MMW-191
かつてないほどの活気に満ち溢れた光景。
プレストンやベルテクスですら、そう評するほどの光景。
2つのコロニーは、とても騒がしい状態だ。
どこにこんなに人がいたのかと思うほどに、外へ外へと出ていく。
「よっぽど、私たちの成果が衝撃的だったんですね」
ガレージから出て、そんな街中の光景を見る俺の横にくるソフィア。
彼女もまた、驚いた様子で街を見ている。
双方のコロニーに、報告をしてしばらく。
どちらかだけで占有するには規模がでかすぎるということで、共同作業が始まった。
運ぶ先は、希望の穴。
ちょうど中間ぐらいだし、敷地的にもいいだろうという判断だ。
なら俺たちは護衛を、というところでストップがかかる。
受け入れの準備を優先してほしいとのことだった。
『ま、実態というか本音は、おとなしくしてくれてたほうが良いってところだろうな』
(好きで騒動を起こしてるわけじゃないんだけどね)
そう考えつつも、出来すぎている自分の人生に思うところがないわけじゃない。
地下世界に人間が逃げ込み、コロニーを作って過ごし始めて相応の時が流れている。
「ねえ、ソフィア。これまでみんな見つからなかったのは、偶然だと思う?」
「……わかりません。セイヤが管理者という人々の遺伝子情報をたまたま持っているというのはあると思いますけれど……それ以外は見つけていてもおかしくはないと思います」
そう、希望の穴や箱舟のように、管理者の権限が必要なものは仕方ない。
でも、今回のような場所のような、そこにあるもの、というのは見つかっていてもいいと思う。
考えすぎ、だろうか?
「面白い話をしているな、戦士セイヤ」
「アデル? そっちは仕事は良いの?」
いつの間にか、近くにアデルが来ていた。
今日は徒歩のようで、MMWも車両も見当たらない。
「たまにはな。歩いて雰囲気を味わいながらというのもよいものだ。最近は騒々しいが」
聞いたぞ?なんて笑顔で言われたら、こちらも苦笑を返すしかない。
アデルが言いたいのは、自分をなぜ連れて行かなかったのかなんていう理不尽なことだろう。
「すぐに話が来るとは思うが、あれを動力源に、コロニーを増やすだろうと思われる。実のところ、稼働できていない工場、施設が意外とあるのでな」
「そうなんだ。確かに、安全な場所が増えるともっと人も増やせるよね」
俺が言葉に込めた意味をアデルならわかるだろう。
それがなぜ今日までできなかったのか、と。
「戦士リングらなら覚えがあるかもしれないな。つい最近まで、外は危険だったのだ。獣と虫どもが、コロニーから離れるほどすぐに顔を出すほどに」
「だから、容易には出られなかった? 安全が確保できているルート以外は危険、と判断していたということでしょうか」
ソフィアの表情は硬い。
彼女の家は、戦い続けてきた家系という。
両親から、少しは聞かされていたのだろう。
「そういうことだ。最近はその頻度もかなり下がり、往復の準備さえ怠らなければ探索も容易、そう皆が思い始めたところにこれだ。我先に飛びついている」
そういうアデルの表情は、明るいものだ。
試合も停滞していたころの、退屈に疲れていた姿はそこにはもうなかった。
「戦士セイヤは、遠征用の資材、移動拠点を目指しているのだろう? 今回の報酬にそれを上げるといい。喜んで提供してくれるだろうさ」
「この前までは、自分たちで確保するようにって言ってたのに……現金なもんだよ」
「人のことは言えないが、目立つようなことを何度もしたからだな。ふふっ」
不満をそのまま口にすると、アデルは笑い出す。
確かに、あれやこれやとしすぎたかな?
でも、必要なことだったと今でも考えている。
「戦士アデル。聞きたいことがあります」
「なんだ、グランデールの……いや、ソフィアよ」
「はい。以前、空のことを口にしていましたよね。セイヤと、話をしてくれませんか」
静かに、でもはっきりと告げたソフィア。
アデルは彼女をじっと見つめ、俺のほうを向く。
「空の、太陽の光を浴びたのだったな。私も記録と、コロニーの代表者から聞いた話ぐらいだ。地上への穴から、スターレイ以外が落ちてこなかったのは幸いだ。何せ……地上は人間の住める場所ではないと聞く。少なくとも、地下に逃げ込む直前までは」
周囲は騒がしく、アデルの衝撃的な言葉は俺たちにしか届かないのだった。




