No.555 真実の愛
定期失踪の疑いで逮捕されている容疑者はFate/staynightやゆずソフト新作やら物語シリーズを1から読み返しに勤しんでいたと供述しており———————
「お待たせ。見た感じ大丈夫そうだな」
「ここまでは一度ルートも開拓しているし、ギミックも知っているから難易度は下がっていた」
城内攻略開始から1時間と少し。
少し開けた研究室の様の部屋でアサイラムは合流した。
「ここから、いよいよ奥のエリアか。まだ金の騎士とかウェディングドレスに類する物は見つかってないんだよな?」
「今までの女王の傾向ではどちらも女王に近い部屋で確認されている。黒の女王も同じだと考えられる」
「で、ここがその疑いありの部屋か」
ヌコォが指差した先には、実験室の様な場所の奥。
漂う煙と汚れ、暗さと黒い壁のせいで見にくいがそこにはスライド式の扉があった。
「感知スキルで何かがある事はわかるけど、変な反応をしている。十分に警戒は必要」
「ふーん……」
偵察や感知ならグレゴリにさせたいが、グレゴリは強力な代わりに直接見えていないと精度が一気に落ちる。
「全員ちょっとは休憩できたな?じゃあ開けるぞー」
迷っていても仕方ない。そう判断したノートは召喚した死霊にドアを開けさせ、即座に中に突撃させる。
「……?何も起きないのか?」
だが、突撃させたスケルトンに特に反応は無い。
グレゴリに覗き込ませて視界共有してみると、そこは真っ暗な部屋だった。
「いや違うなこれ」
そこでノートは異常に気付いた。
グレゴリの視界越しでも真っ暗なのはおかしいのだ。
グレゴリは放置していても自主的に真っ暗な部屋で過ごすのを好むくらいには暗視能力が高い。そのグレゴリの視界でも真っ暗に見えているということは、この闇はただ暗いだけの黒ではないのだ。
「(当たり前だが、全部が全部同じではないよな)」
赤も青も大枠は同じだが、差異もある。
この部屋もその差異が顕著に出ているパターンなのだろうと判断する。
とりあえず追加でアンデッドを送り込むも一切反応無し。光る苔で作られたランタンを投げ込むも闇に飲まれて消えた。
「はいっちゃおうよリーダー!」
「JKにさんせー!」
ノートが慎重過ぎる猫の様に色々と試していると、元気なJKとツナは明るい声で突撃を提案。同じく調査をしていたヌコォに視線を送ると、ヌコォは頷いた。
「もう少し調査したいけど、時間をかけていると新たなアンデッドが湧いてきて悠長に調査していられなくなる可能性はある」
「しゃーなし。トラップハウスってわけでもないし、入るか」
アサイラムメンバーは黒の女王対策で用意していたガスマスクを装着。恐る恐るその部屋に入っていく。やがて全員が入るとピシャリと後ろで扉が急に閉まる音。
アンデッドに周囲を守らせ警戒していたものの、目の前が指先一本分も見えない中でそんなことをされたら反射的に振り返ってしまう。
そこでノートは言葉は失った。
そこにはユリンらしき人がいた。近いが背格好が明確に違う。それがヌコォやらネオンやらと女性達の姿に近づいては変わる、まるで迷っているかの様に。スピリタス、トン2、鎌鼬にも見えるし、たまにゴロワーズにも見えなくはないがハッキリしない。
なんだコレと思いつつ、仲間ではない事は確かなのでノートは魔法で攻撃する。同時に周囲から動揺やら悲鳴みたいな声が聞こえて、ノートが咄嗟に飛び退くと部屋の闇が晴れていった。
まだ濃い霧の中にいるみたいだが、グレゴリの視界越しなら少しわかる。人によって後ずさったり攻撃したりと反応が違う。
「闇雲に攻撃するな!フレンドリーファイアを起こすぞ!」
目を皿にして異常を探す。
敵にしては攻撃性が薄い。ギミック型と直感したノートは部屋の隅に黒い何かが積まれているのを見つけてそちらに魔法を放つと、部屋に満ちていた闇が薄れていった。
「なんだったんだ?」
そこにあったのは黒いウェディングドレスの残骸だった。色んな装飾がたっぷりとついていなければ暗闇の中ではわからないほどに黒いドレス。
