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ラブラブイチャイチャデート②

 九月二十日。日曜日になった。


 よく、他人の目を気にせず、公共の場でイチャつく連中がいるが、一体どんな神経をしているのだろうと常々思う。


 恥ずかしくはないのか? 偶然、親や知り合いと遭遇する可能性は考慮してないのだろうか。もしかして、他人の負の感情を煽って楽しんでるのか? だとしたら、最低だな。カップルには税金かけた方がいいんじゃないの? その方がこの国も潤うだろ、などと思っていたのだが。


 その前言は全て撤回する。

 だって、現在、俺が心の底から羨ま──嫌悪していた連中と、同様のことを公共の場で行っているのだから。


「はい、あーん」

「あーん」


 昼下がりのレストラン。

 心地のいい店内BGMが流れる中、一切気は休まらないまま、桜宮先生からハンバーグを食べさせてもらう。


 言っておくが、俺の手が負傷しているわけではない。かといって、俺と桜宮先生が本当に付き合い出したわけでもない。


 これも全て、桜宮先生の婚約者という設定を貫き通すためだ。


 遠巻きから、露骨なまでの視線を感じながら、そちらには一切気付かないフリをしつつ、俺は全力で桜宮先生とイチャついていた。




 〜〜〜



【綾瀬楓】



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ、はは‥‥‥なにあれ」


「き、きをおとさないでください。おねえちゃん!」


 最近、あたしの従兄弟──瀬川湊人ことみーくんの様子がおかしかった。


 これまで、休日に出かけることなんて滅多になかったのに急に出掛け出したり、帰りが遅くなったり。


 まるで、こ、恋人が、できたみたいに‥‥‥。


 だから、あたしは今日、みーくんの尾行をしていた。みーくんの変化の原因を突き止めるためだ。

 そしてその結果、みーくんのカノジョと思しき人物と一緒にいるところを発見した。


 お昼ご飯はレストランで、お互いに、あ、あーんして食べさせあったり、馬鹿みたいな距離感で写真を撮りあったりしてたし。

 その後は、一緒に洋服屋さんに行って、イチャコラと談笑していた。そして現在、どこかへと向かっている最中だ。ベタベタとイチャつきながら。


 公共の場で、みーくんとイチャイチャするとか、なんて羨ま──う、羨ましくなんてないんだからね⁉︎ いや嘘だけど。ホントは滅茶苦茶羨ましいけど。


 思わず、血涙を流しそうになるあたし。

 どうにか堪えていると、あたしに付いてきてくれた妹のシィちゃんが、心配そうに見つめてきた。


「ま、まだつきあってるときまったわけではないです。きぼうをすてないでください」


「いやいやどこをどう見ても恋人でしょ! あれは! 検討する余地もない! 散々確定演出出ちゃってるじゃん⁉︎」


「あんまりおおきいこえだすと、ミナトにいにきこえます」


「わかってるよ。うぅ」


 物陰に隠れつつ、あたしは恨めしそうにみーくん達の様子を眺める。


 こんなことなら、もっと早く告白しとくんだった。今更後悔しても遅いけど。


 でも、従兄弟に告白するのって、相当難易度高いんだからね。法律が許してくれても、ハードルの高さが異様に半端じゃないから。い、言い訳じゃないんだからね? 


「てか、どうして‥‥‥あたしの見立てだと、あの人、結構歳いってる気がするんだけど。みーくんって、歳上が好きだったの?」


「シイナにきかれてもこまります」


「‥‥‥くぅっ、手繋いで腕密着させちゃってさ‥‥‥う、うぅ‥‥‥こ、これがNTR(寝取られ)ってやつ、なんだ‥‥‥」


「あわれです、おねえちゃん」


 あたしに同情していると言うよりは、恋人ですらないただの従姉妹の分際で、寝取られだなんだと口走っていることを憐んでいるようだった。


 シィちゃんの憐憫に満ちた瞳が、グサリと胸に突き刺さる。あたし、惨めすぎる。


 と、いよいよ精神的に参ってきた時だった。


 サッサッと、足音が近づいてくる。みーくん達ではない。


 振り返ると、そこにいたのは──


「‥‥‥ッ」


 不審者だった。


 日常生活において、まずお目にかかれない高価な和服に身を包んでおり、マスクに帽子、サングラスを付けて顔を隠している。怪しさ半端じゃない。


 咄嗟に、シィちゃんを抱き寄せ、身を引く。


「あの、失礼承知でお尋ねしてもいいかしら?」


「ひゃ、ひゃい‥‥‥」


「そちらも、あの二人を尾行されてる最中かしら? もしよかったら、ご一緒してもいい?」


「えっ」


 あたしの人生の中で、そんな奇天烈な質問をされる日が来るとは思っていなかった。


 まぶたをパチパチさせつつ、状況把握に時間を要する。


 つい、言葉に詰まってしまうと、シィちゃんが先に口を開いた。


「おそらく、ミナトにいといっしょにいる、おんなのひとのおかあさんです」


 なるほど。そう言われると納得できる。


 あの二人を尾行する目的があるならば、どちらかと関係がないとおかしい。


「湊人くんの妹さん達って解釈でいいのかしら?」


「従姉妹です。私も、この子も」


「あら、そうなの。私は、湊人くんの隣にいる彼女──桜宮由美の母です。清香(きよか)って、呼んで」


「は、はぁ。清香さんは、どうしてそんな格好を‥‥‥」


「尾行なのだから、バレると問題でしょう?」


 結果的にバレるリスクを高めているのだけど。天然なのかな。


「周囲の視線集めるので、サングラスもマスクも外してください」


「あら、そうなの? わかったわ」


 物分かりよく、あたしの言うことを聞いてくれる。そして、マスクとサングラスを外した清香さんを見て、あたしは唖然とした。


 滅茶苦茶美人だ‥‥‥。


 歳を感じさせない若々しさ。女優かと疑うくらい肌も容姿も綺麗だった。


 この人が母親って‥‥‥もしかして、みーくんの隣にいる女性も、相当美人なんじゃ──。


「あ、げーむせんたーにはいりました」


 あたしが、呆然としていると、シィちゃんが指をさして報告してくる。

 みーくん達はゲーセンに行ったらしい。


「私たちも急ぎましょうか」


「え、ええ、そうですね」


 気がつけば、一緒に尾行する流れになっていた。許可は出してないんだけど。


 ともあれ、今はそれを気にしてる場合じゃない。

 あたし達は、みーくん達の後を追うべく、ゲーセンの中へと突入した。

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