MMW-192
光の海で見た地上。
生き物と自然にあふれ、争いも満ちていた場所。
あれが人間の残した記録なのか、別の何かなのかはわからない。
確かなのは、今は失われているだろうということ。
「戦士セイヤが産まれるまでに、当然のようにコロニーの拡張、地域の探査は行われている。私自身、何度も参加した」
外でしていい話なのかはわからないけれど、誰も聞いちゃいないと思えるほどコロニーは騒がしい。
頻繁に行き来する車両やMMWの立てる音がまさに騒音だ。
リングもエルデも、ジルが眠れないと言って最近は部屋の防音性能を高めたぐらいだ。
「最初はいいのだがな。数日、数週間もするとどこからかやってきた奴らに襲われる。そのうち、大体のルートがわかってきてからは、それに引っかからないように動くようになったわけだ」
「戦士の試合は、それをどうにかするための戦力集めってことね。あまりうまくいってないようだけど」
「そうだな。低下を防ぎ、維持するのがぎりぎりだった。だが今は違う」
「希望の穴や箱舟、ですね……」
アデルが頷き、どこか遠くを見るように顔を動かす。
彼の年齢は知らないが、案外年寄りなのかもしれないと感じる顔だった。
「期待したいところだな。地上にはもともと、どれぐらいの人間がいたと思う?」
唐突な問いかけ。
想像もつかず、答えられない俺をアデルは見つめてくる。
「地上が人間には狭くなったころ、決断があった。星を食べつくす前にと。多くは星の外に新天地を目指したそうだ。それでもなお、地上の資源不足は深刻さを増し、そして高まった技術は環境を破壊し始めた」
そのあたりは、光の海で見たような気がする光景だ。
星の外、宇宙とかいう場所へ伸びる旅立つ姿。
「地上に残った人間はあがいたが、問題があって地下に逃げ込んだという。おそらくは機械虫の暴走、反乱なのだろう。なおもあがいてるうちに気が付いた……星の内部に、世界があることに」
彼と同じように上を見ると、薄暗い空……岩盤がある。
「どうにか残りの力を結集し、地下に人間は逃げ込み、我らにつながるわけだ」
「そんなことが……では、戦士アデルがこれまでに地上や空のことで微妙な感じだったのも」
言われてみれば、アデルは時々変な反応をしていた。
話には聞いていたから、ということか。
「そうだ。代表者が地下になじめないというのも、半分は嘘だ。元から健康から遠ざかった環境で生きていたわけだ」
生きているだけでつらい、そんな状況だと感じ、顔が歪むのがわかる。
頭に浮かぶのは、ガス対策のマスクをして過ごすような姿。
あながち、間違ってないだろうなと感じた。
「ただ、希望も十分ある。邪魔者がいなくなった地上は、回復してきている可能性も残されているからな」
「でも、そのままか悪化している可能性もある」
真剣な表情で頷き返すアデルを見て、それでも1度は地上に行ってみたいと思った。
自分で確かめたいという欲求が、沸き立つ。
「過去に長期遠征で戻ってこなかった戦士たちの幾人かは、地上にたどり着いたかもしれんな。戦士セイヤ、もし彼らに出会ったら、伝言を頼みたい」
「それはいいけど、俺を止めないの? 地上から機械虫みたいなのが来るかもしれないのに」
地下にいる機械虫は、あくまで一部だろうと思う。
地上には、比べるのもどうかと思う数がいたはずだ。
「先ほど、スターレイ以外が落ちてこなかったのは幸運とは言ったが、それはあくまで準備の問題だ。事前にそのために遠征するとわかっていれば、良いことだと考える。それに……」
「それに?」
「スターレイが伸びてくるということは、機械虫は地上にほぼいないと思えるからだ。地上にあふれてるなら、スターレイの力は吸収されつくすことだろう」
「言われてみれば……!」
アデルの指摘に俺もソフィアも思わず同意を返す。
確かに、あんなエネルギーを放っておくわけがないだろうと。
「というわけだ。期待している」
「任せてよ。日焼けとかいうのをして戻ってくる。それで、伝えたいことって?」
笑いながら、アデルから先達への伝言を預かるのだった。