ゴースト系だったのかドレスに取り憑いていた付喪神型だったのか。ノートはよくわからんと思いつつその残骸を拾い上げて皆の方を向くと、皆の様子が変だった。
「どうした?」
とりあえず皆の中で1番平然としていた鎌鼬に声をかけてみる。
「貴方が見えたわ。偽物だったけれど」
「ん?そういう幻覚?」
敵を味方の様に見せる幻覚は他の女王が既にやっている。何を今更と思ったが、その考えは次の鎌鼬の言葉で消える。
「それが口説いてきたのよ」
「嗚呼、そういう……」
それだけでノートは察した。思ったよりも先程の幻覚が悪質な事に気付いた。
「因みに鎌鼬が平然としているのは?」
「直ぐに違うと分かったからよ。だって貴方、私にあの手の甘い言葉を言う時は必ず耳元で囁、い、て…………」
言いながら盛大に自爆した事に気付いた鎌鼬はみるみるうちに顔が赤らみ、ノートからそっと目を逸らした。コレは後で2人きりの時にいじってやろうと決意しつつ、今度はその近くでどう考えても薙刀を振り下ろした姿勢で未だ警戒中のトン2に視線を向ける。
「のっくんの音しないから偽物だってすぐわかったんだよね〜、違うな〜って」
「それはゲーム側が想定してない解答だと思うが、結果オーライか?」
「真実の愛だね」
「…そうですね」
ここで変に答えると拗れると思ったノートはトン2の冗談めかしつつも真剣さが滲む言葉に真面目に答えると、同じく攻撃態勢に移っていたユリンも頷く。
「概ね真似はしてたけど細部が微妙だったよねぇ。にぃにはもっとこう、予想外の方面から斬りかかるみたいな……何を言うかもう少し聞いてみたくはあったけどさぁ……」
口説き方に採点して、赤点を付けつつ普段は聞けない感じの言葉が気になったと悪びれもなくユリンは言う。
「ヌコォは、即座にシルクで攻撃したのか」
「最初に部屋に入った時と兄さんの立ち位置が違うから偽物と判断した」
沈着冷静。そもそもノートが口説いてきたとか関係なく、指揮官としてヌコォは選択をした。
ヌコォは言葉で心を動かすタイプではない。親族故に半端に甘い言葉をささやかれても嬉しいよりも少し面白みが先に来るし、そんな自分にはそんなことをしないと断じることができる。故に一切の躊躇いがなかった。
「あぅ、あっ、えっと、その…………」
一方で冷静でいられなかったものも当然いるわけで。
メンタルに負荷がかかる状況にはアサイラムでの経験を通して慣れているが、プラスの方面にかかる負荷に関しては訓練していないため、ネオンにはかなり刺さったようだ。ノートの顔を見るとほんのりと赤らめて気まずそうに目を逸らす。
「なんて言われた?」
「あ、それは、二人きりの、時で……」
ノートが顔を近づけて小声で問うと、ネオンは首を竦めて囁き返す。
この場でいう事を避けつつ、二人きりなる時間を要求するという天然甘え上手に対し、ネオンからもちゃんと聞きだしてやろうとノートは心に決めた。
「Hey, guess what!アタシはね、パピーちゃんが見えたよ!」
「なんか言ってた?」
「うん、でもパピーちゃんが言わない感じの言葉だったから絶対に違うなって思った!」
「自己申告ありがとう」
JKはノートが聞く前に自分から駆け寄ってきて報告をした。
このJKの報告のおかげで先ほどの暗闇が何を見せるギミックなのか絞り込めるようになってきた。
そうなると、ノートでもどんな人物が見えたのか予想しにくい相手に聞く必要が出てくる。
「私は……スピルに近いようにも見えたが…………はっきりはしなかった」
エロマの申告。一瞬アレ?そっちの気が?とも思ったが、プロファイルでもノーマルそのものであるし、エロマ本人は全く照れていないし、むしろかなり困惑した様子。そのあと本人もこのままだと誤解を招くと思ったのかより詳しく報告をしたが、姿が移り変わって言葉も良く聞こえなかったらしい。これはノートに近いパターンと言えた。




