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空を目指して走れ~地下ロボ闘技場でトップランカーを目指す俺の記録~  作者: ユーリアル


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MMW-182


 アデルと2人、コロニーに戻ったころには復旧作業が本格化していた。

 あちこちを人と物が動き回り、人の声や補修や解体、そんな音で満ちている。

 気になったのは、古い区画ほど意外と痛んでいないということだった。


「そりゃあ、当たり前だ。古い区画は、昔のをそのまま持ってきてるからな。ああ見えて、丈夫なんだ」


 疑問をリングにぶつけると、そんな答えが返ってくる。

 彼もまた、そんな作業の手伝いに出ているらしい。


 俺のほうは、衝撃的な出会いの影響がまだあり、うっかり失敗しそうなのでガレージで待機であった。

 リングやソフィアたちも、俺の様子がおかしいことに気が付き、そっとしておいてくれている。


 行ってくる、とリングは一言告げ、ガレージから出て行った。

 俺はそんな彼を見送りつつ、コンテナの1つに腰掛け、天井を見る。


『まるで子供、だったな』


(うん……ぎりぎり大人に一歩踏み出すかどうかってところだった)


 ベルテクスのもとに無事帰還したあの日。

 アデルと共に機材らを運び込み、流用に問題ないことが確認できた。

 彼に、そろそろ知っておくべきかなどと言われ、案内された先はコロニーの秘密。


 眠り続ける、代表者の部屋。

 建物の地下にあるそれは、巨大なメタルムコアが鎮座していたのだ。


「これは……」


「機械虫の住処で見たものと似ている、かね? 本質は近いのだと思う。地上では、化石燃料という有限の資源を燃やし、電力を生み出し、ウニバース粒子ではない力で多くの機械を動かしていた」


 兵器までも、とベルテクスは告げ、俺が見続けるそれをなでた。


 コアにくっつくように設置された容器のようなもの、その中に人が眠っている。

 知っていたのか、表情の動いていないアデル。

 対して俺は大きく表情が変わったのが自分でもわかる。


 唐突に話し始めたベルテクスの顔は、コアたちからの光で照らされ、無表情にも見えた。

 その顔を見たとたん、俺は彼も現状に納得していないことを知る。


「ウニバース粒子は、元々は地上にはなかったそうだ。記録によると、宇宙……空のさらに外、星の外から降ってきた何かがきっかけで、星に満ち始めたのだという」


「そんなことが……じゃあ、結構新しい技術ってこと?」


 ほかのあれこれと比べて、メタルムコアをはじめとした技術と、それまでの技術の差を口にする。

 思い付きのようなその感想は、頷きにより肯定された。


 結局のところ、人間はそう簡単には賢くはなれなかったのだ。


「そうなる。新しい知識、技術、力は人類に刃を与え、理不尽や不便を切り裂き、繁栄していった……かに見えた」


 え?と疑問が顔に出ていたのだろう。

 俺のほうを見て、ベルテクスは薄く笑った。


「ウニバース粒子は、すべてに浸透した。そう、すべてだ。まるで最初からその星にあったかのように、当たり前になってしまった。すべての物の手に、力が宿ってしまったのだよ」


「今でこそメタルムコアがあるが、昔は何がコアになるかわからず、事故も多かったそうだ」


 それは、怖いことだと思った。

 メタルムコアは、宝石などをまさにコアにし、力をうまく引き出す仕組みだ。

 でも、宝石と一口に言っても、きらびやかなものでなくてもよい。


 それこそ、石なら透明でなくても代用可能なのだ。

 最悪、そこらの岩石でも……不可能じゃない。


「人同士の戦争も多発し、環境は破壊され、人は逃げ場を求めた。多くは宇宙、他の星に逃げることを選び、そうでない者は地下へ。その後は君も知る通りだ」


「待ってよ。ってことは、地下世界に逃げ込んだ人類の子孫、まあ俺は作られたわけだけど。ともあれ俺たちは逃げ遅れた少数派ってことだよね」


 否定は、されなかった。

 じわじわと、恐怖がせりあがってくる。


 夢が、否定される感覚。


「そこは問題ない。単に、今の地上は人が繁栄していくには不便すぎるだろうというだけのこと」


 予想ではあるが、と前置きしてベルテクスが語る地上。

 それは人類がいなくなった地上がどうなっていくかという代表者たちの残した予想だった。


 地上を休ませる形になり、いつの日か人は地上で暮らせるだろうという未来予想図。


 ウニバース粒子に満ち溢れ、何をするにも力が半ば暴走し始める空間。

 それが、地上全土に広がっているだろうという予想。


「それがいつ落ち着くかはわからないが、それまでは様子を見るのはともかく、地上に戻るのは不可能だろうな」


 ベルテクスとアデル、どちらが言ったのか覚えていないその言葉が、今も俺の中に響いていた。



『地上で暮らすことが、夢ってわけじゃない』


(そう、だよな……)


 静かに響いたその声に、コンテナに座ったまま拳を握りしめるのだった。



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