MMW-039
もう少しすると、リングのおっちゃんとコンビを組んで2回目の試合の時間だ。
試合会場にある、待機部屋で作戦会議中といったところ。
前の試合が盛り上がっているのか、ここまで会場の声が聞こえる。
観客の質が少し違うというのは前に感じたけれど、他にも違うものがある。
ランクがあがったら、そもそもの戦士の人数が違うのだ。
これは予想でしかないけれど、間違いないと思う。
「セイヤ、今日からは相手の名前と顔は可能な限り覚えていけ」
「また戦う可能性が高いから、でしょ?」
そう、再戦の可能性がランク1より高い。
考えてみれば、当然のことなのだ。
ランク1は、戦士ならばまさに誰でもなれる。
そして、そのまま戦い、かなりの数が死ぬ。
手加減や、うまく戦闘不能にする技量なんかがないからだ。
「ああ。上に行けば、もっとそうなるらしい。逆に面白味が少ないってんで、下のランクのほうがウケはいいらしいぞ」
「不思議な話だね。そりゃ、上に行くほど生き残りたいって気持ちは強いか」
アデル、ランク10の彼はどんな気持ちで戦っているのだろうか。
案外、上位ランクで戦うことは稀で、暇をしてるのかもしれない。
彼ぐらいの技量で、戦うとなればどちらかは死ぬかぎりぎりになるだろうし……。
「そういうことだ。今日の相手は、組んでそこそこ長い。片割れがいなくなっている組み合わせのほうが多い中、レアもんだな」
タブレットで見れる情報からは、MMWの色も似ていることがわかる。
片方は両肩や手に、これでもかと長物射撃武器。
もう片方は、抜き身のブレードを2本。そして肩にライフル。
戦い方はシンプルで、砲撃でけん制の間に距離を詰めて、という感じだ。
その意味では、よく似ている。
そう、俺たちの狙いに。
「どうする、変えるか?って、心配いらなそうだな」
「うん。大丈夫。避けてうまく当たるよ」
『さすがに当たったらやばいのは、教えるからな』
(それはよろしく。多分、何とかなるとは思うけど)
今回の俺の目標は、うまく避けて当たる。
それと、射撃もうまく決める。
要は、普通の戦いをしようってやつだ。
「合図だ。行くぞ」
「了解!」
部屋に響く合図の音に、気合いを入れて移動。
すでに運び込んであるMMWに搭乗し、明るい試合会場への移動。
よくわからないけれど、今日は自分で移動する形らしい。
1歩1歩、試合会場が近づく。
扉をくぐり、試合会場に……あれ?
「リング、あれ」
「ちっ。前の試合、負けたほうが遺体の回収も拒否したな。金がまったくねえんだ。なんなら、どっかに飛び込んで旅立ってるかもな。一番外しやすいコアだけ外されてやがる」
『最後の足場も崩れて、もう終わりになったってことだな。ああはならないように頑張らないとな』
どういう、と疑問を浮かべたところでのプレストンの声。
その意味することに、怒りと悲しみの両方が沸き立つのを感じる。
あの残骸のようなMMWには戦士がいて、力尽きた。
回収、後始末さえしてもらえないのだ。
コックピットに直撃をもらったのか、ぽっかりと穴が開いている。
メタルムコアはそのすぐそば、となると遺体は一緒に回収されたのだろうか。
(エネルギー系の武装で焼かれたとは考えたくないね。にしても……)
「よくとは言わないが、時々ある。このままだと障害物って感じでそのまま開始だ」
「つまり、アレは試合会場の一部、ってこと?」
今にももげそうな機体の手足。
散らばる武装は、折れたブレードにマガジン部分のない銃。
ほかにも残骸だとかが転がったまま。
「そういうこった。向こうも気にしないことにしたらしい。カウント始まったぞ」
無線越しの硬い声に、リングも怒っていることが伝わり、なぜかほっとした。
警告に従い、自分も意識を試合に戻す。
(あれは試合会場の一部、だから気に……一部? そうか)
『そういうことだ。うまくやれ』
俺とプレストンは一心同体。
いや、二心か? まあいいか。
考えてることはすぐ伝わるってだけで十分。
MMWの腰を少し落とし、突撃の準備。
「前にっ!」
試合開始とともに、一気に加速。
相手の最初の射撃は、それと同時に放たれた。
普通の加速なら当たったかもしれない砲撃の数々。
けれど、そのつもりで調整をして、機動力を上げた俺の突撃はその上を行った。
『後ろに着弾。問題ないっ』
「このまま、距離を詰めるっ!」
リングが、俺に続くように距離を詰めるのを感じながら、前に前に。
相手の前衛に向け、両手の銃を交互に発射。
相手も撃ち返してくるのを感じ、いくつかは回避、いくつかは被弾。
「なるほど、衝撃も違うわけねっ」
視界に相手の後衛も収まる位置取りを心掛けつつ、前衛と削りあいを始める。




