体育祭
体育祭。
梅雨を目の前にした初夏の日差しの中で、私たちは運動に精を出すことになった。
私はスポーツは得意な方で、二人三脚とリレーに出ることになっていた。
つき子さんは200m走とリレーのアンカーで、思っていた通りスポーツも万能なのだった。
「香蓮ちゃん、がんばってねぇ。」
赤い鉢巻き靡かせながらスタート地点へ移動していると、のんちゃんが観客席から手を振る。
私はのんちゃんに手を振り返して、頷いた。
クラスに貢献できるように、……つき子さんにみっともない所を見せないように、がんばろう。
「櫻宮さん!」
二人三脚の準備をしていた私に、クラスメイトの桂さんが駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「あなたと組むことになっていた田崎さん、急な腹痛で保健室に運ばれたの。」
「ええっ!?」
「代わりの人を見つけないといけないのだけれど……主要なメンバーは出払っているの。」
どうしよう。
私はしゃがみ込んだ。
相手が居なければ、棄権する事になる。
クラスの、……つき子さんの合計点を、引く事になってしまう。
「櫻宮さん。どうしたの?」
凛とした声にはっと顔を上げると、つき子さんが心配そうに眉根を寄せて私を見下ろしていた。
「清水さん……。」
私は混乱しながらも事の経緯をつき子さんに話した。
「二人三脚の相手が急病?……仕方がないわね。」
つき子さんは溜め息をつくと、
「私でよければ一緒に走るわ。」
私の手を取って、起き上がらせた。
つき子さんの、手。
滑らかで温度の低い、ほっそりした手。
しっかりとした手つきで私を握り、導いてくれた。




