MMW-139
「セイヤ、俺と戦ってくれ」
一通りの試合を終え、懐も温かくなった日。
試合のせいで汗だくの体をそのままに、リングは真剣な表情で告げてきた。
俺と、戦う。
それ自体は、普段からやっていることではある。
けれど、今回は意味合いが違うのだろう。
「いつもやってるじゃん」
「いや、そりゃあそうなんだが……。できるだけ、尖りたいんだよな」
わかったうえで、少しとぼけてみる。
返ってきた答えは、少々予想外だった。
(普通に強くなりたい、じゃあないんだ?)
『ただ強い、では物足りないということだろう。どんな尖り方がいいかによるけども……』
プレストンもどこか困惑した様子だ。
なぜなら、リングは尖ってないのが強さだと俺は思っていたからだ。
俺のように、奇襲というか変な行動を普段はせず、単純に強い。
それが、勢いを取り戻したリングの強みだ。
遠近、あるいは動き回る機動戦もこなす万能性。
出会ったころは器用貧乏にも感じたそれは、今は1つの完成形にあると思う。
これが、さび付いていたのが戻ってきた……っぽいのが、この世界の怖いところだ。
何かがきっかけで駆け上がれるかもしれないし、転げ落ちるかもしれない。
「俺としちゃ、リングには今のままのほうが背中を預けやすいんだけど?」
「だろうな。でもな、俺はそれだけじゃだめだと思っている。先日の遠征だってそうだ。結局、セイヤに任せちまってる。あの場面は、俺だって前に出られたはずだ」
「いやー、さすがに何かあったらエルデに叱られるからそれは勘弁してほしいかな」
言いながら、納得する気持ちが広がるのを感じた。
つまるところ、リングも自分でいたいのだ。
俺が、ソフィアのためにそうありたいように。
「でも……んー、了解。じゃあ名目は調整で、新しくMMWを買うぐらいの勢いでぶつかろうか」
「ああ、短期間に強くなれるとは俺も思っていない。だから……確認、って感じだな」
ベルテクスも介入する試合は、連戦の後数日は間が空くことになっている。
名目は、お互いの戦力調整や研究である。
実際には、試合をしたい戦士をいかに絞るからしいが。
俺たちにとっては、ちょうどいい時間である。
今日1日でMMWがどうにかなっても、汎用機体を購入し、一通りの調整を行えばいい。
そのぐらいのことはできると、自覚がある。
MMWはそのぐらい、簡単に乗り換えや調整ができるのが強みである。
「そんなわけで、よろしくな。じゃあ2人……いや、3人を説得してから行くか」
「だね。いくら気心が知れた相手同士といっても、事故はあるかもしれないし」
別の部屋で過ごしているソフィアとエルデ、それに爺のもとへと向かい、事情を話す。
予想通り、そんなことしなくてもとは言われてしまうが……納得してくれた。
エルデへ、リングが告げた言葉が決定打になった。
曰く、セイヤに背中を見せてやりてえ、だって。
(別に今でも十分尊敬してるんだけどね)
『そんなもんなんだろう、戦士ってのはさ』
プレストンの記憶に、こんな光景はあったのかなかったのか。
答えは聞かずとも、嬉しそうな声の響きに俺も微笑む。
そうしてすぐに場所は確保され……。
「じゃ、区切りの時間は……10分毎でいいだろ」
「そうだね。長引くことはあまりないし」
威力だけは一応、かなり落としてのフル装備だ。
なぜか、リッポフ商会のスタッフと、フェイスレスがいる。
どちらも、開発の参考になるかもとかどこからか嗅ぎつけて集まってきたのだ。
ま、俺たちがちょうどいい装備がないか、どちらの販売も確認したからだろうけどね。
「ソフィア、合図よろしく」
「わかりました。2人とも、ちゃんと終わらせてくださいね」
言外に、事故で終わりにするなと告げるソフィア。
苦笑を浮かべつつ頷き、前に集中。
彼女の合図を聞くと同時に、まっすぐ正面に突撃。
至近距離で抜きざまのブレードは、同じように構えられたブレードにさえぎられる。
射撃は、いつでもできる。
何かに当てるのは、いつでも試せる。
でも……誰かと切りあうのは、こうでもしないと試せない。
「セイヤ、行くぜ!」
「やろう!」
短く答え、機体を走らせながらリングとの斬りあいを開始するのだった。




