開発したエネルギーブレードの、正式採用版。
さらに、それをルール範囲内で改造したものだ。
そして、本当ならランク3とかじゃないと買えないようなブースター。
「長期戦は考えない。刃を研ぎ澄まし、一撃を届かせる。なるほど、よく考えられている」
「破れかぶれだよ。アデルに一撃与えるならって考えたら、こうなった。前の仮想空間でもそうだったし」
ほんの少し前のはずなのに、あの時アデルらしき相手と戦った記憶が遠い出来事のようだ。
受け身だと、負ける。
心の底から、そう感じた戦い。
今度の戦いも、俺にとっては似たような感じになるに違いない。
すぐにMMWの改造をはじめ、慣らし運転をしてる間にも時間は過ぎる。
そうしてるうちに、試合当日がやってきた。
「セイヤ、今日は私もエルデも、戦いです。なにせ……」
「飼い主の席も、上位層の飼い主しかいないんでしょ? わかるよ」
今回の試合は、賭けも大きくなるらしい。
そうなると、一般の席に混じってでは危ないということだ。
逆に、周りは敵だらけということに……。
お嬢様とエルデを見送り、俺たちは機体のもとへ……ああ、そういえば。
「2人の飼い主はどんな人なの?」
俺たちだけの通路を歩きながら、気になっていたことを聞いてみる。
アデルは自分を買いなおしてるし、リングはエルデ、俺はソフィアお嬢様。
じゃあ2人は?ってことだ。
「普通の人間である。今度紹介させていただこう」
「ボクの飼い主も普通だよー。会うには勇気がいるかもだけどねー」
2人して普通……なんとなく、わかるような気がする。
俺に気を使ってくれているんだなと、わかってしまったのだ。
「そうなんだ。その時はよろしく」
『ま、世の中不幸なのは自分だけじゃないってことだな』
(深堀はやめておくよ。試合に集中しないとだし)
2人も、俺のそんな考えがわかったのかもしれない。
肩をなぜか、ぽんぽんと叩かれてしまうのだった。
子供扱いはしないでほしいけど、実際子供なんだろうな。
アデルもそうだけど、みんな大人だ。
この地下世界、このコロニーでそれは、強さ、生存能力を証明するものだ。
戦士がただ生きて大人になることの、なんと難しいことか。
「セイヤ、緊張は……あんましてねえな。相変わらずすごいやつだよ、お前さんはよ」
「リングたちのおかげだよ。俺は俺にやれることをしたらいい、そう思えるから」
「戦士に必要な才能だな。作戦は覚えているな?」
確かめるような言葉に、しっかりと頷く。
相手は上位ランクばかり、間違いなく強い。
それは火力であり、防御であり、機動力でもあり。
でも、それはこちらも3人は同じ領域にいる。
そして俺もリングも、ランク2では持ちえない力を手にしている。
「うむ。とにかく私のUGに巻き込まれないよう、注意してくれればいい」
「昔あった火薬とか爆弾と違って、今のは被害範囲が限定的なんだよね?」
「ああ。試合が盛り上がるように、爆風という形で広がるが、そのぐらいだ。武装によって、ダメージを与えられる範囲が決まっている」
何回も架空の機体で食らったその威力を思い出す。
UG、単純にウニバースグレネードの意味だ。
アデルの使う武装だと、着弾、炸裂した場所を中心にちょうどMMW1機分ぐらいに被害が出る。
なんでも、ウニバース粒子による力を、範囲内に巻き散らかす仕組みだとか。
よくわからないけど、よほどそばにいないと巻き添えはない、はず。
フェイスレスやオックスも、自分なりの武装で整えているはずだった。
「見えてきたぜ。驚くなよ」
「驚く? いったい……うわ」
試合会場に着き、まずは顔見せということで会場への扉が開き……それが見えた。
「大きい……広すぎない?」
思わずつぶやいてしまう光景。
今までの試合会場を何倍にも広げた空間が、そこにはあった。




