MMW-163
希望の穴。
ベリルとコランダム、2つのコロニーの中間ほどにあった施設の集まり。
地下世界に人類が逃げ込み、復興をするための足掛かりの1つ。
なんでも、道中の調査で資源が見つかったちょうどいい場所だからとのこと。
そのためか、施設のそばには採掘用の穴が広がっている。
地上のように雨が降るような状況だと、いつか困るような掘り方である。
「こっちにはジオードは埋まってないんだね」
「いただいた記録にある天然コアですね。おそらく、火山側を探せば見つかるかと。あれは推測ですが、溶岩による空洞へと、地下の熱水が入り込んでできる物ですので」
「そうなんだ……確かに、あっちに行くほどありそうだ」
人形の案内を受けて進みながら、視線はベリルコロニー、その方向にある火山に向かう。
雨は降らないけど、地下水はあるこの世界。
問題は、飲めない地下水も結構あることだ。
人類にとって、残せた設備にそういうフィルター?の工場が含まれていたのは幸運だったのだろう。
「機械獣の工場自体は、増設できています。要望に対応していくことで、より洗練された形へと。運搬用を主に、自衛能力も高まっています。最大出力は控えめですが、周囲の粒子を取り込めるタイプが遠征にはよいでしょう」
すっかり人間臭くなった人形は、そう提案してくると映像を見せてきた。
確かに、見た目もより洗練された感じの機械獣たち。
戦闘用の見た目のも入れば、何かを引っ張るのに適したもの、背中にコンテナが乗せられそうなもの、と様々だ。
俺は各10機程度を依頼し、生産を待つことにした。
なお、人形との交渉は俺に一任され、ついてきたソフィアたちは一緒に受けた仕事の処理をしている。
「管理者、1つ提案があります」
「ん、何? って……こっちにも教育のやつ、あるんだ」
もう1機の人形が運んできたのは、ヘルメット。
コロニーで教育に使っているのと同タイプだ。
わざわざ持ってきたということは、だ。
「はい。戦闘したという別勢力の人類、それに機械虫。かつての地上でも、人類は……争っていました。その情報を得られるかと。申し訳ありません。我々を作った側は今の管理者に近く、運用はどの勢力で行われるかわからないので、最近まで封印されていました」
淡々と告げてくる、なぜ今になったかの理由。
それはそうだろう、と思う俺。
コロニーにもいろんな人がいるように、人類もそうだったに違いないのだ。
『苦労して地上を目指すより、地下で安定を、ってのもダメな考えじゃないからな』
プレストンに頷きつつ、ヘルメットを受け取る。
あちこちにある個室の1つに入り、電源を入れ、椅子に座ってかぶる。
ふわりと浮くような感覚の先に、俺の意識が飛ぶのを感じた。
飛び込んできたのは、青。
すぐに、地上の空としての青だとわかる。
人口太陽とは比べ物にならない天上の輝きと、それを切り裂くような飛ぶものが見えたからだ。
人が乗るものではなく、殺意の飛翔体。
MMWの使う武器のそれを大きく、殺意をマシマシにしたような長細いそれは、無数に飛んでいた。
戦争、という単語が頭に染み、知識として展開されていく。
人は、地上で争っていた。
映像が切り替わり、戦場も変わる。
MMWを生身の歩兵のように使う、大規模な戦争。
ぶつかり合う機械群の片割れに、機械虫が混ざり始めていた。
暴走? 必然? そんな単語が浮かんでくる。
ヘルメットが告げてくる知識は、困惑に満ちていた。
ウニバース粒子の裏切り、人類の失敗。
どうやら、人類はウニバース粒子を自分たちのためだけに使いすぎたようだ、という話。
水源を独占すると枯れるように、粒子も偏り、反動が来た。
「粒子は機械虫を使って……取り戻したかった?」
長いような短いような時間。
意識の戻ってきた俺がつぶやいたのは、機械虫の最初の目的。
正確には、機械虫を介して表面化した粒子の意思。
人類に、自分の使い方を思い出してほしい、共存してほしい。
意思が、意識があるのかは不明だけどそんなところだ。
しかし、今の機械虫は地下にもいる。
それはつまり、どこまでやったら取り戻したことになるかのラインが無い?
「会話が……できるのかな」
「わかりません。しかしながら、管理者はそれができるように設計されたと記録にあります」
「……そっか」
さらりと告げられる俺の、俺のもとになった人類のこと。
不思議と不快な気持ちにはならず、気持ちが落ち着いていくのだった。




