MMW-120
「腕だけでも結構種類があるね」
「こちらは重量が軽いけれども、防御も犠牲に、別の物は……なるほど」
少し無理をさせた試合の夜。
ソフィアと2人、タブレットをにらめっこだ。
MMWのパーツだけでなく、様々な日用品も出品されている。
多くはリッポフ商会が噛んでいるけど、そうじゃない出品も目に入る。
最近の賑わいに乗じたような、知らない名前も結構あるね。
中には、中古とはあるけど……どう考えても壊れかけとかもあったり。
ちなみに、リングはエルデと赤ちゃんの様子を見に行っている。
すくすくと育った彼?は、そろそろ動き回りそうだという。
それが早いのか、遅いのかはわからないけど……健康なのはいいことだ。
「セイヤ、希望の穴での収入を使わなくてもいいですからね。アレは管理者としてのセイヤが自分のために使ってください」
「そうは言ってもなあ。俺だけが管理者じゃないだろうし、たぶん」
ソフィアが言うのは、希望の穴での税金みたいなものの話だ。
物資の提供の対価として、現時点での通貨を設定したのだ。
これは、向こうの人形?たちとも相談した結果。
(確か、タダで提供すると関係がいびつになるとか。今なら、わかるなあ)
『善意の奉仕は、いつしかそれが当たり前になり、感謝が薄れるのさ』
プレストンにも覚えがあるのか、どこか疲れた声が響く。
頭の中で、お疲れ様だねなどとつぶやきつつ、カタログを見る。
部位だけの買い替えは需要が大きいのか、見れば見るほど悩むほどだ。
そんな中の1つに、ふと目が止まる。
「欲望をつかみ取れ、か。面白いじゃん」
「どれですか? ああ……確かに。強気な文言に見合うような性能を感じますね」
そう、そのパーツは高い。
でも、記載されている性能は他と二回りぐらい違う。
何より、俺の興味を引いたのは……。
「思ったままに動く、配線処理もセット、ね。これはよさそう」
そうと決まれば、話は早い。
さっきの、希望の穴での収入を除いても支払いが可能なのを確認し、連絡を取る。
なんと、通信を送ってすぐに返事が来た。
ご都合のいい時に、いつでもと。
「俺が選ぶってわかってたのかな?」
「良い商売人はそういうところに強いと言いますからね。リッポフ商会が今回話を振ってこないのも、私たちの望むものはこの相手が持っていると推測したのでは」
頷きつつ、相手との商談をするべく場所と時間を決め……早い、本当に早い。
今からでもいいというので、向かうことにした。
指定された場所は、コロニーの中央に近い場所。
工場もないし、試合会場もない、無機質な建物が並ぶ区画だ。
「前に聞いた話だと、小規模の発掘品、施設を運用してるらしいですよ。中央から遠いと、監視が行き届かないからだとか」
「そんな場所が……」
俺の知らないことが、まだコロニーには多くあると感じる。
それも当然で、人類がその集団を維持できるだけの人口と施設があるのだから。
それにソフィアも、自分なりに戦っているのだとわかってうれしい。
忘れずにリングたちに買い物に行くことを告げ、2人で出かける。
車でたどり着いた先は、あまり人気のない区画。
事前にソフィアから聞いていなければ、謎だらけだったことだろう。
「ええっと、Cの278……これだ」
指定された建物の名前というか番号かな?を見、扉の前に車を止める。
一応、MMWの腕1本ぐらいなら乗せて帰られるような屋根のない荷台のトラックだったりする。
送られてきた開錠キーを扉脇のコンソールに打ち込み、開く。
そうして、中にいるであろう相手を見……え?
「やあ、しばらくぶりだねえ」
中には、何人かの知らない人と、私服のフェイスレスがいた。
ソフィアと2人して困惑している間に、フェイスレスが何やら小さいタブレットを差し出してくる。
「何々……ええ? フェイスレス、商人だったの?」
「表じゃ、一人を通してるけどね。重役の1人ってとこかな。戦士セイヤ、君の活躍を見て、自分にはほかの力もある、もったいぶってる場合じゃないって思いなおしたのさ」
そう告げるフェイスレスは、笑顔に感じた。
怪我の後遺症で、表情が変えられないフェイスレス。
けれども、今の彼はとても感情豊かに見える。
「さ、まずはパーツの詳しい説明からだ。座って」
「え、ええ……」
驚いたままのソフィアを促し、座る。
俺も気持ちが落ち着かないままだが、フェイスレスの説明を聞くことにしたのだった。




