MMW-112
コロニーの中心地への道では、いきなり問題にぶつかった。
敵襲ってわけじゃない、ある意味予想外の問題。
目的地は、親玉のすぐそばだったけど、そのまま突入とはいかないことがわかったのだ。
当然といえば当然だったのだけど、建物は人間サイズだった。
ここからも、機械獣が人間、あるいは人間を想定して作られた存在だとわかる。
「MMWじゃ通れないね」
「そのようだな……」
止まったといっても、いきなり再稼働するかもと、周囲を警戒しながらの観察。
普通なら、ここでMMWやトラックから出ようと思わないだろう。
普通なら、ね。
(誰かが行くしかない、そういう場面だ)
何度目かのその覚悟を胸に、一人頷いて外に出た。
「セイヤ!?」
トラックのスピーカーから聞こえる悲鳴。
ソフィアに内心謝りつつ、建物へ1歩、2歩と進む。
そうして人間サイズの扉の前に立ち、手早く周囲を観察する。
すぐそばに、動きを止めた親玉の機械獣がいるのは、さすがに落ち着かないが。
『カードキーでも、番号打ち込みでもない……そこ、右側にあるコンソール。指をあてる部分がないか』
(ほんと? うん、何かある。これか……)
ちょうど胸元ぐらいの高さにあるコンソールの蓋を開くと、透明な板のようなものが出てきた。
少しのためらいの後、指を押し当て……チクリと指が痛む。
『大丈夫だ。人間かどうかを確かめているんだ』
(整備もなしで、その仕組みが生きてるんだ?)
そんな俺の驚きをよそに、すぐに反応があった。
わずかな砂煙を上げつつ、扉が動き始める。
見えてきた中は、広く、そして色々と設置されているのがわかる空間だった。
問題は、ここから俺1人かどうかだ。
と、にわかに後ろが騒がしい。
まさか機械獣が再び?と思って振り返ると、すぐそばにソフィアが来ていた。
「ソフィア、危ないよ!?」
「セイヤだってすでにいるではないですか。それに、トラック程度では危ないのは一緒だと思いました」
「それは、そうかもしれないけど……」
そうこうしてるうちに、ベリルコロニーの人員も数名、降りてきた。
さすがに俺たちだけに行かせるわけにはいかないと判断したんだろう。
戦士たちには、機械獣以外の何かが来る可能性も考え、すぐ外で待機してもらうことに。
戦いに関しては、アデルがいるから大丈夫だろう。
というか、彼はこういう探索は好みではないらしい。
「では、行きましょう」
「さすがに前は俺だよ。ソフィアは後ろね」
「……はい」
不満がありありって感じだけど、何があるかわからない以上、これはゆずれない。
準備しておいた灯りを手に、建物へと入る。
そこは半分見覚えがあり、半分見知らぬ空間。
やはり、コランダムコロニーとベリルコロニー、どちらとも技術的な根本は同じようだ。
どことなく見覚えのある設計に感じる。
それは同行者たちにとっても同じ感想なようで、戸惑いが見て取れた。
『あるとしたら、建物の中央。万一のコアの暴走に備えて、厳重な区画があるはず』
プレストンの助言を聞きながら、人間サイズの何かが飛び出てこないかを警戒して進む。
物陰に何かいてもいいように……。
「下がって!って……なんだこれ」
「防護服、だろうね。幸いにも使ったことはないけれど、見たことがある」
同行しているベリルコロニーの人員がつぶやく。
彼が言うには、ガスのようなものだけじゃなく、暑さ寒さにも強いのだとか。
見た限りでは壊れた様子はなく、単にここにある備品のようなものなのだろうか。
(使う人間はいなかったってことかな?)
実際、恐ろしいほどに人の気配がない。
正確には、人がいた気配、痕跡が全くない。
「最初から、人間が1人もいない……いや、生き残っていないって感じか」
「でも、ここがどんなものか、知っていましたよね? 記録が残ってるんでしょうか」
ソフィアの言うように、少なくともベリルコロニーの上層部はここのことを知っている。
施設がある、までは外からわかるとしても、どんな場所かもだ。
『それは簡単な話さ。人類が地下世界に逃げ込むとき、いくつかのグループに分かれて避難した。その時、ある程度は専門で固め、リストにしてあるのさ』
(バランスよく割り振るより、どうせ合流するならそのほうがいいってことか)
なんとなく、かつての人類の意図が見えてくる。
そして、それが失敗したことも。
コロニーとなった集団は、本当ならひとまとめになる予定だったのだ。
それが失敗し、いびつな形で各コロニーになった。
足りない技術があると思えば、妙にその技術だけ高レベル。
コランダムコロニーと、ベリルコロニーの違い、その理由はそんなところにあったわけだ。
「戻ったら、聞いてみよう。もっとも、すぐわかるかもしれないけど」
俺の視界に、目当ての区画が見えてきた。
頑丈そうな、壁。
間違いなく、メタルムコアのある特別な区画だ。
そのそばには、コロニーのあれこれを操作する特別な場所もあるはず。
「さあて……何かいるかな?」
同行者とタイミングを合わせ、その区画へと入る扉を探し始めた。




