MMW-166
「それでは管理者セイヤ。機械獣、拠点制圧仕様を中心に40機、譲渡完了となります」
「ん、ありがとう」
短く答えながら、内心では人形からの期待?に少しドキドキしていた。
言ってはみたものの、こんな完璧に戦力の提供が得られるとは思っていなかったのだ。
『いや、彼らは彼らの設計に従って協力しているだけ、そう思っておいたほうが気楽だぞ』
(そうは言ってもねえ)
きっと同じような経験をいくつも味わってきたのだろう。
なんでもないように言ってくるプレストンに答えつつ、機械獣たちを見る。
大きさそのものは、コロニーで留守番中の個体とそう変わらない。
明確な違いは、やはり武装と体躯だろうか?
長期間の行動に備え、最大出力は低いが、周囲のウニバース粒子を効率よく取り込むコア。
それを運用し、行動できるAI。
そして、エネルギー武装と物理的な爪による装備たち。
「出力に関しては、やはり実際の生き物でないため、高くありません。指示を的確に行うことで、カバーできますのでご注意ください」
「そうなんだ……了解」
視線の先にいる機械獣は、MMWに乗っていないと迫力満点。
見上げるほどの体躯は、金属らしく光っている。
静かに並んでいる姿は、まさに命令を待つ兵士。
見た目は光の海で見た、大地を駆ける動物とかいうのにやっぱり、似てるね。
人間は自然に学ぶのに、自然を自由にしようとしたっていうのが、個人的には謎だ。
(なんだかんだ、どうにもならないのが自然なのにね)
俺は地下世界というか、今の場所しか知らないけど、それでも厳しい環境だというのはわかる。
知識としてだけなら、教育や光の海で見た光景なんかはあるけど……。
明るくない世界、地下にしかない水、どこか埃っぽい空気。
多くの人が、コロニー内での生活を良しとするのもわかる気はする。
「よし、セイヤ。上と下、どっちで戻る?」
「うーん。指示の練習がてら、俺のほうは上かなあ。でも全員が危険に飛び込む必要もないからね」
特にエルデと赤ちゃんたちは、安全なルートのほうが良いと思う。
ソフィアはついてきたそうだったけど、最近は襲撃がほぼないという情報に、どうにか説得されてくれた。
彼女らが地下通路に進むのを見送り、俺は40機の機械獣の前にMMWで立つ。
決まった周波数の無線に、ウニバース粒子を乗せて管理者権限で語り掛ける。
10機ごとに分かれ、俺を中心に進む。
「光の海で見た、軍隊ってやつみたいだね」
『ああ。命が失われない軍隊、そして命の重さが軽くなっていく軍隊だ』
言葉の外にある意味が、俺の中にしみ込んでくる。
魂?が同じ俺とプレストンならではだ。
そうすることで、彼の懸念が正しく俺に伝わり、気を付けようと思うのだ。
人が乗っているMMWのように、損傷を躊躇するのは良くない。
逆に、MMWに対して機械獣にそうするように軽く見てはいけない。
そんな、決まりごとのような何かが俺の中に構築されていく。
『とりあえず、どんどん進もう』
「そうだね。遅れてもマズイ」
障害物のない地下通路と違い、上は地形の問題もあるし、襲撃もあるかもしれない。
警戒はしつつ、駆ける獣の横をホバーで高速移動を続ける。
ドーンスカイの動きについてくる機械獣の速さに驚きつつも、地形を半ば無視して進む。
浮いている俺とは違い、その四肢で柔軟に対処していく機械獣。
空を飛ぶ機械虫とは別の意味で、便利だなと感じる。
そりゃ、MMWとセットで運用することで、強さを発揮するわけである。
「地上での戦い、戦争ってさ。案外最終的には無人機、こうした機械獣ばかりだったりして」
『あり得る……な。なんなら、地上には機械獣と機械虫しかいない可能性もある』
「それは……やだな」
冗談で言ったことが肯定され、どこか怖くなりながら進む俺だった。




